象印がしたのは製品を高くしたことではなく、設備と量産で押す大手家電と同じ土俵を降り、コンセプトとデザインという模倣されにくい軸へ競争の場を移したことであった。営業担当者を売り場へ通わせて高齢者の需要を掘り当て、うるし塗りを思わせる意匠で家電ではない炊飯ジャーを押し出している。市川博邦社長の、正面から競争しないという言葉の実質が、そこにうかがえる。
ただし、高級化だけで赤字を抜け出せたわけではない。象印は同じ二年でクリエイト15により25億円の原価を削減し、攻めと守りを同時に回してようやく黒字を回復している。しかも1987年の選択は一度で決着した優位の築き方ではなかった。2000年代には安価な中国製にシェアを侵食されて再び二期連続の赤字を計上し、同じ高付加価値化と海外開拓でもう一度立て直した。価格で追う相手と土俵を分ける選び方は、後発が現れるたびに引き直す作業として続くといえる。