パナソニック テスラとの車載電池協業 ギガファクトリーへの生産設備ごとの踏み込みと、電池の主力の家電向けから自動車向けへの転換

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時期 2014年7月
当時の社長 津賀一宏
論点 事業構造の転換と成長投資
何をなぜ決めたか
概要

危機の底から会社を立て直した津賀一宏社長は、家電依存からの脱却を最重要テーマに据え、車載電池を主力事業に選んだ。2009年にテスラへ円筒形リチウムイオン電池の供給を始めたパナソニックは、2014年7月31日に大規模電池工場ギガファクトリーでの協力に合意し、同年9月30日の取締役会で包括契約及び価格合意契約等の締結を決議して、10月1日に契約を締結した。三洋買収で得た電池技術を"走る電池"で生かす、BtoB転換の象徴となった経営判断。

背景

2012年に社長へ就任した津賀一宏氏は、テレビ不振で苦しむ会社という世間の見方を退け、稼ぎの柱は企業向けの取引にあるとの理解を求めた。プラズマ撤退や不採算整理で守りを固める一方、次に稼ぐ収益源をどこに置くかが問われていた。その一つが車載電池で、パナソニックは2009年にテスラと円筒形電池の供給契約を締結し、2010年には3,000万ドルを出資して優先サプライヤーの地位を得ていた。合意の直前にあたる2014年3月期の設備投資額は2,170億円で、前年度から30%減っており、投資を絞り込んだ底にあたる。基盤は三洋買収で受け継いだ技術であった。

内容

契約が定めた役割分担は明快である。テスラが土地・建物・工場設備を準備して提供・管理し、パナソニックは円筒形リチウムイオン電池セルを生産・供給して、そのために必要な設備・機械・治工具へ投資する。生産の場は、原材料から電池ユニットまでを一貫生産する大規模電池工場ギガファクトリーで、2020年までに年間35GWh相当のセルと50GWh相当のパックを製造する計画であった。

資金は自己資金等でまかなう。契約の直後に公表した2015年度の設備投資計画では、車載電池を含むオートモーティブ&インダストリアルシステムズに1,330億円を割り当て、全社計画2,850億円の半分近くを充てている。

含意

投資は計画どおりに実行された。2016年3月期の主要な設備投資は「車載用の小型二次電池の生産設備(米国)」へ移り、車載電池を含むセグメントの設備投資額は2014年3月期の854億円から2018年3月期には2,260億円へ、全社の設備投資額も2,170億円から3,922億円へ膨らんだ。米州の売上高は2014年3月期の1兆1,346億円から5期続けて増え、2019年3月期には連結売上高の19%を占める。三洋から継いだ電池技術は、民生用では減損を生みながら、車載用では成長を牽引する資産へ転じた。もっとも単一の巨大顧客への集中というリスクも抱え、のちにトヨタとの合弁で電池の系統を分散させた。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

「対等を買う」の、車載版

この協業でパナソニックが引き受けたのは、電池を売ることではなく、他社の工場のなかへ自社の生産設備を置くことであった。テスラが土地・建物・工場設備を用意して管理し、パナソニックはセルの生産に要する設備・機械・治工具へ投資する——契約が定めた役割分担は、顧客の敷地に製造機能を預ける構えである。1952年のフィリップス提携で松下が販売力と経営力を対価に技術という足場を"買った"のに対し、ここでは電池技術を差し出して車という出口を得た。相手の強みに自分の別の強みをぶつけて釣り合いを取る呼吸は同じでも、教わる側と供給する側が入れ替わっていると推察される。

もっとも、投資の重さは数字にはっきり出た。全社の設備投資額は2014年3月期の2,170億円から2018年3月期には3,922億円へ膨らみ、その増分の多くを車載電池が占める。にもかかわらず車載電池を含むセグメントの営業利益は2017年3月期を境に細り、2020年3月期のオートモーティブは損失に沈んだ。北米の円筒形電池工場が四半期で黒字を計上したのは2019年度の第3四半期で、合意から5年が過ぎている。技術を導入する側から供給する側へ立場を移した代償は、回収までの長さに現れたのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
協業の条件

協業の条件

科目 概要 備考
契約の相手方 テスラモーターズ(米国) 有報の表記は「米国のテスラモーターズ(以下、「テスラ社」)」
先行して公表した合意 2014年7月31日 大規模電池工場での協力に合意し、両社の役割分担を公表した
取締役会の決議日 2014年9月30日 包括契約及び価格合意契約等を締結することを決議した
契約の締結日 2014年10月1日 決議の翌日付で締結。同じ取締役会でフィコサ社への出資も決議している
契約の対象 円筒形リチウムイオン電池セルの生産・供給 テスラのギガファクトリー内で当社が生産し、テスラへ供給する
生産の場 ギガファクトリー 原材料から電池ユニットまでを一貫生産する大規模電池工場
テスラが負担するもの 土地・建物・工場設備 テスラが準備し、提供・管理する
当社が負担するもの セル生産に必要な設備・機械・治工具 双方同意のもと、リチウムイオン電池セルの生産に必要な設備等に投資する
計画生産能力 年間35GWh相当のセル 2020年までにセル35GWh相当、パック50GWh相当を製造する計画
生産設備の所在 米国 2016年3月期の主要な設備投資は「車載用の小型二次電池の生産設備(米国)」
資金の調達方法 自己資金等 設備投資計画に記載された調達方法。借入や増資による調達ではない
契約直後の設備投資計画 1,330億円 2015年度の当該セグメント計画額。全社計画2,850億円のうち二次電池の増産等に充てる
保有するテスラ株式 1,418,573株 2015年3月期末の貸借対照表計上額は32,180百万円
株式の保有目的 事業協業・取引関係の維持・強化 2016年3月期に「二次電池関連事業の維持・拡大」へ改めた
会計上の取扱い 特定投資株式として保有 持分法の適用はなく、関係会社にも当たらない。合弁会社は設立していない

出所:パナソニック 有価証券報告書 第108期(2015年3月期)【経営上の重要な契約等】【設備の新設、除却等の計画】、【株式の保有状況】 / 第109期(2016年3月期)【設備投資等の概要】 / パナソニック ニュースリリース(2014年7月31日)

設備投資額と減価償却費の推移

パナソニック:設備投資額と減価償却費の推移

(億円) 車載電池を含むセグメント全社の設備投資額減価償却費 備考
2010年3月期 −3,8542,518 8区分のため車載電池を含む区分がない。金型投資を設備投資に含める前の基準
2011年3月期 −4,0372,842 金型投資を設備投資に含める前の基準
2012年3月期 −2,9482,591 翌期に金型投資を含める基準へ改め、3,337億円・2,958億円に置き換えられた
2013年3月期 −3,1092,776 第106期から金型投資を設備投資に含めている。区分は8セグメント
2014年3月期 8542,1702,788 5区分へ再編しオートモーティブ&インダストリアルシステムズが発足した
2015年3月期 1,0772,2672,421 10月1日に契約を締結。主要な設備投資はなお国内(大阪府)の小型二次電池設備
2016年3月期 1,1632,4882,350 主要な設備投資が「車載用の小型二次電池の生産設備(米国)」へ移った
2017年3月期 1,9503,1162,244 IFRSへ移行。前年度比は組替後の2,529億円に対して23%増
2018年3月期 2,2603,9222,266 主要な設備投資は車載用リチウムイオン電池の生産設備(米国・中国)
2019年3月期 1,7223,0052,268 一部事業のセグメント間移管があり、前年度比は当年度の形態へ組み替えている
2020年3月期 1,0352,6892,050 区分変更で「オートモーティブ」に。インダストリアルソリューションズは541億円
設備投資額と車載電池を含むセグメントの割合
全社の設備投資額(億円)当該セグメントの割合(%)

出所:パナソニック 有価証券報告書 第103期(2010年3月期)〜第113期(2020年3月期)【業績等の概要】【設備投資等の概要】

車載電池を含む報告セグメントの推移

パナソニック:車載電池を含む報告セグメントの推移

(億円) 売上高営業利益 備考
2014年3月期 27,376857 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ。車載関連の売上増などで増益
2015年3月期 27,8251,057 米国電気自動車メーカー向けの車載用電池の販売が拡大した
2016年3月期 27,0861,027 車載・蓄電など将来の成長に向けた先行開発投資が利益を圧迫した
2017年3月期 25,6121,093 IFRSへ移行。前期までの米国会計基準の営業利益とは連続しない
2018年3月期 28,035914 車載電池の販売拡大とフィコサ社の新規連結で16%の増収
2019年3月期 29,831564 車載用リチウムイオン電池の増販の一方、立ち上げ費用が利益を押し下げた
2020年3月期 14,824△466 区分変更で「オートモーティブ」単独。前期までの数値とは範囲が異なる
セグメント売上高と営業利益率
売上高(億円)営業利益率(%)

出所:パナソニック 有価証券報告書 第107期(2014年3月期)〜第113期(2020年3月期)【業績等の概要】セグメントの業績

米州の売上高と連結に占める割合

パナソニック:米州の売上高と連結に占める割合

(百万円) 米州の売上高連結売上高 備考
2010年3月期 917,8987,417,980
2011年3月期 1,070,8338,692,672 三洋電機を連結した期
2012年3月期 966,5277,846,216
2013年3月期 1,022,2787,303,045
2014年3月期 1,134,6587,736,541
2015年3月期 1,218,0707,715,037
2016年3月期 1,241,3797,553,717 米国会計基準による最後の期。翌期のIFRS組替後は1,243,036百万円
2017年3月期 1,272,2147,343,707 IFRSへ移行。米州のうち米国は1,147,690百万円
2018年3月期 1,368,2977,982,164 米州のうち米国は1,237,527百万円
2019年3月期 1,529,8038,002,733 米州のうち米国は1,404,955百万円。米州の売上高は5期続けて増えた
2020年3月期 1,442,2927,490,601 米州のうち米国は1,345,749百万円
米州の売上高と連結に占める割合
米州の売上高(百万円)連結売上高に占める割合(%)

出所:パナソニック 有価証券報告書 第103期(2010年3月期)〜第113期(2020年3月期)注記「セグメント情報」地域別情報

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考

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