サーベラスのTOB阻止(2013年・西武ホールディングスの決断)

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論点 資本構成と再上場をめぐる筆頭株主との対立
売上高(億円)経常利益率(%)
TOB阻止と東証一部への再上場

TOB阻止と東証一部への再上場

概要

2013年3月、西武ホールディングスの筆頭株主である米投資ファンド・サーベラスが関連事業体を通じて持ち株比率の引き上げを狙う公開買い付け(TOB)を仕掛けたが、後藤高志社長を中心とする経営陣がこれに反対を表明し、応募は買付予定数の上限を大きく下回った。翌2014年4月、西武HDはサーベラスの持ち株比率を維持したまま東京証券取引所市場第一部への再上場を上場した。

背景

2005年のサーベラス出資・2006年の持株会社設立を経て再建を進めていた西武HDは、2012年に上場を目指したものの、サーベラスとの資本業務提携の解消をめぐって関係が悪化し、両者の対立が表面化した。

内容

サーベラスは2013年3月12日、1株1,400円で議決権割合4%を上限とするTOBを開始し、4月5日には上限を41,800,000株(同12.23%)へ引き上げて買付け後44.67%を目指した。あわせて元金融庁長官の五味廣文ら取締役8名・監査役2名の追加選任を株主提案し、西武の経営陣は早期の株式上場を阻害するとして反対を表明した。

含意

応募は10,390,724株(議決権割合3.04%相当)と上限の4分の1にとどまり、6月25日の総会でもサーベラスが提案した取締役8名の選任は賛成率39.76〜39.78%で否決された。もっとも、翌年4月の再上場は仮条件1,600〜1,800円の下限で売出価格が決まっており、勝敗の判定が難しい決着であったと思われる。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解 買収防衛でなく、信頼の立て直しで得た再上場
筆者の見解

買収防衛でなく、信頼の立て直しで得た再上場

サーベラスとの攻防で経営陣の対応が際立つのは、買収防衛策のような制度的な仕組みに頼るのではなく、個人株主・メインバンク、そして創業家という、いずれも2004年の事件で傷んだ信頼の当事者たちを取りまとめ直すことで対抗した点にある。堤義明氏が後藤体制を支持したという事実は、上場廃止から再上場までの10年が、単なる財務再建ではなく、経営の正統性を築き直す過程であったことを示している。

もっとも、再上場の売出価格が仮条件1,600〜1,800円の下限で決まったことは、この攻防に単純に優位に立った側がいたかどうかを難しくする。サーベラスは1株も売り出さずに投資回収を先送りし、西武側も新株を発行せずに株主構成を保ったまま、市場が示した最も控えめな値段での再上場を受け入れた。10年越しの再上場という到達点の裏に、双方にとって満足とは言い切れない結末が残っている点は、その後の資本市場との向き合い方を考えるうえで示唆に富む。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

数字で見る 4表
公開買付けと再上場の条件

公開買付けと再上場の条件

科目 概要 備考
公開買付けの公表日 2013年3月12日 公開買付届出書が提出された日。会社が反対を決議したのは3月26日
公開買付者 エス-エイチ ジャパン・エルピー サーベラス・グループの関連事業体。ケイマン諸島に所在する
買付価格 1株1,400円 非上場で市場価格がなく、会社は価格の根拠を公開買付者に質問した
買付期間 2013年3月12日〜5月31日 4月5日に5月17日まで、5月16日に5月31日まで2度延長された
買付予定数の上限 議決権割合4%相当 開始時点の条件。サーベラス・グループは既に32.44%を保有していた
変更後の買付予定数の上限 41,800,000株 4月5日に議決権割合12.23%へ引き上げ。買付け後は44.67%になる
会社の意見 反対(応募を推奨しない) 3月26日に反対を決議し、条件変更を受けて4月12日に一層強い反対を表明
応募株式数 10,390,724株 議決権割合3.04%相当。変更後の上限41,800,000株の4分の1にとどまった
公開買付け後の持株比率 35.45% 議決権の総数3,420,387個に対する割合は35.46%(2014年3月31日現在)
提案株主 サーベラス・ジャパン・インスティテューショナル・ホールディング・ビー・ヴィー 2013年3月31日現在の持株数17,072千株・持株比率4.99%で第5位
対象の株主総会 第8回定時株主総会(2013年6月25日) 招集通知は6月4日に公表。株主提案の提案理由が原文のまま載る
株主提案の議案 第4号議案 取締役8名選任・第5号議案 監査役2名選任 元金融庁長官の五味廣文ら8名。会社提案の役員候補とは別に選任を求めた
取締役会の意見 反対 会社は取締役4名・監査役2名の選任を提案し、うち2名を社外取締役とした
議決の結果 株主提案10議案はすべて否決 会社提案3議案はすべて可決。第4号議案の賛成率は39.76〜39.78%
可決の要件 出席した株主の議決権の過半数 第2号から第5号議案は議決権の3分の1以上を有する株主の出席が前提
再上場の決議日 2014年3月19日 取締役会が株式の売出しを承認した日。新株の発行はおこなっていない
上場日 2014年4月23日 西武鉄道株式の上場廃止は2004年12月。株式受渡期日と同じ日に上場した
市場区分 東京証券取引所市場第一部
売出株式数 27,826,000株 国内売出し18,086,900株・海外売出し9,739,100株の内訳で決定した
売出価格 1株1,600円 仮条件1,600〜1,800円の下限。引受価額は1,528円と決定された
売出人 農林中央金庫ほか3者 日本政策投資銀行・UBS証券・シティグループ・キャピタル・パートナーズ
サーベラス系の売出 なし 売出人に入らず、上場後180日のロックアップを差し入れている

出所:西武ホールディングス 意見表明報告書(2013年3月26日)/第8回定時株主総会 招集ご通知・決議ご通知(2013年6月)/適時開示「株式の売出しに関する売出価格などの決定のお知らせ」(2014年4月14日)

第8回定時株主総会の議案別賛成率

西武ホールディングス:第8回定時株主総会の議案別賛成率

(%) 賛成率 備考
第1号 剰余金の配当 98.45 会社提案。1株4円50銭(普通配当3円50銭・記念配当1円)
第2号 小林正則 59.15 以下4名は会社提案の取締役候補。うち大宅映子と小城武彦が社外取締役
第2号 安藤博雄 59.11
第2号 大宅映子 59.06
第2号 小城武彦 59.02
第3号 川上望 59.13 以下2名は会社提案の監査役候補
第3号 明石雅世志 59.12
第4号 五味廣文 39.76 以下8名はサーベラスが提案した取締役候補。元金融庁長官
第4号 白川祐司 39.78
第4号 江尻隆 39.77
第4号 宇野紘一 39.77
第4号 ジェームズ・ダンフォース・クエール 39.77
第4号 ジョン・W.スノー 39.76
第4号 ルイス・J.フォースター 39.76
第4号 スタン・ブラウン 39.76
第5号 村田守弘 39.84 以下2名はサーベラスが提案した監査役候補
第5号 志賀裕二 39.83
第6号 定款変更(早期上場) 1.07 以下5議案は株主9名または8名の提案。可決には3分の2以上の賛成が必要
第7号 定款変更(株主割当による新株発行) 1.12
第8号 定款変更(評価書の開示) 1.06
第9号 定款変更(提案理由説明会開催勧告) 0.97
第10号 定款変更(不動産鑑定評価書の開示) 1.05

出所:西武ホールディングス「第8回 定時株主総会議決権行使結果に関するお知らせ」(2013年6月26日)および同「一部訂正について」(2013年8月20日)

業績と純資産の推移

西武ホールディングス:業績と純資産の推移

(百万円) 営業収益経常利益当期純利益純資産額総資産額 備考
2010年3月期 489,26712,31022,651207,5931,464,625
2011年3月期 459,09618,1667,266206,2091,423,691
2012年3月期 438,35821,2358,441215,0681,389,083
2013年3月期 459,22030,73315,608242,0441,403,025 公開買付けが始まった期。期末の3月12日に公開買付届出書が提出された
2014年3月期 473,44138,11118,317267,6891,420,449 公開買付けが終了し株主提案が否決された期。再上場は期末後の4月23日
2015年3月期 481,72742,09934,912367,4371,519,911 再上場後の初年度。当期純利益は当期から親会社株主に帰属する額
2016年3月期 508,08158,52557,207392,6491,553,092
2017年3月期 512,00957,47247,564360,1331,627,868
2018年3月期 530,63155,49042,908394,9471,669,223
2019年3月期 565,93965,41545,457422,7151,728,929
営業収益(百万円)経常利益率(%)

出所:西武ホールディングス 有価証券報告書 第9期(2014年3月期)・第14期(2019年3月期)【主要な経営指標等の推移】

発行済株式総数の推移

西武ホールディングス:発行済株式総数の推移

(株) 発行済株式総数 備考
2009年3月期 342,124,820 2006年6月の資本準備金取崩し以降、発行済株式総数に増減はない
2010年3月期 342,124,820
2011年3月期 342,124,820
2012年3月期 342,124,820
2013年3月期 342,124,820
2014年3月期 342,124,820 対抗のための新株発行はおこなわず、株主構成を動かさずに再上場した
2015年3月期 342,124,820 再上場は既存株主の売出しのみで、公募による新株の発行はない
2016年3月期 342,124,820
2017年3月期 342,124,820
2018年3月期 342,124,820
2019年3月期 342,124,820
  • NWコーポレーション 15%
  • プロモントリア・ジャパン・ホールディング・スリー 8%
  • プロモントリア・ジャパン・ホールディング・ワン 6%
  • プロモントリア・ジャパン・ホールディング・ツー 6%
  • サーベラス・ジャパン・インスティテューショナル・ホールディング 5%
  • エス-エイチ ジャパン・エルピー 3%
  • その他 57%

出所:西武ホールディングス 有価証券報告書 第9期(2014年3月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】【大株主の状況】

参考文献
出典・参考

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