京成電鉄 オリエンタルランド株を売却 保有株の一部を手放すことによる資本配分の見直しへの着手

更新:

時期 2024年3月
当時の社長 小林敏也
論点 関連会社株式の縮小と資本配分
何をなぜ決めたか
概要

持分法適用関連会社オリエンタルランド(OLC)の株式をどれだけ持ち続けるかをめぐり、英投資ファンドのパリサー・キャピタルが保有比率の削減と資本コストを意識した資本配分を京成電鉄に求めた。京成は2024年3月にOLC株の一部を譲渡して株主還元へ充てる一方、6月の定時株主総会ではパリサーの定款変更案を否決し、みずからの裁量で保有を段階的に減らした。

背景

京成はOLCの創業以来の大株主で、譲渡前の議決権所有割合は22.15%だった。OLCは東京ディズニーリゾートを運営する持分法適用関連会社で、京成の経営方針によらず独自に意思決定を行う。京成は重要な戦略投資が必要な場面でOLC株を売却してきた経緯があり、1998年には千葉急行線の事業を引き継ぐ原資に充てている。これに対しパリサーは、低額の配当しか生まない保有株が著しく低いPBRなど財務の実態を隠しているとして、売却代金を鉄道事業の成長投資へ充てるよう求めた。

内容

2024年3月、京成はOLC株16,395,000株を801億円で譲渡し、所有割合は22.15%から21.15%へ下げた。関係会社株式売却益を特別利益に計上し、期末配当1株26円のうち8円を特別配当に充てた。パリサーは2026年3月31日までにOLC株を議決権の15%未満へ削減する規定を定款へ新設する議案を出したが、6月27日の第181期定時株主総会で賛成率29.89%により否決された。ISS社とGL社はともに賛成を推奨していた。

含意

京成は11月にもOLCの自己株式立会外買付へ応募して18,000,000株・618億円を売り、議決権保有割合を20.17%へ下げた。2025年1月には株式分割を実施して投資単位を引き下げた。株主提案は退けつつ、その論点である保有株の縮小と資本還元はみずからの裁量で進めた。翌期以降の総会に株主提案は出ず、パリサーは大株主の状況から外れた。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

創業以来の保有株を、だれの裁量で解くか

この判断の核心は、株主提案が否決されながら、その提案が突いた論点——保有株の縮小と資本の再配分——が、経営陣の手でそのまま実行された点にある。京成はパリサーの定款変更案を退け、議決権の15%未満という数値の縛りも、その期限を定款に書き込むことも受け入れなかった。それでも、2024年3月と11月のOLC株譲渡、特別配当と自己株式の取得、株式分割は、いずれも提案株主が求めた方向を向いていた。助言会社の推奨を受けてなお賛成率が29.89%にとどまった一方で、経営が実際に選んだ道筋は、投票の結果とは別のところで決まっていた。

もう一つ残るのは、創業以来の保有株をどう扱うかという問いである。オリエンタルランドの株は、京成にとって同社との関係を支える貴重な財産であると同時に、大型投資の資金調達原資でもあった。会社は売却の方法やタイミングには慎重な検討が要るとし、明確な資金使途がある場合の原資として活用する立場を採った。提案株主は、その保有こそが財務の実態を隠していると見て、期限を切った削減を定款に書かせようとした。成長する資産を抱え続ける理由と、その資産に見合う効率を株主へ返す責任のどちらを重く見るかは、上場関連会社を持つ企業がどこで線を引くのかという問いとして、今日に残っている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
株主提案の条件

株主提案の条件

科目 概要 備考
提案株主 Palliser Capital Master Fund Ltd 2024年3月期末の所有比率は1.98%で大株主第6位。招集通知では「株主様1名」と記載
対象の株主総会 第181期定時株主総会(2024年6月27日) 株主提案の受領は2024年4月30日。取締役会は5月20日に反対を決議した
株主提案の議案 第4号議案 定款一部変更の件 資本配分政策の策定及び投資有価証券の管理に関する規定を第7章として新設する内容
提案が求めた保有比率 オリエンタルランド株を15%未満へ 2026年3月31日までに議決権の総数の100分の15未満へ削減し、その水準を維持する
提案が求めた資本配分政策 2025年1月1日以降に適用 資本コストを考慮した政策を策定・公表・維持し、進捗を年に一度公表することを求めた
提案の理由 低額の配当しか生まない保有株の縮小 売却代金を鉄道事業の成長投資へ充て、歪んだ会計処理を是正できるとした
取締役会の意見 反対(2024年5月20日決議) 独立社外取締役5名を含む取締役全員一致。売却の目的化と経営上の制約を理由に挙げた
議決権行使助言会社の推奨 ISS社とGL社がともに賛成を推奨 会社は事業特性を理解した判断ではないとして、株主へ本提案への反対を呼びかけた
議決の結果 否決(賛成率29.89%) 賛成428,303個・反対987,631個・棄権12,063個。会社提案の3議案はすべて可決
可決の要件 出席した株主の議決権の3分の2以上 議決権の3分の1以上を有する株主の出席が前提。定款変更のため特別決議となる

出所:京成電鉄 第181期定時株主総会 招集ご通知(2024年5月29日)・臨時報告書(2024年7月3日提出)

第181期定時株主総会の議案別賛成率

京成電鉄:第181期定時株主総会の議案別賛成率

(%) 賛成率 備考
第1号 剰余金処分 97.85 会社提案。期末配当は1株26円で、うち8円はOLC株売却益による特別配当
第2号 小林敏也 85.29 会社提案。取締役15名選任のうち代表取締役社長
第2号 天野貴夫 92.08 会社提案。翌年の第182期に代表取締役社長へ就任
第2号 持永秀毅 95.25
第2号 山田耕司 92.5
第2号 岡匡一 95.3
第2号 清水健司 95.3
第2号 延命誠 95.31
第2号 栃木庄太郎 96.93
第2号 菊池節 85.44
第2号 芦崎武志 91.55
第2号 網谷多加子 97.01
第2号 田口和己 95.3
第2号 河合義一 94.65
第2号 中島明子 97.16
第2号 石内俊行 90.21
第3号 手島恒明 76.5 会社提案の監査役選任
第3号 河角誠 86.69
第4号 定款一部変更 29.89 株主提案。可決には3分の2以上を要し、賛成は3割に届かず否決された

出所:京成電鉄 臨時報告書(2024年7月3日提出)第181期定時株主総会の議決権行使結果

定時株主総会ごとの主要議案の賛成率

京成電鉄:定時株主総会ごとの主要議案の賛成率

(%) 剰余金処分小林敏也天野貴夫 備考
第181期(2024年6月27日) 97.8585.2992.08 株主提案の第4号議案は賛成率29.89%で否決された
第182期(2025年6月27日) 96.2877.9386.64 株主提案はなく、Palliserは社外取締役候補5名の推薦を求めた
第183期(2026年6月26日) 97.787.691.06 株主提案はなく、Palliserは大株主の状況から外れた

出所:京成電鉄 臨時報告書(2024年7月3日・2025年7月3日・2026年7月2日提出)議決権行使結果

オリエンタルランド株の所有割合とパリサーの所有比率

京成電鉄:オリエンタルランド株の所有割合とパリサーの所有比率

(%) OLC議決権所有割合パリサーの所有比率 備考
2019年3月期 22.1− OLCは持分法適用関連会社。うち0.1は子会社を通じた間接所有
2020年3月期 22.2−
2021年3月期 22.2−
2022年3月期 22.2−
2023年3月期 22.21.53 Palliserが大株主第8位として初めて記載された
2024年3月期 21.21.98 3月にOLC株を801億円で譲渡し所有割合は22.15%から21.15%へ
2025年3月期 20.14.4 11月にOLCの自己株式買付へ応募し618億円を売却。Palliserは第3位
2026年3月期 20.1− Palliserは上位10名から外れ、大株主の状況に記載がない
株主提案の直前・2024年3月期の大株主
  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 14%
  • 日本カストディ銀行(信託口) 8%
  • 日本生命保険 4%
  • オリエンタルランド 3%
  • みずほ銀行 3%
  • Palliser Capital Master Fund Ltd 2%
  • その他 66%

出所:京成電鉄 有価証券報告書 第176〜183期【関係会社の状況】【大株主の状況】 / 京成電鉄 有価証券報告書 第181期(2024年3月期)【株式の総数等】(発行済株式総数172,411千株)

投資有価証券と純資産の推移

京成電鉄:投資有価証券と純資産の推移

(百万円) 投資有価証券純資産合計総資産 備考
2019年3月期 219,354402,901853,025
2020年3月期 226,131428,664905,716
2021年3月期 207,321396,044900,698 新型コロナウイルス感染症の影響で純資産が減少した期
2022年3月期 204,162387,705900,346
2023年3月期 202,892410,945965,573
2024年3月期 225,591469,1571,064,202 関係会社株式売却益70,840百万円を特別利益に計上した期
2025年3月期 236,626524,6581,094,120 OLC株の追加売却で関係会社株式売却益と持分変動損失を計上した
2026年3月期 281,209575,6051,181,801
投資有価証券
投資有価証券(百万円)

出所:京成電鉄 有価証券報告書 第176〜183期(連結貸借対照表)

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参考文献
出典・参考

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