森ビル六本木五丁目西地区での7000億円規模の再開発着手と、住友不動産との共同事業化
六本木ヒルズの倍を投じるか、抱え込まずに組むか——建設費が上がり続けるなかで着手した過去最大規模の再開発
- 概要
- 2024年4月8日に都市計画が決まった六本木五丁目西地区第一種市街地再開発事業。施行区域面積約9.2ヘクタールに高さ327メートルと288メートルの2棟を建てる計画で、辻慎吾社長は2024年3月、事業規模が7000億円規模になる見通しであると述べた。森ビルが単独で抱えず、住友不動産との共同で進める。
- 背景
- 地区の再開発準備組合は2008年3月に設立され、都市計画決定まで16年を要した。細街路や旧耐震建物、土砂災害特別警戒区域を抱える一帯であった。森ビルは2023年に虎ノ門ヒルズ ステーションタワーと麻布台ヒルズを完成させたが、麻布台ヒルズの事業費は当初の約5800億円から約6400億円へ膨らんでいた。
- 内容
- A-1街区に高さ327メートル・地上66階地下8階で延べ約79万4500平方メートル、B街区に288メートル・地上70階地下5階で延べ約23万9100平方メートルを建てる。人工地盤の上に約1万6000平方メートルの「都心の森」、地上に約4600平方メートルの駅まち広場を設け、約4万8000平方メートルのホテルにはローズウッドが入る。
- 含意
- 六本木ヒルズは約11.0ヘクタールを総事業費約2867億円で完成させている。五丁目西は敷地が狭いのに事業規模は2倍を超える。2023年9月時点の区の資料では2025年度着工・2030年度竣工の予定であったが、2026年3月時点で工事はまだ始まっておらず、計画を決めた辻社長は同年5月に会長へ退く人事が発表された。
集める競争から、積む競争へ
六本木ヒルズは約11.0ヘクタールを約2867億円で建てた。六本木五丁目西地区は約9.2ヘクタールで7000億円規模になる。敷地は狭くなり、事業規模は2倍を超える。差の大半は、A-1街区だけで約79万4500平方メートルという床の量と、それを327メートルまで積み上げる工事の重さから生じているとみられる。土地を集める競争から、狭い土地にどれだけ積めるかの競争へ、六本木の再開発は場所を移している。
ただ、7000億円という数字は2024年3月に語られたもので、そのままの額で終わる保証はない。麻布台ヒルズは約5800億円で始めて約6400億円で終えている。2025年度とされていた着工は2026年3月になっても大詰めの段階にとどまり、計画を決めた辻慎吾社長は工事の始まりを見ないまま会長へ退いた。事業費も工期も動きうる案件を、2030年度までの残り年数だけが確実に減っていく形で、次の社長が引き継いだことになる。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
十八年温めた斜面地
地下鉄六本木駅に近い約10.3ヘクタールの一帯には、細街路や行止り道路が残っていた。緊急輸送道路の沿いには旧耐震の建物が多く残り、斜面地には土砂災害特別警戒区域が広く指定されている。六本木交差点の混雑は外苑東通りの左折車線の渋滞を生み、地下鉄駅の構内も混んでいた。地元で安全安心まちづくり協議会ができたのは2006年10月、再開発準備組合の設立は2008年3月である[1][2]。
準備組合の設立から都市計画決定までに16年がかかった。その間に森ビルは別の大型案件を仕上げている。虎ノ門ヒルズは2014年5月の森タワーから2023年7月のステーションタワーまで四つの棟が揃い、麻布台ヒルズも2023年6月から9月にかけて各棟が竣工した。ただし麻布台ヒルズの事業費は、当初予定の約5800億円から最終的に約6400億円へ膨らんでいる[3][4]。
決断
敷地は狭く、床は多い
六本木五丁目西地区第一種市街地再開発事業の都市計画が決まったのは2024年4月8日で、施行区域面積は約9.2ヘクタールとされた。A-1街区に高さ327メートル・地上66階地下8階の建物を置き、延べ面積は約79万4500平方メートルに及ぶ。B街区は288メートル・地上70階地下5階で約23万9100平方メートル。同じ六本木で先に完成した六本木ヒルズは、約11.0ヘクタールに延べ約72万8246平方メートルであった[5][6][7]。
事業規模について、辻慎吾社長は2024年3月、7000億円規模になる見通しであると述べている。六本木ヒルズの総事業費が約2867億円、麻布台ヒルズが約6400億円であったから、国内の再開発では過去最大級となる。社長は建設資材の高騰を事業費が膨らむ要因に挙げた。この規模を森ビルは単独で背負わず、住友不動産と共同で進める形をとっている[8][9]。
森と広場を先に置く
計画には、床と同じ重みで都市基盤が組み込まれている。人工地盤の上に敷地を一体で覆う立体的な屋上庭園を約1万6000平方メートル整備し、国際文化会館の庭園と連なる緑をつくる。地上には約4600平方メートルの駅まち広場と二つの交通結節広場を設け、分散していたバス・タクシー乗り場と地下鉄駅を結ぶ。斜面地の急傾斜を除去して土砂災害特別警戒区域の指定解除も図る[10][11]。
入れる用途もオフィスと住宅だけではない。国際会議に対応する約2000平方メートルのイベントホール、約8000平方メートルの文化展望施設、同じ規模のエンターテイメントホール、そして約4万8000平方メートルの国際水準のホテルをA-1街区に置く。そのホテルは2026年5月、香港系のローズウッドが東京で初めて出す約200室の施設として発表された。運営は外部のブランドが担う[12][13]。
結果
何が決まっていないか
2026年3月の時点で、この事業はまだ工事に入っていない。2023年9月に港区が示した予定では、2025年度に権利変換計画の認可と工事着工、2030年度にしゅん工となっていた。ところが2026年3月、辻社長は工期や工事費を詰めている段階であると語り、完成は2030年度以降になるという見通しを示している。東京都の資料でも、事業認可と総事業費の欄は空白のまま置かれている[14][15][16]。
計画を決めた経営陣も入れ替わった。2026年5月、森ビルは辻慎吾社長が会長に退き、向後康弘取締役が社長に就く人事を発表している。15年ぶりの交代で、辻氏は麻布台ヒルズや虎ノ門ヒルズなどの大型再開発が大きく進んだことを世代交代の理由に挙げた。後任の向後氏は建設費の上昇への対応に触れている。7000億円の工事を実際に発注するのは、この新しい社長になる[17][18]。
- 東京都都市整備局「六本木五丁目西地区第一種市街地再開発事業」
- 東京都都市整備局「NO.302 六本木五丁目西地区(組合施行)」
- 港区議会 建設常任委員会 資料№9(令和5年9月6日)「六本木五丁目西地区地区計画の決定(原案)について」
- 港区「六本木六丁目地区第一種市街地再開発事業(完了)」
- 森ビル「六本木五丁目西地区第一種市街地再開発事業 ラグジュアリーライフスタイルホテル『ローズウッド』が東京初進出」(2026年5月15日)
- 森ビル「主要ビル・施設一覧」
- 日本経済新聞(2024年3月24日)「森ビル辻社長『六本木5丁目再開発、7000億円規模に』」
- 日本経済新聞(2026年3月9日)「森ビル辻社長、東京・六本木の新たな再開発『工事に向けて大詰め』」
- 日本経済新聞(2026年5月20日)「森ビル新社長に向後康弘取締役 15年ぶり交代、辻社長は会長へ」
- 森ビル 有価証券報告書(連結)