キオクシアホールディングスサンディスクとNAND生産で合弁:四日市工場の増産投資を米社と折半し、設備を自前で抱える形を手放した選択

更新:

時期 2000年5月
意思決定者(推定) 西室泰三 社長
論点 四日市工場の増産投資を単独で背負うか、相手と折半するか
概要

2000年5月、東芝が米サンディスクとフラッシュメモリの協業を開始した経営判断。メモリ事業が分社してキオクシアとなるのは2018年で、決定主体はあくまで当時の東芝であり、これはキオクシアの前史にあたる。

1987年に世界初のNAND型フラッシュメモリを発明し、1992年に四日市工場を設けた東芝は、増産に必要な製造設備を単独で抱える形をやめ、2002年4月に四日市工場での生産を担う合弁会社フラッシュビジョン有限会社を、相手方との共同出資で設立した。

背景

NAND型フラッシュメモリは1987年に発明され、1991年に量産が始まった。世代が進むごとに製造棟と装置への投資は膨らみ、2007年3月期には製造合弁3社が実施した投資だけで3,396億円、うち東芝の負担分は1,698億円に達している。四日市という一つの拠点へ投資を集める道を選んだ以上、その資金と設備を単独で背負うのか、分け合うのかが問われる位置にあった。

内容

協業は、製造棟ごとに合弁会社を立てる形をとった。2002年4月のフラッシュビジョン有限会社に始まり、第3製造棟のフラッシュパートナーズ有限会社(2004年9月)、第4製造棟のフラッシュアライアンス有限会社(2006年7月)、第5製造棟のフラッシュフォワード合同会社(2010年7月)と続く。東芝側の議決権は各社50.1%で持分法適用会社とし、両グループは平等な意思決定権を持つ。生産設備はリースで保有し、そのリース契約には両社が個別に50%ずつ債務保証を付けた。

含意

工場を折半するとは、相手の持分を買い取る可能性と、相手の財政状態が傾いたときに保証債務を承継する可能性を同時に抱えることでもあった。この関係は2018年1月、キオクシアが東芝から製造合弁3社の株式を譲り受けて関連会社化し、契約上の地位も承継したことで新会社へ引き継がれる。議決権50.1%と平等な意思決定権はそのまま残り、四日市の生産は現在も共同支配事業として会計処理されている。

筆者の見解

工場を半分だけ持つという選び方

この判断を「協業の開始」と呼ぶと、実際に動いたものが見えにくくなる。動いたのは技術の融通ではなく、四日市工場の持ち方そのものであった。製造棟ごとに議決権50.1%の会社を立て、生産設備はその会社がリースで保有し、リース契約には両社が個別に50%ずつ債務保証を付ける。工場は建つが、それを丸ごと自社の資産として抱えることはしない。発明した技術を自前の工場で囲い込む垂直統合を、増産の規模と引き換えに手放した選択だったとみることができる。

もっとも、折半には折半の重みがある。合弁契約は相手の持分を買い取る可能性を残し、相手の業績や財政状態が悪化すれば保証債務を承継して合弁会社を連結子会社として扱うことになりかねない。半分に減らしたはずの負担は、相手の信用に対する備えという別の形で残り続けた。それでも枠組みは、東芝からキオクシアへ、サンディスクからウエスタンデジタルへと持ち主が二度替わってなお解かれていない。四日市を共同支配事業として運営する形は、四半世紀にわたって両社の選び直しに耐えたことになる。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

協業と製造合弁の条件

科目 概要 備考
協業の開始 2000年5月 相手方はSanDisk Corporation(現SanDisk Limited Liability Company)
決定主体 株式会社東芝 分社時にキオクシア株式会社が契約上の地位を承継した
協業の対象 フラッシュメモリ 四日市工場におけるNAND型フラッシュメモリの生産強化を目的とする
最初の合弁会社 フラッシュビジョン有限会社 2002年4月設立。三重県四日市市、資本金25百万円
議決権の所有割合 50.1% 東芝側の割合。持分法適用会社として会計処理していた
意思決定権 両グループが平等 キオクシアはこれらを共同支配事業として会計処理している
生産設備の保有 合弁会社によるリース リース契約には両社が個別に50%ずつ債務保証を付けている
第3製造棟の合弁 2004年9月10日 FLASH PARTNERS MASTER AGREEMENT。フラッシュパートナーズ有限会社
第4製造棟の合弁 2006年7月7日 FLASH ALLIANCE MASTER AGREEMENT。フラッシュアライアンス有限会社
第5製造棟の合弁 2010年7月13日 FLASH FORWARD MASTER AGREEMENT。フラッシュフォワード合同会社
契約期間 2029年12月31日/2034年12月31日 前2者が2029年末、フラッシュフォワードが2034年末まで
合弁3社の設備投資 3,396億円 2007年3月期。うち東芝の負担分は1,698億円
持分の買取り 買い取る可能性がある 合弁契約に基づく。相手方の悪化時は保証債務の承継もありうる
承継 2018年1月 キオクシアが東芝から製造合弁3社の株式を譲り受けて関連会社化

出所:キオクシアホールディングス 有価証券届出書(2024年11月8日)【沿革】【経営上の重要な契約等】【関係会社の状況】 / 東芝 有価証券報告書 第167期・第169期(関係会社の状況)・第171期(事業等のリスク)・第172期(経営上の重要な契約等)

キオクシアホールディングス:電子デバイス部門の設備投資と製造合弁の内数

(億円) 電子デバイス部門うち合弁の当社分 備考
2001年3月期 2000年5月に協業を開始。当該期の有報が手元になく照合できていない
2002年3月期 有報が手元になく照合できていない
2003年3月期 2002年4月にフラッシュビジョン設立。有報が手元になく照合できていない
2004年3月期
2005年3月期
2006年3月期 完成ベースで電子デバイス2,395億円。発注ベースの各期と揃わない
2007年3月期 4,2961,698 合弁3社の投資額は3,396億円で、うち当社分が1,698億円
2008年3月期 4,3651,815
2009年3月期 2,485267 景気悪化で投資案件を厳選し、当初計画から1,645億円削減した
2010年3月期 856 合弁分は金額が開示されず、部門全体の額に含まれる
2011年3月期 2,107 合弁分は金額が開示されず、部門全体の額に含まれる
電子デバイス部門の設備投資と合弁の内数
うち合弁の当社分(億円)合弁以外(億円)

出所:東芝 有価証券報告書 第167期〜第172期(設備投資等の概要、事業の種類別セグメントの設備投資金額)

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出典・参考
  • キオクシアホールディングス 有価証券届出書「有価証券届出書(新規公開時)【沿革】【経営上の重要な契約等】【関係会社の状況】」
  • 東芝 有価証券報告書「第167期(2006年3月期)【関係会社の状況】【設備投資等の概要】」
  • 東芝 有価証券報告書「第169期(2008年3月期)【関係会社の状況】」
  • 東芝 有価証券報告書「第171期(2010年3月期)【事業等のリスク】」
  • 東芝 有価証券報告書「第172期(2011年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 東芝 有価証券報告書「第167期〜第172期(設備投資等の概要)」

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