シルチェスターの提案否決(2023年・大林組の決断)

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論点 特別配当の株主提案に応じるか
大林組:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
特別配当を求めた株主提案と、その後に動いた還元の目安

何をなぜ決めたか:特別配当を求めた株主提案と、その後に動いた還元の目安

概要

2023年6月28日の第119回定時株主総会で、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズが提出した1株12円の特別配当を求める株主提案は、反対多数により否決された。取締役会は5月11日にこの提案への反対を決議している。

同社の名義で大株主の状況に載る持株は、2023年3月31日現在で14,283千株・1.99%。会社提案の期末配当21円は可決され、2023年3月期の年間配当は42円、配当金の総額は30,156百万円となった。

背景

大林組は2022年度から5か年の大林グループ中期経営計画2022を走らせ、自己資本配当率(DOE)3%程度を目安とする株主還元方針を掲げていた。2022年度の実績は3.1%である。

一方で自己資本比率は2021年3月期に41.0%まで積み上がり、自己資本利益率は2022年3月期に4.1%まで低下していた。純投資目的以外の上場株式も104銘柄・274,241百万円を抱え、2027年3月末までに連結純資産の20%以内へ減らす方針を置いていた。

内容

提案の還元基準は、コア事業の純利益の50%と保有株式からの受取配当金の全額を株主へ分配するというもので、会社提案の年42円に12円を上乗せした54円相当の還元を求めた。

会社は、有形・無形資産投資と成長投資の実施、強固な財務基盤の確保を図りつつ長期安定配当の維持を第一とする方針を根拠に反対した。中期経営計画2022が掲げた経営指標は連結営業利益1,000億円以上、1株当たり当期純利益100円以上、自己資本利益率は中長期的に8%以上である。

含意

提案は退けられたが、還元の水準はその後に動いた。DOEの目安は2024年3月期から5%程度へ引き上げられ、年間配当は42円、75円、81円、88円と増えた。配当政策には特別配当と自己株式取得が機動的な手法として書き込まれた。

自己株式取得は2027年3月までに1,000億円を掲げ、2025年2月10日決議の300億円と同年8月8日決議の400億円を実施済み。発行済株式総数は721,509千株から691,811千株へ減った。手法については決算説明会で 『DOEに特別配当を組み合わせるという議論は現在行っていない』 と答え、DOEと特別配当の併用を退けた。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 11名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

考察:否決のあとに動いた還元の物差し
考察

考察:否決のあとに動いた還元の物差し

この一件を否決された株主提案として片づけると、そのあとに起きたことが見えなくなる。会社が反対の根拠に据えたのは、自己資本配当率という物差しそのものではなく、その目安を3%程度に置くという判断だった。物差しを残したまま目安だけを動かせば、提案を退けたという形を保ったまま還元は増える。実際に目安は翌期から5%程度へ移り、年間配当は3年で倍を超えた。争われていたのは還元をするかどうかではなく、その水準を誰の計算で決めるのかだったのだろう。

もっとも、会社が提案の手法まで受け入れたわけではない。自己資本配当率に特別配当を組み合わせる検討は行われておらず、余力は自己株式取得で戻す構えが続いている。必要な自己資本の水準を1兆円と置き、それを超える分を配当の目安の見直しか自己株式取得のどちらかで戻す——その線引きを会社が握り続けている限り、外から特定の金額を名指しする提案が通る余地は小さい。株主が動かせたのは金額そのものではなく、会社が自ら物差しを引き直す速さのほうだったのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 5表

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図と表

大林組:1株当たり配当額と当期純利益の推移

1株当たり年間配当額(円)1株当たり年間配当額率(%)
大林組:1株当たり配当額と当期純利益の推移
(円) 1株当たり年間配当額1株当たり当期純利益 備考
2018年3月期 28129.09
2019年3月期 32157.65
2020年3月期 32157.59
2021年3月期 32137.64
2022年3月期 3254.55 利益が減少しても配当は据え置かれ、配当性向は58.7%まで上がった
2023年3月期 42108.34 株主提案の対象。中間21円・期末21円に12円の特別配当を求められた
2024年3月期 75104.69 DOEの目安を3%程度から5%程度へ引き上げた
2025年3月期 81203.88
2026年3月期 88249.42
出所:大林組 有価証券報告書 第116期・第119期・第121期・第122期【主要な経営指標等の推移】
出所:大林組 有価証券報告書 第116期・第119期・第121期・第122期【主要な経営指標等の推移】

大林組:純投資目的以外の投資株式の推移

非上場株式以外の株式(百万円)
大林組:純投資目的以外の投資株式の推移
(百万円) 非上場株式以外の株式非上場株式 備考
2019年3月期 336,9537,413 149銘柄と132銘柄
2020年3月期 265,3288,737 129銘柄と135銘柄
2021年3月期 311,27811,196 123銘柄と138銘柄
2022年3月期 305,52411,463 107銘柄と140銘柄。1,500億円程度の売却方針を掲げた期
2023年3月期 274,24112,874 104銘柄と141銘柄
2024年3月期 390,51712,576 87銘柄と136銘柄。銘柄は減ったが株価の上昇で計上額は増えた
2025年3月期 261,99511,082 75銘柄と127銘柄
2026年3月期 275,88512,394 73銘柄と110銘柄
出所:大林組 有価証券報告書 第114〜122期【株式の保有状況】
出所:大林組 有価証券報告書 第114〜122期【株式の保有状況】

大林組:自己資本比率と自己資本利益率の推移

大林組:自己資本比率と自己資本利益率の推移
(%) 自己資本比率自己資本利益率 備考
2018年3月期 32.214.5
2019年3月期 34.715.6
2020年3月期 36.714.3
2021年3月期 4111.3 自己資本比率が窓のなかで最も高い
2022年3月期 39.54.1 資本効率が窓のなかで最も低い
2023年3月期 38.28 中期経営計画2022は自己資本利益率を中長期的に8%以上と置いた
2024年3月期 38.17
2025年3月期 38.112.6
2026年3月期 4014.4
出所:大林組 有価証券報告書 第116期・第119期・第121期・第122期【主要な経営指標等の推移】(連結)
出所:大林組 有価証券報告書 第116期・第119期・第121期・第122期【主要な経営指標等の推移】(連結)

大林組:所有者別状況の推移

大林組:所有者別状況の推移
(%) 金融機関外国法人等(法人)個人その他金融商品取引業者 備考
2018年3月期 34.3837.9116.872.33
2019年3月期 37.1234.4417.252.58
2020年3月期 36.2137.0916.182.59
2021年3月期 36.135.1216.414.73
2022年3月期 35.5236.0116.464.53
2023年3月期 34.1635.8616.696.1 株主提案が出された総会の基準となる期末
2024年3月期 35.3536.0615.935.69
2025年3月期 35.6333.9217.396.08
2026年3月期 31.4840.0516.445.42 外国法人等が窓のなかで最も高い
出所:大林組 有価証券報告書 第114〜122期【株式の所有者別状況】
出所:大林組 有価証券報告書 第114〜122期【株式の所有者別状況】

株主提案の条件と議決

株主提案の条件と議決
科目 概要 備考
対象の総会 2023年6月28日 第119回定時株主総会 会社提案の期末配当21円もこの総会で決議されている
提案株主 シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ 英国拠点の運用会社。2021年7月から大林組株への投資を始めた
提案株主の所有株式数 14,283千株・1.99% 2023年3月31日現在の名義分。運用会社としての全体の保有は有報に載らない
株主提案の議案 1株12円の特別配当 会社提案の年42円に上乗せし、年54円相当の還元を求めた
提案の還元基準 コア事業の純利益の50%と受取配当金の全額 保有株式からの配当金は100%を株主へ分配すべきとする独自の基準
会社の還元方針 自己資本配当率(DOE)3%程度 中期経営計画2022で掲げた目安。2022年度の実績は3.1%
当期の配当 年42円・総額30,156百万円 中間21円は2022年11月7日の取締役会、期末21円は総会での決議
取締役会の意見 反対(2023年5月11日決議) 成長投資と財務基盤の確保、長期安定配当の維持を第一とする方針を根拠とした
議決の結果 反対多数により否決 同じ総会に付された会社提案の議案はいずれも可決された
可決の要件 出席した株主の議決権の過半数 剰余金の処分は普通決議。定款では定足数を議決権の3分の1以上と定める
提案後の還元方針 DOEの目安を5%程度へ 2024年3月期から引き上げ、特別配当と自己株式取得を機動的な手法に加えた
自己株式取得 2027年3月までに1,000億円 2025年2月10日決議の300億円と同年8月8日決議の400億円を実施済み
政策保有株式の方針 2027年3月末までに連結純資産の20%以内 中期経営計画2022で2021年度から1,500億円程度の売却を掲げた
出所:大林組 適時開示「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」(2023年5月11日)/有価証券報告書 第119期(2023年3月期)・第120期(2024年3月期)・第122期(2026年3月期)【配当政策】【大株主の状況】【自己株式の取得等の状況】【株式の保有状況】
出所:大林組 適時開示「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」(2023年5月11日)/有価証券報告書 第119期(2023年3月期)・第120期(2024年3月期)・第122期(2026年3月期)【配当政策】【大株主の状況】【自己株式の取得等の状況】【株式の保有状況】
当時の取締役 11名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 大林組 適時開示「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ(別紙含む)」
  • 大林組 有価証券報告書「第119期(2023年3月期)【配当政策】【大株主の状況】【株式の保有状況】」
  • 大林組 有価証券報告書「第120期(2024年3月期)【配当政策】」
  • 大林組 有価証券報告書「第121期(2025年3月期)・第122期(2026年3月期)【自己株式の取得等の状況】」
  • 大林組 決算説明会 質疑応答「2025年3月期 決算説明会 説明要旨と主な質疑応答」

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