三菱UFJフィナンシャル・グループ モルガン・スタンレー出資 リーマン危機のさなかに踏み切った米投資銀行への90億米ドルの資本投入

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時期 2008年9月
当時の社長 畔柳信雄
論点 海外展開と投資銀行ビジネス
何をなぜ決めたか
概要

2008年9月29日、企業金融・投資銀行業務分野を中心としたグローバルな戦略的提携の構築を目的に、モルガン・スタンレーとの資本提携で合意した。10月13日には出資条件を変更したうえで90億米ドルを出資し、役員・従業員向けオプションを除いた希薄化後の普通株式出資比率で20.9%を取得している。内訳は転換型優先株式が7,839,209千米ドル、償還型優先株式が1,160,791千米ドルで、いずれも年間配当利回りは10%。契約上、完全希薄化後の出資比率20%を維持する権利を原則として持ち、10%以上を維持する限り取締役1名を派遣する権利も得た。

背景

2008年9月、リーマン・ブラザーズの破綻で独立系投資銀行への信認が崩れ、モルガン・スタンレーの株価は急落した。もっともMUFGが掲げたのは救済ではない。普通銀行・信託銀行・証券会社に加え、カード・リース・消費者金融・資産運用会社・米国銀行を傘下に擁するグループの総合力を業態の枠を超えて発揮する戦略であり、モルガン・スタンレーとのグローバルベースでのアライアンス戦略の具体化を、CIB戦略の推進やアジア関連ビジネスの強化と並ぶ柱に位置づけた。提携関係が解消されれば事業戦略と財政状態に悪影響が及ぶ可能性も、自らリスクとして列挙している。

内容

優先株式には議決権が付かず、6四半期以上に相当する期間に配当の宣言および支払いがない場合に限り、他の優先株主とともに取締役2名を追加的に選任できる。転換型優先株式の転換価格は25.25米ドルで、1株あたり普通株式39.604株に転換される。発行から1年を経た後、株価が連続する30取引日のうち20取引日について転換価格の150%を上回れば優先株式の50%が転換され、2年経過後は同じ条件で残りが全て転換される設計だった。償還型優先株式は、発行3年後よりモルガン・スタンレーが額面の110%で償還する権利を持つ。

含意

2009年5月と6月の公募増資では普通株式を29,375,000株(1株24米ドル)と17,178,055株(1株27.44米ドル)取得し、あわせて償還型優先株式640,909株の償還を受けた。2011年4月21日には転換型優先株式の全てを普通株式へ任意転換する契約を締結し、従来の転換条件による株数に約75百万株を加えることで合意する。6月30日の転換で385,464,097株を受領して議決権の22.4%を保有し、モルガン・スタンレーは持分法適用関連会社となった。取得原価731,807百万円に対し時価純資産の持分額が上回り、290,644百万円の負ののれんが生じている。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

救済の顔をした下値対策

恐怖が値を決める市場で買い手に回った判断として語られがちだが、条件を並べると見えてくるのは、救済の顔をした周到な下値対策である。90億米ドルは全額が優先株で、年10%の配当が付き、議決権は持たない。株価が転換価格の150%を上回るまで強制転換は起きず、相手の株価がどこまで沈もうと配当だけは受け取り、浮上して初めて普通株の値上がりを取りにいく。危機下の交渉としては、むしろ冷徹な組み立てだった。

もっとも、この投資が数字として実を結ぶまでには時間がかかった。出資した2009年3月期、MUFGは連結当期純損失2,569億円を計上し、持分法にも乗らない優先株のまま年度を越えている。潮目が変わるのは2011年6月30日の任意転換で、持分法適用関連会社となった2012年3月期、持分法による投資利益は3,775億円へ跳ねた。うち2,906億円は負ののれん、つまり払った値より相手の純資産の持分額が厚かったことの記帳であり、危機の底で付けた値がいかに安かったかを事後に示す数字だとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
資本提携の条件

資本提携の条件

科目 概要 備考
合意日 2008年9月29日 企業金融・投資銀行業務分野を中心としたグローバルな戦略的提携の構築が目的
出資実行日 2008年10月13日 9月29日の合意から出資条件を変更したうえで実行した
出資額 90億米ドル
取得した潜在的議決権比率 20.9% 役員・従業員向けオプションを除いた希薄化後の普通株式出資比率
転換型優先株式 7,839,209千米ドル 引受株式数7,839,209株。転換価格25.25米ドル、1株あたり普通株式39.604株に転換
償還型優先株式 1,160,791千米ドル 引受株式数1,160,791株。発行3年後よりモルガン・スタンレーが額面の110%で償還する権利
年間配当利回り 10% 転換型・償還型とも同率。配当支払日は1月15日・4月15日・7月15日・10月15日
優先株式の議決権 無し 6四半期以上配当の宣言および支払いがない場合、他の優先株主とともに取締役2名を追加選任
強制転換条項 発行1年経過後 株価が連続30取引日のうち20取引日で転換価格の150%超なら優先株式の50%が転換
出資比率の維持権 完全希薄化後20% 出資比率10%以上を維持する限り、原則として取締役1名を派遣する権利を持つ
2009年5月の追加取得 普通株式29,375,000株 1株24米ドルの公募増資。同時に償還型優先株式640,909株を1株1,100米ドルで償還
2009年6月の追加取得 普通株式17,178,055株 1株27.44米ドルの公募増資。一連の増資後も議決権の20%超を取得することが可能
任意転換の合意 2011年4月21日 従来の転換条件による株数に約75百万株を加えることで合意した
任意転換の実施 2011年6月30日 転換比率を調整のうえ、保有する転換型優先株式の全てを普通株式に転換
転換で受領した普通株式 385,464,097株
転換後の議決権比率 22.4% 2012年3月末時点では21.8%
持分法適用開始日 2011年6月30日 モルガン・スタンレーの第2四半期会計期間末日。決算日は12月31日で連結決算日と3か月異なる
取得原価 731,807百万円 転換型優先株式等728,687百万円とアドバイザリー費用等3,120百万円の合計
負ののれん 290,644百万円 普通株式の取得日における時価純資産に係る持分額と取得原価との差額
派遣する取締役 2名 出資時は1名。2011年の普通株式への転換にあわせて1名増やすことで合意

出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書 第4期(2009年3月期)【経営上の重要な契約等】・第6期(2011年3月期)【重要な後発事象】・第7期(2012年3月期)【持分法適用関連会社】

持分法による投資損益と連結業績の推移

三菱UFJフィナンシャル・グループ:持分法による投資損益と連結業績の推移

(百万円) 持分法による投資損益連結経常利益連結当期純利益 備考
2006年3月期 −1,078,061770,719 持分法による投資損益は連結の逐語で照合できていない
2007年3月期 △80,6211,457,080880,997 関連会社ののれん相当額の減損処理を含み、持分法は損失
2008年3月期 13,0421,029,013636,624
2009年3月期 △3882,807△256,952 10月13日に90億米ドルを出資。優先株式のため持分法は適用していない
2010年3月期 2,614545,697388,734
2011年3月期 11,371646,432583,079
2012年3月期 377,5151,471,991981,331 6月30日から持分法を適用。負ののれん290,644百万円の影響額を含む
2013年3月期 52,0041,344,176852,623 負ののれんの影響が剥落し、持分法の取込は平常の水準へ
2014年3月期 112,4701,694,820984,845
持分法による投資損益
持分法による投資損益(百万円)持分法による投資損益率(%)

出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書 第1〜9期(連結キャッシュ・フロー計算書・連結損益計算書注記・主要な経営指標等の推移)

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

資本提携と政策保有2019年住友ファーマ戦略的提携によるスミトバントの子会社化と、相手方株式11%の取得ラツーダの米国独占販売終了に備えた後継製品群の確保
2016年NISSHAメディカルへの事業転換 — Graphic Controls 買収に始まるCDMOシフト事業ポートフォリオの転換と資本配分
2020年みずほリース単独ではなく丸紅と組んだ共同買収と、議決権25%の取得海外事業の拡大手法と出資比率の置き方
2021年いすゞ自動車ボルボとの戦略的提携と引き換えに手にした国内商用車大手商用車の体制と提携
2008年TOYOTIRE業界首位を相手にした業務提携と、対等ではない株式の持ち合い業界首位との提携と資本の持ち合い
海外企業の買収2006年三菱重工業ウェスチングハウス買収入札での敗退を受けた、中型炉共同開発への転進原子力事業の海外展開と提携先
2008年キリンHD現地の乳製品市場を一挙に押さえる巨額M&Aへの経営資源の集中国内酒類・飲料事業の成熟と海外への成長軸
2008年三菱レイヨン買収によって一気に引き寄せた、MMA市場での世界首位の座MMA事業への集中と財務負担
2008年武田薬品工業TAP合弁の解消と、北米処方薬事業の自前化への踏み込み北米の処方薬事業と自前化
2008年塩野義製薬完全子会社化によって獲得した初の本格的な米国販売基盤海外販売網の欠如と、米国での自社販売体制の確立
参考文献
出典・参考
  • モルガン・スタンレー プレスリリース「Mitsubishi UFJ Financial Group to Invest $9 Billion in Morgan Stanley」
  • モルガン・スタンレー プレスリリース「Mitsubishi UFJ Financial Group Closes $9 Billion Equity Investment in Morgan Stanley as Part of Global Strategic Alliance」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第4期(2009年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第6期(2011年3月期)【重要な後発事象】」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第7期(2012年3月期)【持分法適用関連会社】」

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