米ファラロンの社外取締役2名選任・政策保有株売却の株主提案とT&Dの全議案否決

連邦型持株会社の資本効率と生保子会社の監督を、外部の取締役に委ねるべきか——2025年総会での攻防

更新:

時期 2025年5月
意思決定者 森山昌彦・取締役会 社長
論点 連結型持株会社の資本効率と取締役会構成をめぐる株主提案への対応
概要
2025年6月26日の第21回定時株主総会で、米ファラロン・キャピタル・マネジメント系のTaransay Funding Ltd.が提出した社外取締役2名の選任議案が否決され、会社提案の取締役候補が可決された経営判断。T&Dホールディングスの取締役会は5月15日に全員一致で株主提案への反対を決議していた。
背景
T&Dは2004年に太陽生命保険・大同生命保険の共同持株会社として発足した連結型のグループで、政策保有株や株式・金利の運用リスクを抱え、株価純資産倍率やP/EV倍率の低迷が続いていた。議決権の約4.6%を保有するファラロンは、資本効率・保険収益・グループガバナンスの3点を経営課題として掲げた。
内容
ファラロンは元MetLifeアジア統括のケン・モハン氏と、Allianz Reの元CFO兼CIOであるイナ・ケーグラー氏を社外取締役候補として提案し、資産ポートフォリオの見直しによる株式・金利リスクの削減と、政策保有株の全売却を求めた。両生保社長がT&D取締役を兼務する構造も「自らが自らを監督する」問題として批判した。
含意
取締役会は現任取締役の再任を基本とする会社提案を最適とし、両候補には上場会社の取締役監督経験がなく監督機能のスキル・実績を確認できないと判断した。否決後もファラロンは株主意識調査や提言書の公表を続け、連結型グループの資本効率と監督のあり方をめぐる論点は決着していない。
筆者の見解

連邦型グループの資本効率と監督

この攻防の中心にあるのは、太陽生命と大同生命という性格の異なる生保を一つの持株会社の下に束ねた連結型のグループが、資本効率と監督のあり方をどう説明するかという問いであった。ファラロンが突いたのは、政策保有株や運用リスクの重さ、そして子会社社長が親会社取締役として自らの経営を監督する構造の弱さである。会社は修正利益やROE、株価純資産倍率の改善を示して現体制を守ったが、P/EV倍率が0.5倍の目標に届かない現実は残った。数字の改善と、それでもなお割安に置かれた株価の距離を、どう埋めるかが問われたとみることができる。

否決という結果だけを見れば、会社側の主張が株主の多数に支持された形となる。ただ、提案株主が総会後も意識調査や提言書の公表を続けた点に、この論点が一度の採決で決着しないことがうかがえる。生命保険という長期の負債を抱える事業では、株式運用のリスクをどこまで取るか、稼いだ資本を株主還元と成長投資のどちらへ向けるかに唯一の正解があるわけではない。連邦型で発足したグループが、次期の長期ビジョンで資本効率と監督をどう描き直すのか。2025年の否決は、その問い直しの入口にあたるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

連結型持株会社が抱えた資本効率の課題

T&Dホールディングスは、2004年に太陽生命保険と大同生命保険が共同で設立した持株会社を出発点とする。両生保はそれぞれ家庭市場と中小企業市場に強みを持ち、傘下にT&Dフィナンシャル生命なども抱える。この連結型のグループは、生命保険で稼いだ資本の置き場所として政策保有株や内外の株式・金利リスクを抱え込み、株価純資産倍率やエンベディッド・バリューに対する株価の倍率が低い水準にとどまっていた。2021年5月に掲げた長期ビジョンではP/EV倍率0.5倍を目標に置いたものの、足元では0.2倍から0.4倍程度で推移していた[1]

とりわけ論点になったのが政策保有株であった。T&Dは長期ビジョンで政策保有株を純資産比20%以下へ縮減する目標を2024年3月に達成したが、一部銘柄は発行会社の合意を得て純投資へ振り替えていた。純投資に振り替えた残高まで含めると、2024年12月末の連結の政策保有株残高は連結純資産の約38%を占め、著名な議決権行使助言会社が定める20%未満の基準を上回る規模であった。株式運用のリスク対リターンは保険事業を下回り、無配当保険が保有契約の大半を占めるなかで、契約者が株式運用のリスクを負う構図も指摘された[2]

ファラロンの株式取得と提案

この構造に着目したのが、米ファラロン・キャピタル・マネジメントであった。ファラロンはT&Dの議決権の約4.6%を保有し、傘下のTaransay Funding Ltd.名義で株主提案に踏み切った。T&Dが提案書面を受領したのは2025年4月22日で、6月開催予定の第21回定時株主総会の議題として、監査等委員でない取締役2名の選任を求める内容であった。ファラロンは総会に先立ち、企業価値向上策と社外取締役候補に関するプレゼンテーション資料を公開し、委任状の争奪へ向けて論陣を張った[3]

提案が掲げた経営課題は3点に整理された。第一に資本効率性の改善で、株式リスクと金利リスクの削減を具体策とした。ファラロンは、大同生命の金利リスクが2021年3月末から2024年3月末にかけて36%削減されたのに対し、持株会社としての削減幅は6%にとどまり、競合他社に見劣りすると指摘した。第二に保険事業の収益性改善で、太陽生命の解約・失効率の高さを問題視した。第三にグループガバナンスの改善を挙げ、太陽・大同両生保の社長がT&D取締役を兼務する体制を批判した[4]

決断

保険の専門家を取締役会へ、という提案

ファラロンが選任を求めた社外取締役候補は2名であった。ひとりは、J.P.モルガンを経てMetLifeで北米・欧州・アジアの保険事業の経営戦略やM&Aに従事し、アジア統括責任者やSVPを務めたケン・モハン氏。もうひとりは、欧州最大級の保険グループAllianzに15年以上在籍し、再保険子会社Allianz ReのCFO兼CIOやAllianzグループCFOオフィスの責任者を務めたイナ・ケーグラー氏である。提案株主は、保険業界に精通した専門家を招くことで、資産ポートフォリオの見直しによる株式・金利リスクの具体的な削減目標の決定と、その後の行動の監督を担わせるねらいを示した[5]

提案のもう一本の柱が、グループガバナンスへの批判であった。ファラロンは、太陽生命と大同生命の代表取締役社長がT&Dの取締役を兼務している点を、子会社の業務執行者が親会社で子会社を監督する「自らが自らを監督する」構造上の問題と位置づけた。あわせて、家庭市場向けの太陽生命と中小企業向けの大同生命は事業内容が異なりシナジーが限定的で、複数の生保が同一グループに並ぶことでコングロマリット・ディスカウントが生じていると主張した。社内のしがらみに縛られない社外取締役の選任が、グループ設計の見直しに欠かせないという論理であった[6]

取締役会の全員一致の反対

T&Dの取締役会は、2025年5月15日に株主提案への反対を全員一致で決議した。会社は、太陽生命社長の田村泰朗氏を新任に迎えつつ、大同生命社長の北原睦朗氏や社外取締役を含む現任取締役の再任を基本とする会社提案の候補構成こそが最適だと判断した。定款で取締役の員数上限は9名とされ、会社提案の候補も9名であったため、株主提案の候補が選任されれば、その人数分だけ会社提案の候補が選任されないという関係にあった。会社は、望む専門性と経験のバランスを備えた人材で取締役会を構成していると位置づけた[7]

反対の理由の中心には、両候補の適格性への疑義があった。会社は、指名・報酬委員による面談を経て、モハン氏には保険事業や事業ポートフォリオマネジメントの、ケーグラー氏には再保険やコンプライアンスの一定の知見を確認したとする。一方で両名とも上場会社の非常勤を含む取締役としての監督経験がなく、社外取締役に期待する監督機能を果たすためのスキルと実績を確認できなかったと結論づけた。あわせて会社は、2024年度のグループ修正利益1,415億円や修正ROE10.4%、株価純資産倍率1.25倍への上昇、過去最大の自己株式取得1,000億円を成果として掲げ、現体制の継続を正当化した[8]

結果

総会での否決と会社の裏づけ

2025年6月26日に開かれた第21回定時株主総会で、ファラロンが求めた社外取締役2名の選任議案は否決され、会社提案の取締役候補が可決された。森山昌彦社長は総会で、取締役会が全員一致で反対を決議した経緯を説明し、両候補の監督機能に資するスキルと実績を確認できなかったとする立場を重ねて示した。委任状争奪の末に会社側が提案を退けた形であった。なお、個別の議案の賛成比率は本稿では確認できていない[9]

会社が反対の裏づけとしたのは、資本効率の改善が進んでいるという主張であった。T&Dは政策保有株を2024年3月に純資産比20%以下へ縮減する目標を達成し、2024年5月には業務提携先などを除いて2031年3月末までに残高ゼロを目指す方針を新たに掲げていた。純投資へ振り替えた銘柄についても、累計で39%を売却したとする。ファラロンが指摘した金利リスクの削減についても、期間中の算出方法の変更を考慮していないと反論し、株式・金利の運用リスク圧縮は進んでいるとの説明を崩さなかった[10]

否決後も続いたキャンペーン

総会での否決は、この問題の終わりにはならなかった。ファラロンは2025年12月18日、独立した第三者の調査会社に委託したT&Dの株主等意識調査(Perception Study)の結果を公表した。運用会社やヘッジファンドなど12社が回答し、75%がT&Dのグループ構造は企業価値最大化の観点から最適ではないと答え、92%が太陽生命の収益性の課題に対し取締役会の監督が十分でないと回答したとする。もっともこれはファラロン自身が委託した調査であり、回答者の範囲も限られていた[11]

調査の公表とあわせて、ファラロンはT&Dに対し、2026年度から始まる次期中期経営計画に経営課題の改善目標を盛り込むよう要求した。太陽生命の販売チャネルの見直しによる収益性の向上や、両生保社長によるT&D取締役の兼務廃止によるガバナンスの改善を具体策として挙げている。翌2026年1月には次期グループ長期ビジョンに対する提言書も公表しており、否決を経ても提案株主と会社の対話は続いていた[12]

出典・参考