この資本政策は、会社が資金を欲しがる一方で議決権は配りたくないという、上場した創業家企業がしばしば抱える緊張を、制度の設計として正面から扱った例にあたる。伊藤園自身が挙げた目的は資金調達手段の拡大と株主への新しい投資対象の提供であり、支配権の維持を掲げてはいない。それでも、議決権のある株式を1株も増やさずに自己資本を厚くできる仕組みであった以上、創業家が経営を担い続ける体制と両立させる意味を持っていたのだろう。
市場が返した答えは、設計者の想定とは違っていた。配当を25%上乗せしても、売買の薄い株式は普通株式より2割から4割安く評価される。議決権の値段を測る実験のつもりで作られた株式が、実際には流動性の値段を測る結果になった、と読むこともできる。無議決権株式による資金調達は、上場企業の資本政策として繰り返し議論されてきた論点である。伊藤園が20年近く抱え続けてきたこの銘柄の値動きは、その議論に対する具体的な素材を残しているといえる。