デジタルガレージへの約500億円の追加出資と持ち分法適用会社化、その半年後に生じた449億円の評価損
完全復活を示すはずの成長投資が、なぜ半年で巨額の減損危機に転じたか——資本活用フェーズの試金石
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- 概要
- 2025年7月、りそなホールディングス(HD)は、決済プラットフォームを手がけるデジタルガレージ(DG)の株式をアクティビストのオアシス・マネジメントから追加取得し、持ち分比率を12.42%から30.95%へ引き上げて持ち分法適用関連会社とした。約500億円を投じたこの戦略出資は、公的資金を完済した同社が掲げる「資本活用フェーズ」の柱をなす成長投資であったが、DG株はその後半年で半値近くまで下落し、2026年3月末には449億円の評価損計上に至った。
- 背景
- ピーク時に3兆円超の公的資金を抱えたりそなHDは、資本の蓄積を長年の優先課題としてきた。2024年3月期からの中期経営計画で「資本活用フェーズ」への転換を掲げ、M&Aなどのインオーガニック戦略として中計期間中に1,000億円規模の資本投下を示唆していた。2022年11月に資本業務提携を結んだDGへの出資強化は、決済領域の競争力を高める成長投資として、その中核に据えられていた。
- 内容
- 2025年7月31日、りそなHDは、株主提案を続けてきたオアシス・マネジメントが保有するDG株852万200株を相対で取得すると発表し、9月22日に持ち分法適用関連会社化を完了した。りそなHDが保有するDG株の総額は727億円、平均取得価額は5,000円程度とみられる。だが取得観測が出た頃から株価は下落を続け、2025年6月上旬に5,000円台だった株価は、2026年1月下旬に2,500円を割り込んだ。
- 含意
- 2026年3月末の株価が7月末から5割超下落した結果、りそなHDは強制減損に該当し、449億円の特別損失を計上した。それでも2026年3月期の連結純利益は前期比21.3%増の2,587億円で着地し、通期予想と期末配当予想は維持された。決済領域の共創を狙った戦略出資が、資本市場の失望売りを通じて巨額の評価損に転じた経緯は、資本活用フェーズにおける投資規律のあり方を問うものとなった。
成長投資と減損規律のあいだで
この一件の核心は、公的資金を完済して守りから攻めへ転じた銀行の最初の大型出資が、半年で巨額の評価損に転じた点にある。りそなHDにとってDG株の追加取得は、資本活用フェーズの完全復活を示す成長投資となるはずであった。決済プラットフォームと銀行の顧客基盤を掛け合わせる構想そのものには一定の合理性がうかがえる一方で、アクティビストの全株を引き受けるという取得の形が、経営への規律が緩むとの見方を市場に呼び、失望売りを招いた面は否めない。銀行担当アナリストからは、一連の協業は従来の業務提携でもできる内容で、資本のより有効な使い道があったのではないかとの声も上がった。
449億円の評価損を本業の利益で吸収し、通期予想と配当を維持できたことは、蓄えてきた資本の厚みと収益力の裏づけを示すものといえる。もっとも、戦略出資の当否は減損の一時計上だけで決まるものではなく、決済領域の共創が実際にどれだけの預金獲得や収益に結びつくかを、これから示せるかにかかっている。資本を守ることから使うことへ転じた銀行が、株価という日々動く物差しにさらされながら、成長への賭けと減損の規律をどう両立させるのか。りそなHDの資本活用フェーズは、この最初の大型出資が減損を上回る収益を生むかどうかで、その巧拙が測られていくとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
公的資金完済からの「資本活用フェーズ」
りそなホールディングスにとって、資本をどう積み、どう使うかは長く重い問いであった。2003年に約2兆円の公的資金を受け入れて実質国有化され、ピーク時に3兆円を超えた公的資金を、賃下げと人員削減を含む本業回帰で2015年に完済した。以来、同社は資本の蓄積を優先課題とし、堅実な自己資本の積み増しを続けてきた。その蓄積が一定の厚みに達したとの判断のもと、2024年3月期からの中期経営計画で、りそなHDは「資本活用フェーズ」への転換を掲げた[1]。
資本活用フェーズの具体は、内部成長にとどまらない外への投資であった。経営陣は、M&Aなどのインオーガニック戦略として、中計期間中におよそ1,000億円規模の資本投下を示唆していた。長く資本を守る側に立ってきた銀行が、蓄えた自己資本をリスクのある成長投資へ振り向ける転換であり、その最初の大きな試金石として選ばれたのが、かねて提携関係にあったデジタルガレージへの出資強化であった[2]。
決済領域での共創という狙い
デジタルガレージとの関係は、一度の出資で始まったものではない。両社は2022年11月に資本業務提携を結び、決済やフィンテックの分野で協業を進めてきた。2023年にはスタートアップ投資へと提携領域を広げ、2024年にはりそなHDがDGの筆頭株主となっていた。段階を追って深めてきた関係を、資本の面でも一段引き上げようとしたのが、今回の追加出資であった[3]。
りそなHDの南昌宏社長は、提携関係を強化する最大の目的を「新しい価値の共創」に置くと語り、決済領域の競争力を高めることで個人や中小企業の預金獲得につなげる狙いを示した。すでに中小加盟店向けの次世代決済アプリの共同開発が進み、2026年1月にはDG、JCBとの三社でステーブルコインを用いた実店舗決済の仕組みづくりも表明した。銀行の顧客基盤と決済プラットフォームを掛け合わせる構想であった[4]。
決断
アクティビストからの相対取得と持ち分法適用会社化
2025年7月31日、りそなHDは、デジタルガレージを持ち分法適用会社とすると発表した。取得の相手は、DGへ株主提案を続けてきた香港のアクティビスト、オアシス・マネジメントである。りそなHDはオアシスが運用するファンドからDG株852万200株を相対で譲り受け、保有比率を12.42%から30.95%へ引き上げた。それまでの並びはオアシス18.5%に対しりそなHD12.4%で、追加取得によって筆頭株主の座がより明確なものとなった[5]。
取得の規模も相応に大きかった。りそなHDはこの追加取得に約500億円を投じ、2025年9月22日に持ち分法適用関連会社化を完了した。りそなHDが保有するDG株の総額は727億円に上り、1株当たりの平均取得価額は5,000円程度とみられる。資本活用フェーズで掲げた1,000億円規模の投下枠の過半を、一社への出資が占める格好であり、その分だけ相手の株価変動が自社の損益へ響く構図が生まれていた[6]。
市場の失望売りと株価の下落
ところが、この出資に対し株式市場が見せた反応は失望売りであった。2025年6月上旬に5,000円台だったDG株は、取得観測が出始めた頃からじわじわと下落し、7月31日の発表翌日には前日終値の4,000円から12.6%安の3,495円まで急落した。SBI証券の宝水裕圭里氏は、株主提案を続けてきたオアシスが全株をりそなHDへ売却することで、経営への圧力が弱まり、株主還元や成長意欲が後退するのではないかとの懸念が広がったと分析している[7]。
下落に拍車をかけたのが、デジタルガレージ自身の業績の鈍化であった。インバウンド消費の停滞や一部加盟店の離反によって決済取扱高の成長率が悪化し、市場予想を下回る決算が続いた。株価は下げ止まらず、2025年12月に3,000円を割り込み、2026年1月下旬にはついに2,500円も割り込んだ。平均取得価額5,000円程度に対して株価は半値近くへ沈み、りそなHDが抱えるDG株の含み損は膨らんでいった[8]。
結果
強制減損と449億円の特別損失
好調な本業のさなかに、減損の影が差した。2026年1月30日発表の第3四半期決算で、りそなHDは金利上昇や貸出残高の増加を背景に連結純利益を前年同期比31.3%増の2,221億円とし、国内5大銀行グループで唯一残していた通期目標の上方修正にも踏み切って、目標を2,400億円から2,500億円へ引き上げた。もっとも修正幅は小幅にとどまり、市場では、DG株の減損リスクを抱えたまま大幅な上方修正には動きにくい事情がうかがえると受け止められた[9]。
そして2026年3月31日、りそなHDは、DG株の評価損として449億円の特別損失を計上すると発表した。2月時点で市場が見込んでいた360億円をさらに上回る規模であった。3月末のDG株は追加出資を発表した7月末から5割超下落しており、強制減損の要件に該当した。ただし同社は、連結純利益予想を2,500億円、期末配当予想を14.5円のまま据え置き、本業の稼ぐ力で評価損を吸収できるとした。2026年3月期の連結純利益は、最終的に前期比21.3%増の2,587億円で着地している[10]。
- 週刊東洋経済 2026年2月21日号「戦略出資先の株価が半値に りそなHDが巨額減損危機」
- 日本経済新聞(2025年7月31日)「デジタルガレージ、りそなHDの持ち分法適用会社に」
- 日本経済新聞(2026年3月31日)「りそなが特損449億円、デジタルガレージで評価損 利益予想は維持」
- りそなホールディングス 有価証券報告書(連結)