北越コーポレーション オアシスのキャンペーン開始 大王製紙株の売却とバイオマス発電への集中を求めた4提案の公開

更新:

時期 2021年10月
当時の社長 岸本晢夫
論点 政策保有株式とガバナンス
何をなぜ決めたか
概要

2021年10月、北越コーポレーションの議決権の9.50%を握る香港の投資ファンド、オアシス・マネジメント・カンパニーが「より「強い」北越(A Better HOKUETSU)」と題したウェブサイトを開き、4つの提案を公開した。バイオマス発電への集中投資、製紙事業のコスト構造改善とパッケージ事業への注力、大王製紙株式の売却によるROE改善、岸本晢夫社長の交代を含むガバナンスの改善である。

株主提案の議案は出さず、要求を公開して株主の目にさらす形で経営に迫った。翌2022年2月14日には保有が10.83%に達し、主要株主となった。

背景

ペーパーレス化が印刷用紙の需要を削るなか、北越は2012年に引き受けた大王製紙株式を持分法適用関連会社として抱え続けていた。2021年3月期の連結売上高は2,224億円、営業利益は17億円で、経常利益98億円のうち相当部分を持分法による投資利益が占める形になっていた。岸本晢夫社長の在任は2008年4月から13年に及び、キャンペーン開始の時点で76歳、取締役在任は22年を数えていた。

内容

要求の中心は大王製紙株式だった。北越と大王製紙は敵対的関係にあってシナジーを享受できず、配当利回り0.8%はROE 4.3%を下回る。保有を解消して中核事業へ振り向け、有利子負債も使えばROEは7.2%まで改善する ── これがオアシスの計算である。代わりに据えるべき中核事業がバイオマス発電で、IRRは15%超、成功すれば企業価値は5,339億円、322%の上昇が見込めるとした。会社は、大王製紙株式は中長期の事業戦略上の保有であって一般的な政策保有株式とは位置づけが異なり、単年度の業績や時価で保有方針を変えるものではないと退けた。

含意

要求は3年後に票となって現れた。オアシスの2社は2024年4月19日付の書面で第186回定時株主総会に5議案を提案し、その第5号議案は代表取締役1名の解任 ── すなわち岸本晢夫氏の解任だった。取締役会は指名・報酬委員会の答申に基づき全議案に反対し、解任提案は賛成38.17%で否決された。一方で会社は同じ年の5月15日、大王製紙との戦略的業務提携基本契約の締結によって株式の保有目的であった強固なパートナーシップ構築は実現したとして、大王製紙株式を必要な範囲で削減する方針を公表している。

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筆者の見解
筆者の見解

縮む本業と、動かせなかった資本

この局面で問われたのは事業の巧拙ではなく、長期政権の社長が積み上げた資本の置き場所そのものだった。オアシスは大王製紙株式の売却を軸に据え、そこから外した資金をバイオマス発電へ振り向ければ、ROEは4.3%から7.2%へ上がると計算してみせた。会社の答えは、大王製紙株式は一般的な政策保有株式ではなく中長期の事業戦略上の保有だ、というものである。同じ株式が、一方には遊休資本と映り、他方には戦略資産と映る。議論が噛み合わなかったのは、保有の目的が誰にでも検算できる数字の形になっていなかったからだと思われる。

もっとも、要求そのものは形を変えて動き出した。会社は2022年3月にバイオマス発電事業への参画を公表し、5月には買収防衛策を非継続とし、2024年5月には大王製紙株式を必要な範囲で削減する方針を示している。いずれもオアシスに応えたとは述べていないが、並べれば4つの提案のうち3つに重なる。皮肉なのは、売却を求められた大王製紙株式が、その後は大王海運による買い集めの標的となり、資本関係のもつれとして経営の主戦場に居座ったことである。物言う株主は、縮む本業と動かせない資本という古い製紙会社の構造を外から可視化したが、それをほどく手綱までは渡さなかった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
要求と会社の応答

要求と会社の応答

科目 概要 備考
提案株主 オアシス・マネジメント・カンパニー 香港を拠点とする投資ファンド。運用するOasis Japan Strategic Fund Ltd.ほかが北越株を持つ
要求を伝えた手段 キャンペーン「より「強い」北越」 2021年10月にウェブサイトを開き4つの提案を公開した。株主提案の議案は出していない
キャンペーン開始時の所有比率 9.50%(15,985,100株) 2021年10月21日時点。大量保有報告書の変更報告書に基づく議決権比率
4か月後の所有比率 10.83%(18,229,200株) 2022年2月14日付で主要株主となった。2021年9月末の総議決権1,683,034個に対する割合
要求① バイオマス発電 中核事業をバイオマス発電へ移す IRRは15%超と見込み、成功すれば企業価値5,339億円・322%の上昇と試算した
要求② 製紙事業 コスト構造の改善とパッケージ事業への注力 工場の港湾近接への移設と、木材チップ調達先の東南アジアへの切替を挙げた
要求③ 大王製紙株式 保有を解消してROEを改善する 配当利回り0.8%はROE 4.3%を下回るとし、負債活用でROE 7.2%まで改善余地とした
要求④ ガバナンス 新CEOへの交代と買収防衛策の廃止 岸本晢夫氏は当時76歳、取締役在任22年、CEO在任13年だとした
会社の応答① 大王製紙株式 中長期の事業戦略上の保有を継続 一般的な政策保有株式とは位置づけが異なり、単年度の業績や時価で方針を変えないとした
会社の応答② 政策保有株式 連結純資産対比6.3% みなし保有株式を加えても9.4%。議決権行使助言会社の反対推奨基準を下回るとした
会社の応答③ 買収防衛策 2022年5月13日に非継続を決定 2022年3月4日にはバイオマス発電事業への参画を公表している
株主提案への発展 第186回定時株主総会に5議案 2024年4月19日付の書面。代表取締役1名解任・社外取締役4名解任と5名選任ほか
取締役会の意見 5議案すべてに反対 指名・報酬委員会の答申に基づく。2024年5月22日に意見を公表した
議決の結果 株主提案5議案をすべて否決 代表取締役解任は賛成38.17%。同時に出た大王海運の2議案も否決された
可決の要件 出席議決権の過半数 代表取締役の解任は議決権の過半数を有する株主の出席も要する
大王製紙株式の帰趨 2024年5月15日に削減方針を公表 戦略的業務提携基本契約の締結で保有目的を実現したとして必要な範囲で削減する

出所:北越コーポレーション プレスリリース「主要株主の異動に関するお知らせ」(2022年2月17日)・「オアシスのプレゼンテーションに対する当社取締役会の見解」(2023年6月2日)・「当社が保有する大王製紙株式に関するお知らせ」(2024年5月15日)/第186回定時株主総会 招集ご通知・臨時報告書/オアシス・マネジメント キャンペーン「より「強い」北越」

定時株主総会の議決結果

北越コーポレーション:定時株主総会の議決結果

(%) 岸本晢夫氏の取締役選任株主提案の最高賛成率 備考
第183回(2021年6月29日) 80.21− キャンペーン開始前。株主提案はない
第185回(2023年6月29日) 65.1337.83 株主提案3議案はNippon Active Value Fund plc。最高は自己株式取得の件
第186回(2024年6月27日) −42.69 オアシス2社が5議案、大王海運が2議案。代表取締役解任は賛成38.17%
第187回(2025年6月27日) 59.42− 株主提案はない。買収への対応方針の導入は賛成53.46%で可決
第188回(2026年6月26日) 82.98− 株主提案はない

出所:北越コーポレーション 臨時報告書(第183〜188回定時株主総会における議決権行使結果)

所有者別状況の推移

北越コーポレーション:所有者別状況の推移

(%) 外国法人等(法人)金融機関個人その他 備考
2017年3月期 7.9740.0618.14
2018年3月期 13.5336.518.82
2019年3月期 13.535.4818.81
2020年3月期 17.2839.322.18
2021年3月期 17.6436.8321.97
2022年3月期 20.2734.0720.68 キャンペーン開始後の期末。外国法人等は2ポイント超の上昇
2023年3月期 23.529.520.35 外国法人等がこの11期で最高。美須賀海運が筆頭株主となった期
2024年3月期 16.9526.4319.43
2025年3月期 12.9625.9619.35
2026年3月期 12.734.613
キャンペーン開始後・2022年3月期末の大株主(名簿上の名義。実質保有は含まれない)
  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12%
  • 第四北越銀行 5%
  • 大王海運 5%
  • 北越コーポレーション持株会 4%
  • 住友不動産 4%
  • OASIS JAPAN STRATEGIC FUND LTD.-CLIENT ACCOUNT 3%
  • その他 68%

出所:北越コーポレーション 有価証券報告書 第179〜188期【所有者別状況】 / 北越コーポレーション 有価証券報告書 第184期【大株主の状況】(2022年3月31日現在。発行済株式総数188,053千株、自己株式19,420千株)

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参考文献
出典・参考

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