この一連の動きを、アクティビストの圧力に屈した末の還元強化とだけ読むのは、順序を見落とすことになる。象印は2023年2月、買収防衛策の廃止も増配もいったんすべて否決している。そのうえで2年後、外部から迫られてではなく取締役会自らの議論として防衛策を廃止し、総還元性向100.1%という数字で還元を実行した。創業家が中核株主を占める同族企業が、支配権を守る盾を放棄し、株主提案が突きつけた論点の一部を自らの言葉で引き取ったところに、この判断の芯があると推察される。
もっとも、盾を外しても市川一族が中核株主である構図は変わらず、還元を厚くできた背景には、円安下の国内高単価商品の好調と、土地売却益に支えられた高収益があった。総還元性向100%は3カ年限りの約束で、象印は翌期以降、配当性向50%以上を目安とする平時の還元へ戻している。中国の減速と米国の関税という外部環境も残ったままである。株主提案を退けた企業が、時間をおいて相手の主張の一部を自らの判断へ翻訳する——防衛策の存廃そのものより、外圧をどう社内の言葉に置き換えるかに、経営の質が表れるといえる。