この一歩を、魔法瓶メーカーによる新商品の追加という言葉で片づけると芯を外す。象印がしたのは製品を一つ増やしたことではなく、保温という一貫した目的を、真空断熱という祖業の原理から電気という別の原理へ載せ替えたことであった。ガラスの魔法のおひつが割れやすさと保温力の低さで行き詰まったとき、同じ目的を別の手段で追い直した点に、この判断の重さがうかがえる。電気という畑違いの技術へ参入するまでに逡巡があったことは、専業の会社にとってその距離が遠かったことを物語っている。
もっとも、電気への窓口を開いたことは、象印を別の競争へも連れ出した。炊飯ジャーや電気ポットで会社の収益源を得た一方、その土俵には設備と量産で押す大手家電メーカーが待っていた。保温の延長で入ったはずの家電は、やがて巨大メーカーと同じ市場を分け合う場所になった。1970年に開いた窓口は、象印に成長と、価格競争という重荷の双方をもたらしたとみられる。技術の原理を替える判断は、新しい市場を開拓すると同時に、新しい競争相手を呼び込む面もあったといえる。