トクヤマ韓国OCIとの折半合弁によるマレーシアでの半導体用多結晶シリコン生産と、ベトナム子会社の設立

撤退した土地へ、買い手だった相手と戻るか——単独で汎用を量産するか、折半で先端の半製品に絞るか

時期 2023年5月
意思決定者(推定) 横田浩 社長
論点 多結晶シリコンの海外生産の再開と組み方
概要
2023年5月の覚書と同年12月の合弁契約を経て、トクヤマが韓国OCIとマレーシア・サラワク州に半導体用多結晶シリコン半製品の折半出資合弁会社を設立した経営判断である。合弁会社は2025年7月8日にOCI Tokuyama Semiconductor Materials Sdn. Bhd.として発足した。
背景
2017年5月にマレーシアの多結晶シリコン事業を引き取ったのは韓国OCIであった。徳山に残した先端半導体グレードはその後も伸び、2024年度の販売数量は2023年度比で20%強の増量が見込まれた。半導体市場の拡大とクリーンエネルギーによる生産という条件が、もう一度の海外生産を必要にした。
内容
合弁は半導体用多結晶シリコンの半製品の共同生産に範囲を限り、製品化と販売は各社が独自に行う枠組みで組まれた。生産能力は年間約8,000トンから将来的に約1万トンへ、投資額は約300百万米ドルとされた。並行して2024年8月、製造の最終工程を担う全額出資子会社をベトナムに設立している。
含意
汎用の太陽電池グレードを単独で量産した2009年の投資に対し、今回は用途を先端半導体に絞り、出資を折半で分け、工程を国境をまたいで分業させた。合弁会社は持分法適用会社で、設立は当初予定より1年3か月遅れており、稼働と収益貢献は本稿の時点でこれからにあたる。
筆者の見解

同じ土地、別の設計

売った相手と組む、という選択が最初にあった。2017年に工場を引き取った韓国OCIが、6年後には折半出資の相手になっている。同じ土地、同じ事業、同じ相手で立場だけが入れ替わった格好にみえるが、中身は入れ替わっていない。前回の対象が汎用の太陽電池グレードだったのに対し、今回は半導体用の半製品に範囲が限られ、製品化と販売は各社が抱えたまま置かれた。相手の土地と設備を使いながら、最終工程と顧客だけは手放さない設計に、前回の損失から引いた線がうかがえる。

ただ、設計が慎重であることと、賭けが小さいことは同じではない。合弁会社の資本金は218百万米ドル相当にのぼり、設立は当初予定より1年3か月遅れて、地鎮祭を済ませた段階にとどまる。ベトナムの子会社が担うのは最終工程だけで、工程を国境で分けた分、どこか一つが滞れば全体が止まる形にもなった。前回の失敗を避ける構えが別の種類の脆さを呼び込んでいないかは、稼働の実績が出るまで判断できないといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

買い手だった相手と、残した用途

2017年5月にマレーシアの多結晶シリコン製造販売会社を引き取ったのは、韓国のOCIであった。トクヤマは汎用の太陽電池グレードから降り、徳山に残した先端半導体グレードだけを手元に置く形で撤退を終えている。売り手と買い手として向き合った両社が、6年後には同じサラワク州で組む相手同士になった。この判断の出発点は、その関係の反転にある[1]

手元に残した先端品は、その後も伸び続けた。2025年1月の決算説明会では、2024年度の多結晶シリコンの販売数量が2023年度比で20%強の増量になる見込みと説明され、大手ウエハーメーカーの在庫調整はレガシー向けが中心で、同社の製品の多くは先端部分に使われるため在庫調整のさなかでも引き続き消費される見通しが示されている。汎用と先端の分岐は、撤退後も損益の形で現れ続けた[2]

抱え込みを改めるという方針

もう一度海外へ出る構えは、技術の抱え込みを改める方針とともに現れた。2021年、横田浩社長は自社技術にこだわるあまりアライアンスへの積極性が不足していたと述べ、オープンイノベーションとアライアンスをキーワードに変革すると語っている。同じ時期には、電子・健康・環境の3分野を成長ドライバーとして事業ポートフォリオを転換する方針も示されていた[3][4]

中期経営計画2025は、この方針を事業ポートフォリオの転換と国際展開の推進という言葉で掲げていた。将来の半導体市場拡大に伴う多結晶シリコンの需要増を見据えながら、増産をそのままCO2の増加につなげないために、クリーンエネルギーを使える土地で生産と供給の体制を組む。2023年の協業は、その条件を満たす場所と相手を探した結果として説明されている[5]

決断

覚書から合弁契約へ

2023年5月24日、トクヤマは取締役会でOCIとの協業に係る覚書の締結を決議した。半導体用多結晶シリコンの半製品を共同生産する合弁会社を、年間生産能力約1万トンの規模で設立する構想である。製品化と販売については従来どおり各社が独自に行うとされ、工程の途中までを共有しながら、最終製品と顧客は分けたまま置く枠組みが最初から示されていた[6]

同年12月13日、覚書は合弁契約へ変わった。合弁会社はマレーシア・サラワク州に置き、名称はSarawak Advanced Materials Sdn. Bhd.、資本金は168百万米ドル、出資はOCIと折半とされた。生産能力は年間約8,000トンから始めて将来的に約1万トンへ引き上げる計画で、投資額は約300百万米ドルと示され、設立は2024年4月を予定していた[7]

2009年と変えた三点

2009年の投資と比べると、変えた点が3つあった。狙う品位が汎用の太陽電池グレードではなく半導体グレードであること、単独ではなく折半出資の合弁であること、そして増産をCO2の増加につなげないためにクリーンエネルギーを使える土地を選んだことである。範囲も半製品の共同生産に限り、製品化と販売は各社が抱えたままに置かれた[8]

並行して、工程の一部は自前で置いた。2024年8月8日、同社はベトナムのバリアブンタウ省に全額出資の子会社TOKUYAMA VIETNAM CO., LTD.を設立する。資本金は580,000百万ベトナムドン、34億円相当で、担うのは多結晶シリコン製造の最終工程であった。先端半導体に用いるシリコンウエハーの供給網を強くすることが、設立の目的に挙げられている[9]

結果

1年3か月遅れて立った合弁会社

合弁会社が実際に立ったのは、当初の予定から1年3か月遅れた2025年7月8日であった。名称はOCI Tokuyama Semiconductor Materials Sdn. Bhd.、所在地はサラワク州、資本金は922百万マレーシアリンギットで218百万米ドル相当、出資はOCIグループのマレーシア現地法人であるOCI TerraSusとトクヤマの折半である。同月16日には、州政府の関係者を招いて現地で地鎮祭が予定された[10]

立ち上げの段階にあることは、会計上の扱いにも表れている。同社はこの合弁会社を持分法適用会社として扱っており、生産量がそのまま連結の売上高に乗る形にはならない。地鎮祭を済ませた工場が動き出すまでにはなお時間がかかり、2009年の投資と何が違ったのかは、稼働と収益の実績によってしか確かめられない位置にある[11]

先に厚みを増した国内の先端グレード

一方、徳山に残した本体側の多結晶シリコンは、この間に収益の柱としての厚みを増していた。2025年4月の決算説明会では、2025年度の増益に貢献度が大きい製品として多結晶シリコン、高純度IPA、放熱材料の順が挙げられ、期の後半ほど出荷が増える見通しも示されている。海外の合弁が動き出す前に、国内の先端グレードが利益を支える形ができあがっていた[12]

本稿の時点で、この再挑戦の結果を損益の形で語る材料はない。確かめられるのは、賭け方をどう変えたかまでであった。汎用で規模を追った前回に対し、今回は用途を先端半導体に絞り、出資を折半で分け、半製品と最終工程を国境をまたいで分業させている。同じ土地で同じ事業をもう一度手がけながら、設計はほとんど別のものになったとみられる[13]

出典・参考

免責事項およびポリシー