森ビル虎ノ門・麻布台地区の開発区域拡大と、麻布台ヒルズの開業
決まった区域で建てるか、区域を広げて待つか——約300人の権利者と30年、大量供給の年の竣工
- 概要
- 1989年の街づくり協議会設立から約300人の権利者と30年にわたって議論を重ね、当初4.2ヘクタールだった開発区域を約2倍の8.1ヘクタールへ広げて一体開発に持ち込んだ経営判断。2017年に国家戦略特区法に基づき都市計画決定され、2023年11月24日に麻布台ヒルズが開業した。
- 背景
- 計画地は東西に細長く高低差が大きい地形で、敷地は細分化され小規模な木造住宅やビルが密集していた。1993年2月に虎ノ門・麻布台地区市街地再開発準備組合が設立されたものの、権利者は区分所有者を含めて300人以上に及び、都市計画決定までさらに四半世紀近くを要した。
- 内容
- 隣接する麻布郵便局や外務省飯倉公館との一体開発を進めて区域を8.1ヘクタールへ広げ、高さ約330メートルの森JPタワーを含む3棟を建てた。総事業費は約5800億円と六本木ヒルズの約2700億円の2倍を超え、大型ビルの竣工が集中する2023年に開業を迎えている。
- 含意
- 開業直後はオフィス棟のテナント集めが苦戦していると報じられ、工事を請け負った清水建設は上場来初の営業赤字に転落した。2024年に入るとオフィス市況が反転し、ベイカレントの本社やマツダのR&Dセンターが入居して床は埋まっていった。
区域を広げた30年と、開業の年
4.2ヘクタールのまま建てていれば、開業はもっと早く来ていたかもしれない。東西に細長い敷地に巨大な超高層を置くのは難しく、森ビルは隣接する麻布郵便局や外務省飯倉公館を取り込む道を選び、開発区域は約2倍の8.1ヘクタールになった。1989年の街づくり協議会から数えて30年、約300人の権利者と議論を重ねた末に得たのが、高さ約330メートルという床の量であったとみることができる。
ただ、その時間の代償は開業の年に集中して現れた。竣工が重なった2023年に都心のオフィスは供給過多となり、主要テナントと目された企業は移転を凍結する。工事を請け負った清水建設は上場来初の営業赤字に転落し、三井住友建設は15カ月の工期遅延と534億円の損失を出した。床が埋まったのは開業から1年以上あとで、街区の完成と市況の回復が同じ年に来る保証はどこにもなかったといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
細分化された台地と、約300人の権利者
計画地は東西に細長く、高台と谷地が入り組んだ高低差の大きい地形であった。敷地は細分化され、小規模な木造住宅やビルが密集して建物の老朽化も進み、道路や公園といった都市インフラの整備から手をつける必要があった。1989年3月に我善坊地区で街づくり協議会が設立され、同年5月に八幡町地区、12月に仙石山地区が続く。1993年2月には虎ノ門・麻布台地区市街地再開発準備組合が設立された[1][2]。
準備組合の設立から都市計画決定までに、さらに四半世紀近くを要している。森ビルは立場や事情の異なる約300人の権利者と粘り強く議論を重ねたと自ら記しており、区分所有者を含む地権者は300人以上に及んだ。30年もかかった理由について同社はこれだという特定のハードルはなかったと語っている。土地をまとめるのに16年を費やしたアークヒルズを持つ会社にとっても、長い部類の街区であった[3][4][5]。
決断
4.2ヘクタールを8.1ヘクタールへ広げる
当初の計画では開発区域面積は4.2ヘクタールで、東西に細長い敷地でもあり、巨大な超高層ビルを建てるのは難しかった。森ビルは隣接する麻布郵便局や外務省飯倉公館との一体開発をもくろみ、2016年に三井不動産リアルティ会長だった岩崎芳史氏が日本郵政副社長に就任すると日本郵政を説得している。開発区域面積は約2倍の8.1ヘクタールへ広がった[6]。
区域が広がったことで、国家戦略特別区域法に基づく都市計画決定を経て高さ約330メートルの森JPタワーが成り立つようになった。東京都の審査会が計画を承認した2017年5月19日の時点では、2022年度の完成を目指すとされている。2018年3月に再開発組合の設立が認可され、2019年8月5日に着工した。敷地面積は約6万3900平方メートル、総事業費は約5800億円と、六本木ヒルズの約2700億円の2倍を超える規模であった[7][8][9]。
供給が重なる年に開けると決める
竣工の時期は、都心のオフィスが余ることがあらかじめ見えている年に重なっていた。各種調査では2023年に都心部で計150万平方メートル前後のオフィスビルが竣工する見込みで、2022年に予定される供給量の約3倍にあたる。週刊東洋経済は2021年末の時点で、森ビルの虎ノ門・麻布台プロジェクトを筆頭に大型再開発が目白押しだと書いていた。それでも竣工の時期は動かされていない[10][11]。
街区の設計はエネルギーの供給にも及んだ。森ビルは東京電力エナジーパートナーと共同で虎ノ門エネルギーネットワークを設立し、虎ノ門ヒルズビジネスタワー、虎ノ門1・2丁目地区、虎ノ門・麻布台地区の3カ所へガスコージェネ設備を置いている。総容量は1万6400キロワットで、虎ノ門・麻布台地区でこれが賄う電力は年間25%程度にとどまるものの、大規模災害で系統が途絶えた際にはビルの機能を維持する[12][13]。
結果
開業直後の評価と、施工側の採算
2023年11月24日、麻布台ヒルズが開業した。オフィスの総貸室面積は約21万4500平方メートル、想定就業者数は約2万人で、住宅戸数約1400戸を擁する総延べ床面積約26万坪の複合施設となる。中核の森JPタワーは高さ約330メートルと、竣工時点で日本一高いビルとなった。開業を控えた時期、オフィス棟のテナント集めは苦戦しているとみられていた。辻慎吾社長はオフィスフロアの5割のテナントが決まっていると述べたが、主要テナントと目されたアマゾンジャパンは移転を凍結したとされる[14][15][16]。
工事を請け負った側の採算はより厳しかった。主要施設を受注した清水建設、大林組、三井住友建設は麻布台3兄弟と呼ばれ、受注時から採算がかなり厳しいとみられていたところへコロナ禍と資材高が重なる。清水建設は2024年3月期に営業利益を当初計画より905億円下方修正し、330億円の赤字と上場来初の営業赤字に転落した。三井住友建設は高層マンションの工事で15カ月の工期遅延と534億円の損失を計上している[17][18]。
2024年からの反転と、入居した顔ぶれ
オフィス市況は2024年に入って向きを変えた。コロナ禍後のオフィス回帰と、建設費高騰による他の再開発の工期遅れが重なり、都心5区のAグレードオフィスの空室率は2023年比1.6ポイント改善の3%となる見込みとなる。竣工直後は空室に悩まされていた麻布台ヒルズも、2024年末には空室率が2割程度まで低下したとみられている。2025年1月には、外資系企業の移転需要を映して6〜7割が埋まったと伝えられた[19][20]。
入居した顔ぶれも具体化していった。開業に合わせ、ベンチャーキャピタルとコーポレートベンチャーキャピタルの集積拠点であるTokyo Venture Capital Hubが新設され、開所時点で42社の入居が決まっている。コンサルティングのベイカレントは本社を麻布台ヒルズに置き、マツダは同地にソフトウェアなどのR&Dセンターを開設した。床の埋まり方は、当初の想定とは異なる需要に支えられている[21][22][23]。
- 森ビル「麻布台ヒルズ 開発経緯」
- 森ビル「麻布台ヒルズ 施設概要」
- 東洋経済オンライン(2019年8月28日)「森ビル、虎ノ門「第2ヒルズ」に勝算はあるか 総事業費は六本木の2倍、30年計画の成否」
- 週刊東洋経済 2017年6月3日号「ニュース最前線03 絶好調の大手ゼネコン 五輪後も再開発バブル」
- 週刊東洋経済 2020年8月1日号「【特集 脱炭素 待ったなし】PART3 前進する再エネ 強靱で環境性に優れたエネルギー 東電と東ガスが真っ向勝負」
- 週刊東洋経済 2021年12月25日号「【第1特集 2022年大予測】不動産 オフィス空室率、見えぬ天井」
- 週刊東洋経済 2022年2月12日号「【第1特集 ゼネコン四重苦】ゼネコン四重苦 序列激変と大和ハウスの猛攻」
- 週刊東洋経済 2023年11月25日号「【特集 不動産・オフィス大余剰】PART1 オフィス戦争 港区オフィス崩壊の序章か? 「麻布台ヒルズ」が映し出す新築ビルの不安」
- 週刊東洋経済 2023年11月25日号「【特集 不動産・オフィス大余剰】PART2 再開発の闇 都市政策は正しかったのか? 再開発「拡大路線」の限界」
- 週刊東洋経済 2023年12月23日号「【第1特集 2024年 大予測】Part3 産業・企業 049 ベンチャー 急悪化する資金調達環境 乗り切るための条件は」
- 週刊東洋経済 2024年3月30日号「【特集 ゼネコン 下克上】PART3 業界再編の足音 三井住友建設に揺さぶりをかける「村上ファンド」の次の焦点」
- 週刊東洋経済 2024年3月30日号「【特集 ゼネコン 下克上】Epilogue ひた走った拡大路線の終焉 さらば「2つの工事ダンピング」」
- 週刊東洋経済 2024年12月28日号「【第1特集 2025年大予測】Part4 産業・企業 不動産 企業の人材争奪戦で好立地オフィス上昇」
- 週刊東洋経済 2025年1月11日号「【特集 不動産&マンション 新次元】PART1 不動産 新しいうねり 不動産 2つの新機軸」
- 週刊東洋経済 2025年3月22日号「【第1特集 進撃のアクセンチュア】第2章 アクセンチュア「1強」は永遠か」
- 週刊東洋経済 2026年4月11日号「【第1特集 トヨタの挑戦】自動車各社が右往左往 ソフトウェア人材が採れない!」
- 日経ビジネス 1995年8月7日・14日号「森ビル・グループ フロー重視を徹底」