RMBキャピタルの委任状争奪戦を退け、自前の大江体制で防戦した2020年の攻防

バーバリーを失って赤字が続くアパレルの取締役会を、現経営陣が握るのか、物言う株主が推すプロ経営者が握るのか

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時期 2020年5月
意思決定者 三陽商会 取締役会 中山雅之社長
論点 取締役会の刷新をめぐる委任状争奪
概要
2020年5月26日、三陽商会は定時株主総会で、大株主の米アクティビストRMBキャピタルが求めた経営陣の全面刷新案を否決し、大江伸治副社長を新社長に昇格させる自前の人事案を可決した。バーバリー喪失後の連続赤字を背景に、取締役会の主導権をめぐって物言う株主と現経営陣が委任状を奪い合った攻防である。
背景
2015年のバーバリー独占ライセンス喪失後、三陽商会は最終赤字を重ね、社長が短命で交代していた。約6%を握るRMBは現経営体制を「甘すぎる現状認識」と批判し、責任の明確化と経営の刷新を迫っていた。
内容
RMBは2020年3月末に株主提案を提出し、中山雅之社長ら生え抜き取締役の全員辞任と、マッキンゼー出身でクラシエ社長を務めた小森哲郎氏を軸とする取締役候補7名の選任、会社売却の検討を求めた。三陽商会は実現可能性の欠如と利益相反を理由に反対し、大江伸治氏を社長に据える再生プランで対抗した。
含意
総会では会社提案が賛成多数で可決され、RMB案は否決された。三井物産・八木通商など主要株主の支持を固めた現経営陣が主導権争いを制したが、来期の黒字化には株主から厳しい目が向けられた。
筆者の見解

退けた提案が残した規律

この攻防の中心にあったのは、赤字を止められない会社の取締役会を誰に委ねるか、という問いであった。現経営陣は自前で招いた外部経営者の大江伸治氏を掲げ、RMBは生え抜きの一掃と別のプロ経営者への委譲を求めた。双方がそろって「外部の経営者による立て直し」を掲げた点に、この争いの特徴がうかがえる。争点は改革の要否ではなく、その舵を握るのが現経営陣か物言う株主かという、主導権の所在にあった。

提案が否決されたことをRMBの敗北とだけ読むのは、事の一面にとどまる。委任状争奪戦を経て社長に就いた大江氏のもとで、三陽商会はその後に粗利率重視の構造改革を進め、7期ぶりの黒字へ転じた。刷新案そのものは退けられたものの、責任の明確化と外部経営者の登用という論点は、会社が自ら選んだ形で結果に取り込まれていった。物言う株主の要求を退けることと、その圧力を規律として受け止めること——両者は必ずしも背反しないのではないか。三陽商会の攻防は、否決という決着の後にこそ問われる論点を残したとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

連続赤字が招いた経営不信

三陽商会が委任状争奪戦に巻き込まれた根には、バーバリー喪失後の止まらない赤字があった。同社は2015年に半世紀続いた英国バーバリーの独占ライセンスを失い、後継ブランドが規模を代替できないまま最終赤字を重ねた。2020年2月期の連結売上高は689億円、営業損益は29億円の損失、最終損益は27億円の損失と、4期連続の最終赤字を計上していた。社長は短命で交代を繰り返し、業績の底が見えない状況が、株主の不信を強めていった[1]

この不信を経営の圧力に変えたのが、株式の約6%を握る米投資会社RMBキャピタルであった。RMBは2020年2月、現経営体制を「あまりに甘すぎる現状認識」と批判し、会社売却の検討を含む抜本的な立て直しを求めた。半世紀ブランドを借りて売上1,400億円規模を築いた成功体験が、規模の縮んだ後も現経営陣に残っている——アクティビストはそこに責任の曖昧さを見ていた[2]

再生プランをめぐる社内の亀裂

経営陣が用意した「再生プラン」自体も、社内で一枚岩ではなかった。約150店の不採算店を閉じる再建策は取締役会に繰り返し諮られ、そのたびに社外取締役や監査役から見通しの甘さを指摘されていたと伝えられる。中山雅之社長の責任追及があいまいなまま計画が進み、主要株主の三井物産からも人材の派遣と追加出資をいずれも断られるなど、社内外の支持は薄かった[3]

対立が表面化したのは2020年4月14日であった。三陽商会はこの日、4期連続の最終赤字となる決算とあわせて再生プランを公表し、3月に入社した大江伸治副社長を社長へ、中山社長を副社長へ入れ替える人事案を5月26日の総会で決議する方針を示した。RMBは同日、計画の見通しの甘さと責任の不明確さを理由に異議を唱え、争いは委任状の奪い合いへと発展した[4]

決断

取締役会の総取り替えを求めた株主提案

RMBの要求は、経営陣の一部差し替えではなく取締役会の総取り替えであった。同社は2020年3月末に株主提案を提出し、中山社長ら生え抜きの社内取締役は総会をもって全員辞任すべきだと主張した。そのうえで、マッキンゼー出身でクラシエ(旧カネボウ)の社長を務めた小森哲郎氏を経営の中核に据え、RMBパートナーの細水政和氏を社外取締役に加える案を掲げた。独自に立てた取締役候補は7名にのぼり、うち1名だけが会社提案と重なった[5][6]

三陽商会はこの提案を受け入れなかった。会社側は、RMBが示した経営体制には実現可能性のある具体的な計画がなく遂行できないとし、候補者について株主から事前の説明も受けていないと反論した。とりわけ細水氏の就任には、会社売却を狙う立場が企業価値の向上よりも買収側の利益を優先しかねないとして、利益相反の懸念を示した。自前の大江体制で立て直すという主張が、防戦の軸に据えられた[7]

長期化する委任状の奪い合い

総会が近づくと、争いは第三者を巻き込んで激しさを増した。議決権行使助言会社は中山社長の取締役再任に反対を推奨し、海外のファンドもRMBの提案に原則賛同した。RMBは会社側の総会運営をめぐって東京地方裁判所に仮処分を申し立て、対立は法廷にも持ち込まれた。バーバリー喪失から続く経営の混迷が、そのまま株主間の主導権争いへ噴き出していた[8][9]

一方の三陽商会は、主要株主の取り込みで防戦の足場を固めていった。半世紀にわたり資本・取引の両面で結びついてきた三井物産や、繊維商社の八木通商といった主要株主が、RMBに対抗して会社案への賛成に回った。物言う株主の全面刷新案と、現経営陣の自前刷新案。二つの人事案のどちらに委任状を託すかが、5月26日の総会に持ち越された[10]

結果

会社案の可決とRMB案の否決

2020年5月26日、東京・四谷で開かれた定時株主総会は、約45分で幕を閉じた。中山前社長や大江伸治副社長ら9名を取締役とする会社側の提案が賛成多数で可決され、RMBが推した小森哲郎氏らを取締役とする案は否決された。大江氏は同日付で社長へ昇格し、現経営陣が主導権争いを制した。RMB側からの質疑はなく、圧倒的多数での決着であったと伝えられる[11]

もっとも、防戦の勝利は再建の完了を意味しなかった。RMBの細水パートナーは総会後、「今後は新経営陣との対話を通して、大江新社長のもとでの再建策の進捗を株主としてチェックしていく[12]」との談話を出し、監視を続ける構えを崩さなかった。主導権を守った現経営陣には、再生プランが掲げた翌2022年2月期の営業黒字化を実際に果たせるのか、株主の厳しい視線が残された。

出典・参考