AVIらによる増配・自社株買いとヒューリック政策保有株売却の株主提案

本業と無縁な株を総資産の三割抱える持株会社に、物言う株主は何を迫ったか

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時期 2020年3月
意思決定者 ジョー・バウエルンフロイント(AVI CEO・提案者)/帝国繊維 取締役会 否決
論点 資本配分と政策保有株の是非
概要
2020年1月、英投資会社アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が帝国繊維に対し、1株76円への増配、20億円の自社株買い、および本業と関係の薄いヒューリック株の売却を株主提案した。3月27日の定時株主総会で増配案は24.7%、自社株買い案は22.0%の賛成を得たが、いずれも否決された経営判断である。
背景
帝国繊維は消防用ホースを主力とする防災・繊維の会社で、業績は堅調でありながら利益を現預金と有価証券で積み上げていた。とりわけ本業との関わりが薄い中堅不動産ヒューリックの株式を大量に保有し、その簿価は総資産の約32%に達していた。芙蓉グループ系の持ち合い株主に守られた資本構成が、資本効率をめぐる論点の背後にあった。
内容
AVIは、ヒューリック株を売却して得た資金を株主へ還元するよう求め、まずは持ち分の一部売却という小規模な提案から入った。会社側は白岩強社長が「財務基盤は会社の信用」と反対を明言し、全提案に反対した。総会では過去最高の賛同を集めながらも、持ち合い株主の反対で否決された。
含意
提案は一度で終わらず、AVIは否決後も対話継続を表明した。2023年にはニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)が大株主に現れ、2025年にはNAVFがダルトン・インベストメンツと共同で株主提案に踏み切った。割安な持株会社が本業と無縁な資産を抱える構造への問いは、数年にわたり続いた。
筆者の見解

割安持株会社の資本配分という問い

この攻防の中心にあるのは、本業で堅実に稼ぐ会社が、その利益をどこに置くべきかという問いである。帝国繊維は消防用ホースと防災という手堅い事業を持ちながら、稼いだ資金の相当部分を現預金とヒューリック株という金融資産にとどめてきた。物言う株主が突いたのは、事業の相乗効果を説明できない株を総資産の三割抱えたまま資本効率を語れるのか、という一点にあったとみることができる。芙蓉グループ系の持ち合いに守られた資本構成が、その問いへの回答を先送りする土台になっていた。

提案がいずれも否決された事実だけを見れば、会社の立場は守られたように映る。ただ、賛成率が二割を越え、担い手がスパークスからAVI、さらにダルトンとNAVFへと引き継がれていった経緯は、持ち合いという盾がいつまで有効かという別の問いを残している。政策保有株の縮減と資本効率の開示が上場企業に広く求められるようになったなかで、割安な持株会社が本業と無縁の資産を抱え続ける構造を、どこまで説明し続けられるのか。帝国繊維をめぐる論点は、一社の総会の勝敗を越えて、いまなお開かれているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

積み上がった金融資産と割安な持株会社

帝国繊維は消防用ホースを主力とし、除染用の防護服や危険物探知機なども手がける防災・繊維の会社で、本業の業績は右肩上がりで推移していた。ところが稼いだ利益の多くは事業に再投下されず、現預金や有価証券として蓄えられていた。スパークス・アセット・マネジメントの試算では、10年前と直近のバランスシートを比べると利益剰余金の増加分はほぼ金融資産に積み上がり、総資産が600億円前後にとどまるなかで金融資産が過大となり、資本効率は下がる一方であった[1]

積み上がった資産のなかでとりわけ物言う株主の目を引いたのが、本業と関わりの薄い中堅不動産ヒューリックの株式であった。帝国繊維は2019年末で175万株、金額にして230億円分のヒューリック株を保有していた。ヒューリックは、かつて村上ファンドが公開買い付けを仕掛けた芙蓉系の旧昭栄を前身とする会社で、両社は長く株式を持ち合ってきた。本業の相乗効果を欠いたまま多額の株式を抱える構造が、資本効率をめぐる論点の中心に据えられていた[2]

スパークスからAVIへ引き継がれた要求

資本効率をめぐる要求は、AVIが初めて持ち出したものではなかった。先に声を上げたのはスパークス・アセット・マネジメントで、4年にわたる対話の末に業を煮やし、2017年12月期末配当を前期比3倍の90円へ引き上げることと取締役任期の短縮を、2018年の総会に向けて株主提案した。会社側の白岩強社長は「反対する」と明言し、この提案は否決された。スパークスは翌2019年にも増配提案を出したが、いずれも通らなかった[3]

提案が通りにくい背景には、帝国繊維の資本構成があった。経営陣のおよそ半数は旧富士銀行の出身で、大株主には損害保険ジャパン、みずほ銀行、明治安田生命など芙蓉グループ系の持ち合い株主が並んでいた。少数株主が主張を通すには、かつて重要事項への拒否権が生じる3分の1の取得が目安とされてきた。もっとも、金融庁のスチュワードシップ・コードが機関投資家どうしの協調を後押ししつつあり、提案への賛同が集まりやすい土壌も生まれていた[4]

決断

AVIの提案とヒューリック株への照準

2020年1月28日、英投資会社アセット・バリュー・インベスターズが会見を開き、株主提案の内容を明らかにした。AVIのジョー・バウエルンフロイントCEOは、1株76円への増配と20億円相当の自社株買いを求め、その原資としてヒューリック株の一部売却を提案した。会社が計画していた期末配当は特別配当を含めて45円で、AVIの求める水準には遠く及ばなかった。まずは小規模な売却から入ることで、取締役会に最初の一歩を促す狙いがあった[5]

AVIの主張の核心は、本業と結びつかないヒューリック株を抱え続けることの不合理にあった。同社の見立てでは、現預金と投資有価証券が総資産の64%を占め、そのうちヒューリック株だけで約32%に達していた。しかも持ち合いは対等でなく、帝国繊維が持つヒューリック株の価値は、ヒューリックが持つ帝国繊維株の価値の11倍にのぼっていた。有意義な事業の相乗効果も取引関係もないままこれだけの株を抱える理由を、取締役会は説明できないというのがAVIの論法であった[6]

会社の反対と持ち合いの壁

会社側は反対の立場を崩さなかった。白岩強社長は、多額の資金を抱える理由として「財務基盤は会社の信用だと日々の仕事の中で実感している」と述べ、主力である海外製品の輸入販売には安定した財務体質が欠かせないと反論した。ヒューリック株については「歴史的な経緯があってのこと」と述べるにとどまった。会社は2020年2月に全提案への反対を表明し、あわせて特別配当を含む45円の会社案を示した[7]

決着の場となった3月27日の定時株主総会で、AVIの増配案は24.7%、自社株買い案は22.0%の賛成を集めた。買収防衛策の継続には21.9%が反対した。持ち合い株主に守られた会社にとって過去にない高い賛同でありながら、いずれの提案も可決には届かなかった。バウエルンフロイントCEOは「特別株主が帝国繊維の株主の相当数を占めていることを考慮すると、これだけの支持率を得られて大変心強い」との声明を出し、対話を続ける意向を示した[8]

結果

継続する提案とダルトン・NAVFの参戦

否決はこの一件で終わらなかった。AVIは総会後も「帝国繊維との会話を継続する所存」と表明し、同じ論点をめぐる提案は年を追って繰り返された。株主名簿にも変化が現れ、2023年12月末にはニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)が3.30%を保有して上位10位に入り、2024年12月末には4.64%へ買い増して5位の大株主となった。物言う株主の顔ぶれは入れ替わりつつ、資本配分をめぐる圧力そのものは途切れなかった[9]

2025年には提案の担い手がさらに広がった。NAVFは、和製アクティビストとの攻防で知られる米ダルトン・インベストメンツと歩調を合わせ、共同で帝国繊維株の約8.07%を保有したうえで株主提案を提出した。内容は68億円を上限とする自社株買い、取締役の過半数を社外取締役とすること、譲渡制限付株式報酬制度の拡充の3項目で、3月28日の総会に諮られた。会社は3議案すべてに反対を表明し、増配・自社株買いと政策保有株をめぐる対立は5年を越えて続いた[10]

出典・参考