花王 オアシスの株主提案対応 物言う株主の要求を退け、中期経営計画K27を堅持する選択

更新:

時期 2025年3月
当時の社長 長谷部佳宏
論点 資本効率・事業ポートフォリオへの株主圧力とガバナンス
何をなぜ決めたか
概要

2024年、香港の物言う株主オアシス・マネジメントが花王株を取得し、不振ブランドの整理・資本効率の改善・社外取締役の選任を求めた。花王取締役会は2025年の株主提案すべてに反対し、3月21日の定時株主総会で否決した。ただしオアシスは持株を積み増し、2026年には供給網をめぐる独立調査を求めて臨時株主総会を要求するなど、圧力は続く。

背景

化粧品と中国事業の不振で、花王の2023年12月期の営業利益は前期比45.5%減の600億円へ減少し、化粧品事業は営業赤字に転じた。株価は2021年以降におよそ23%下がり、同業各社に見劣りした。低い資本効率への市場の不満を背景に、オアシスが接近した。

内容

オアシスは2024年4月に事業改善を求めるキャンペーンを始め、12月5日時点で5.23%を保有して社外取締役5人の選任など4議案を提案した。花王は中期経営計画"K27"によるROIC改善を掲げて4議案すべてに反対し、2025年3月21日の総会で賛成率11.25〜29.19%で否決された。

含意

否決後、花王の2024年12月期の営業利益は1466億円へ回復した。だがオアシスは持株を12.52%へ高め、2026年3月にパーム油や紙・パルプの調達をめぐる独立調査を求めて臨時総会の招集を請求した。この提案も賛成30.30%で否決されたが、資本市場の規律をめぐる圧力は本稿の時点で収まっていない。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

否決してなお続く規律

この判断の核心は、株主提案を二度とも否決しながら、物言う株主の圧力そのものは消えなかった点にある。花王は外部からの取締役の送り込みを退け、K27による自力の立て直しを選び、2024年12月期の営業利益回復でその主張を裏づけた。それでも、賛成が3割に達したオアシスの提案は、経営陣の裁量が一定の株主の不信のもとに置かれていることを示した。収益力を落とした老舗の日用品最大手に、資本市場は資本効率と海外成長という物差しを当て、経営の説明責任を問い直した。否決という採決の結果と、経営がこの先に選ぶ道筋は、必ずしも同じところにはない。

もう一つ残るのは、圧力の論点が資本効率から供給網の人権・環境へ移ったことである。オアシスは持株を12%超へ高めながら、パーム油や紙・パルプの調達をめぐる独立調査へと要求の的を変えた。ブランドの整理や資本効率という財務の話から、原材料の調達責任という非財務の話まで、物言う株主が経営に迫る範囲は広がっている。花王がESGを経営の中心に掲げてきたからこそ、その調達の実態に批判が向いた皮肉も生じた。二度の否決を経てなお続くこの攻防は、収益と株価を落とした優良企業に資本市場がどこまで規律を及ぼせるのかという問いを、今日の日本企業に開いたまま残している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
株主提案の条件

株主提案の条件

科目 概要 備考
提案株主 Oasis Japan Strategic Fund Ltd. 招集通知は「オアシス」と表記。議案名と提案の理由は提出書面の原文のまま掲載された
提案時の保有比率 5.23%(24,347千株) 2024年12月5日現在の大量保有報告書。名簿上の実質保有株式数は会社が確認できていない
対象の株主総会 第119期定時株主総会(2025年3月21日) 当日出席を含めた議決権行使個数は3,648,343個
株主提案の議案 第4号議案から第7号議案までの4件 社外取締役5名の選任、その報酬額改訂と株式報酬付与、取締役の株式報酬制度の承認
提案の理由 独立した監督と説明責任による貢献 候補者5名は独立の立場で監督し説明責任を果たす専門知識を持つとした
会社が掲げた対案 中期経営計画「K27」 2027年度にROIC11%以上、EVA700億円以上、海外売上高8,000億円以上を掲げた
取締役会の意見 反対(2025年2月14日公表) 選任審査委員会と報酬諮問委員会の答申を踏まえ、4議案すべてに反対を決議した
議決の結果 4議案とも否決 賛成率は11.25〜29.19%。会社提案の第1号から第3号議案はすべて可決した
可決の要件 出席した株主の議決権の過半数 第2号から第4号議案は議決権の3分の1以上を有する株主の出席が前提
臨時株主総会の請求 2026年3月5日に受領 会社法297条1項に基づく請求。パーム油と紙・パルプの調達を調べる者3名の選任
臨時株主総会の結果 否決(賛成30.30%) 2026年4月30日開催。取締役会は社外取締役を含む全会一致で反対を決議した

出所:花王 第119期定時株主総会 招集ご通知・株主提案に対する当社取締役会意見(2025年2月14日)・臨時報告書(2025年3月24日提出)

第119期定時株主総会の議案別賛成率

花王:第119期定時株主総会の議案別賛成率

(%) 賛成率 備考
第1号 剰余金処分 93.94 会社提案。1株76円の期末配当で配当総額は354億円
第2号 長谷部佳宏 89.7 会社提案の取締役9名選任。オアシスは社長の交代までは求めていない
第2号 根来昌一 90.19
第2号 西口徹 91.22
第2号 リサ・マッカラン 90.87
第2号 篠辺修 91.84
第2号 桜井恵理子 91.9
第2号 西井孝明 91.94
第2号 髙島誠 87.27 会社提案の候補者のなかで最も低い
第2号 サラ・カサノバ 93.53 会社が新たに擁立した社外取締役候補
第3号 村田真実 91.38 会社提案の監査役2名選任
第3号 内藤順也 93.83
第4号 Yannis Skoufalos 27.34 以下5名はオアシスだけが提案した社外取締役候補。いずれも否決
第4号 Martha Velando 24.12
第4号 Lanchi Venator 17.93
第4号 Hugh G. Dineen 11.25
第4号 Anja Lagodny 23.52
第5号 社外取締役の報酬額改訂 28.96 全取締役7億8,000万円以内、うち社外取締役2億5,000万円以内とする提案
第6号 社外取締役への株式報酬 29.19 株主提案4議案のうち最も高い賛成率
第7号 取締役の株式報酬制度 24.22 K27の株式報酬制度を凍結し、新制度へ切り替える提案

出所:花王 臨時報告書(2025年3月24日提出)第119期定時株主総会の議決権行使結果

総会別の賛成率

花王:総会別の賛成率

(%) 社長(長谷部佳宏)の選任株主提案の最高賛成率 備考
2024年3月 第118期定時 93.72− 株主提案はなく、会社提案の5議案がすべて可決した
2025年3月 第119期定時 89.729.19 株主提案4議案の賛成率は11.25〜29.19%。最高は第6号議案
2026年3月 第120期定時 91.58− 株主提案はなく、会社提案の5議案がすべて可決した
2026年4月 臨時株主総会 −30.3 調査者選任の1議案のみ。取締役の選任は付議されていない

出所:花王 臨時報告書(2024年3月25日・2025年3月24日・2026年3月27日・2026年5月1日提出)議決権行使結果

連結業績と営業利益率の推移

花王:連結業績と営業利益率の推移

(百万円) 売上高営業利益 備考
2019年12月期 1,502,241211,723 ROE17.6%。K27が更新目標に据えた過去最高の営業利益2,117億円
2020年12月期 1,381,997175,563 ROE14.2%
2021年12月期 1,418,768143,510 ROE11.6%
2022年12月期 1,551,059110,071 ROE8.9%
2023年12月期 1,532,57960,035 ROE4.5%。K27を掲げた期で、ROICは4.1%まで下がった
2024年12月期 1,628,448146,644 ROE10.5%、ROICは9.2%。株主提案を否決した総会の対象期
2025年12月期 1,688,633164,069 ROE11.3%
売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:花王 有価証券報告書 第117期・第120期【主要な経営指標等の推移】 / 花王 有価証券報告書 第120期(2025年12月期)【連結損益計算書】 / 花王 IR 開示資料「株主提案に対する当社取締役会意見」(2025年2月14日)

化粧品事業の売上高とセグメント利益

花王:化粧品事業の売上高とセグメント利益

(百万円) 売上高セグメント利益 備考
2020年12月期 233,6032,422
2021年12月期 239,3357,492
2022年12月期 251,47214,086
2023年12月期 238,606△5,402 中国事業の不振で営業赤字に転落した
2024年12月期 244,102△3,664 2期連続の営業赤字。オアシスが不振ブランドの整理を求めた事業
2025年12月期 261,56310,411 注力6ブランドへの投資が効き、104億円の黒字に転じた
化粧品事業の売上高と利益率
売上高(百万円)セグメント利益率(%)

出所:花王 有価証券報告書 第116期・第117期・第119期・第120期【セグメント情報】

所有者別状況の推移

花王:所有者別状況の推移

(%) 外国法人等(法人)金融機関個人その他 備考
2019年12月期 44.4437.1810.72
2020年12月期 40.0438.9911.2
2021年12月期 37.6536.6613.37
2022年12月期 34.836.6515.22
2023年12月期 35.5836.215.47
2024年12月期 39.6834.8213.86 株主提案がかかった総会の基準日。外国法人等が4.1ポイント上がった
2025年12月期 41.5733.9414.17 オアシスの2名義が上位10名に入る。実質保有株式数は会社が確認できていない
臨時株主総会の請求前・2025年12月期の大株主
  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 18%
  • 日本カストディ銀行(信託口) 7%
  • ステート ストリート バンク アンド トラスト カンパニー 505001 2%
  • ビーエヌワイエム アズ エージーテイ クライアンツ ノン トリーテイー ジヤスデツク 2%
  • 日本証券金融 2%
  • Oasis Opportunities Fund One SPC - ECHO SP 2%
  • オアシスジャパンストラテジックファンド リミテッド 1%
  • その他 67%

出所:花王 有価証券報告書 第114〜120期【所有者別状況】 / 花王 有価証券報告書 第120期(2025年12月期)【大株主の状況】 / 花王 有価証券報告書 第120期(2025年12月期)【株式の総数等】(発行済株式総数453,600,000株)

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参考文献
出典・参考

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