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オアシスによるキャンペーン「より「強い」北越」の開始

2021年実施

時価総額の約75%を占める政策保有株式に、物言う株主は北越の何を問うたか

時期 2021年10月
意思決定者 岸本晢夫(社長)
論点 政策保有株式とガバナンス
概要
2021年10月、北越コーポレーションの株式を7.3%以上保有する香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが「より「強い」北越(A Better Hokuetsu)」と題したアクティビスト・キャンペーンを開始し、時価総額の約75%に相当する政策保有株式の縮減とバイオマス発電への集中投資を岸本晢夫社長に迫った局面。
背景
中核の紙パルプ事業がペーパーレス化で構造的に縮小するなか、北越は2012年に取得した大王製紙株をはじめ多額の政策保有株式を抱えていた。オアシスは、岸本社長が13年にわたり事業モデルの転換に消極的だったと批判した。
内容
オアシスは特設サイトを設け、大王製紙の政策保有株式の売却、バイオマス発電の中核事業化、製紙事業のコスト構造改革とパッケージング重視、ROE改善とバランスシートの効率化、ガバナンス強化を要求した。計画を実行すれば時価総額は現状の4倍超の5,339億円になり得ると主張した。
含意
一連の要求は、長期政権を築いた社長の資本配分に外部から異議を突きつけるものであった。北越は要求を拒み株価は膠着したが、のちに大王製紙株の削減方針表明やパッケージング拡大へとつながり、資本関係の見直しが経営の中心論点となっていった。
筆者の見解

縮む本業と、動かせなかった資本

この局面の核心は、事業の巧拙よりも、長期政権の社長が積み上げた資本の配置そのものが問われた点にある。北越は紙パルプという縮小産業に軸足を置きながら、2012年に引き受けた大王製紙株をはじめ、時価総額の大半に相当する政策保有株式を抱えていた。オアシスの要求は、その動かない資本を成長分野へ振り向けよという資本効率の観点からの異議であり、業績の良し悪しとは別の次元で経営の説明責任を迫るものだったとみることができる。岸本社長の解任には至らなかったものの、賛成が4割に迫った事実は、株主の少なからぬ部分が資本政策への不満を共有していたことを示している。

皮肉なのは、オアシスが売却を求めた大王製紙株が、その後はむしろ経営の主戦場になっていったことである。かつて創業家の経営問題を背景に北越が引き受けた大王製紙株は、時を経て、その創業家が関与する大王海運が北越へ影響力を及ぼす足がかりへと転じた。北越は業務提携と削減方針で軟着陸を図ったが、資本関係のもつれは容易にはほどけていない。物言う株主の登場は、縮む本業と動かせない資本という古い製紙会社の構造問題を、外部の視点から可視化した出来事として記憶されることになる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

13年の長期政権と縮む紙パルプ事業

北越コーポレーションは、新潟県長岡市で1907年に生まれた製紙会社を源流とし、印刷用紙や情報用紙、板紙を主力とする製紙大手である。2008年に岸本晢夫が社長に昇格すると、カナダのパルプ事業会社の買収など海外への展開を進める一方、国内の中核である紙パルプ事業は、社会全体のペーパーレス化とともに構造的な縮小局面に入っていった。とりわけ新型コロナウイルス感染症の流行期には、印刷用紙などの需要減少が加速し、収益の柱が細っていく現実が誰の目にも明らかになりつつあった[1]

大王製紙株と積み上がった政策保有株式

この会社にはもう一つ、特徴的な資本の構図があった。北越は2012年、経営問題に揺れていた業界大手・大王製紙の株式を取得し、同社を持分法適用関連会社とした。以後、この大王製紙株を含む政策保有株式が積み上がり、その規模は時価総額のおよそ4分の3に達していた。持ち合いの縮減を促す日本のコーポレートガバナンス・コードの方向とは逆に、多額の資本が事業に振り向けられないまま株式として固定されている——この点が、のちに外部の株主から鋭く問われる火種となっていく[2][3]

決断

「より「強い」北越」キャンペーンの始動

2021年10月、北越株を7.3%以上保有していたオアシス・マネジメントは、「より「強い」北越」と題したキャンペーンを公表し、特設サイトを立ち上げた。オアシスは、ペーパーレス化する社会への変革とすべてのステークホルダーに利する長期的な企業価値向上を掲げつつ、岸本社長がこの現実を受け止めず、生き残るための事業モデルの転換に消極的なまま13年にわたって経営トップを務めてきたと批判した。オアシスによれば、その在任期間に従業員の平均給与は13%減少していた。長期保有の株主が、公然と経営の刷新を迫る局面であった[4][5]

政策保有株式の売却とバイオマスへの転換要求

オアシスの要求は具体的であった。第一に、大王製紙をはじめとする政策保有株式を売却すること。第二に、その売却資金を、2006年に北越が始めていたバイオマス発電へ振り向け、これを次なる中核事業に育てること。あわせて、製紙事業のコスト構造の改革とパッケージング事業への注力、ROEの改善とバランスシートの効率化、そしてガバナンスの強化を掲げた。オアシスは、北越が計画を実行すれば市場価値は現状の4倍を超える5,339億円になり得ると試算し、同社が著しく過小評価されていると主張した[6][7]

オアシスの創業者兼最高投資責任者であるセス・フィッシャーは、北越が著しく過小評価されており、バイオマス発電という次世代の機会を有しているとしたうえで、同社のステークホルダーと従業員はすでに13年におよぶ業績不振を経験しており、大胆な行動と変革に取り組むリーダーシップを必要としていると訴えた。要求の主眼は、個々の事業の巧拙よりも、動かない資本を成長分野へ再配分せよという資本効率の一点にあった[8]

結果

北越の拒否と対立の長期化

北越は、オアシスの要求をそのまま受け入れなかった。大王製紙株の売却には踏み切らず、資本を動かさない姿勢を保ったため、キャンペーンが期待させた株価の上昇も続かなかった。オアシスは対話を続けながら攻勢を強め、2023年には第2弾のキャンペーンを掲げて岸本社長の再任に反対を呼びかけたが、同年6月の株主総会で会社側の再任案が可決された。北越は、岸本社長の就任以降に業界トップクラスの経営成績を実現し、適切なガバナンスも達成できていると反論し、両者の主張は平行線をたどった[9]

大王海運の参入、削減方針、そして薄氷の再任

局面を複雑にしたのは、オアシスが売却を求めていた大王製紙株そのものであった。北越は2024年5月15日、大王製紙との業務提携契約を締結し、約25%保有する大王製紙株を必要な範囲で削減する方針を表明したが、オアシスは売却の時期や方法の具体性を欠くと批判した。折しも、大王製紙の創業家が関与する大王海運が北越株を買い進め、オアシスと並ぶ大株主として名乗りを上げていた。2024年6月の株主総会では、両ファンドが合わせて4割を超える議決権を握るなか、岸本社長の解任提案が付議されたが、賛成は38.17%にとどまり、社長は薄氷を踏むかたちで再任された。その後、2026年1月には18年ぶりの社長交代が発表され、岸本社長は会長グループ最高経営責任者へと退いた[10][11]

出典・参考
  • オアシス・マネジメント・カンパニー プレスリリース 2021年10月25日「オアシスによる、「より「強い」北越」に関する声明(証券コード:3865)」(Business Wire)
  • A Better HOKUETSU キャンペーンサイト(オアシス・マネジメント, www.abetterhokuetsu.com)
  • HOKUETSU Corp Gov「オアシスの北越との対話の経緯」(オアシス・マネジメント)
  • 日本経済新聞 2024年5月22日「北越コーポレーション、オアシスと大王海運の株主提案に反対表明」
  • 日本経済新聞 2024年5月21日「北越コーポレーションの大王製紙株売却は『具体性欠く』 オアシス・マネジメント」
  • 日経ビジネス 2024年7月8日「北越コーポ、薄氷の社長再任 再編漂流が生んだアクティビストの介入余地」(日経BP)
  • 日本経済新聞 2026年1月27日「北越コーポが18年ぶり社長交代、若本氏が昇格 岸本氏は会長CEO」
  • 北越コーポレーション 有価証券報告書【沿革】
  • 北越コーポレーション pl_long(有価証券報告書)