洗浄装置の世界首位を土台にした彦根への集中投資と売上1兆円構想
2023年実施好不況の波が大きい半導体で、需要のピークに能力増強をどこまで重ねるか
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- 概要
- 2023年9月、SCREENホールディングスは2033年3月期に連結売上高を当時の約2倍の1兆円以上へ、売上高営業利益率を20%以上へ引き上げる10年計画を掲げた。半導体洗浄装置で世界シェア約4割・首位に立つ強みを土台に、廣江敏朗社長のもとでマザー工場・彦根事業所の生産能力を増強し、生成AI向けに膨らむ需要へ設備で先回りする集中投資に踏み込んだ。
- 背景
- 半導体はSCREENの連結売上の約8割を占める中核で、なかでもウエハ洗浄装置は世界シェア約4割の首位事業にあたる。生成AIの普及とデータセンター投資、回路の微細化が進むほど、ウエハ表面から微小な汚れを除く洗浄工程の重みは増す。一方で半導体設備投資は好不況の波が激しく、需要のピークでどこまで能力増強に踏み込むかという判断が重くのしかかる事業でもある。
- 内容
- 彦根事業所に2023年1月にSキューブ4、2024年1月にSキューブ5が稼働し、生産能力は子会社SCREENセミコンダクターソリューションズの売上高ベースで2022年比40%増の年5000億円へ拡大した。さらに2027年3月期までに約2割増の年6000億円、2033年3月期には約8000億円へ引き上げる計画で、これらは中期経営計画「Value Up Further 2026」のもとで進む。
- 含意
- 2025年3月期に連結売上高6252億円、営業利益1357億円、営業利益率21.7%の最高益を計上し、集中投資は数字の裏づけを得た。ただし2033年3月期の1兆円は本稿の時点で未達の構想にとどまる。2025年に社長は廣江氏から後藤正人氏へ代わり、シクリカルな半導体の波のなかで構想を実現へ運ぶ役目が引き継がれた。
シクリカルな産業で、ピークにどこまで賭けるか
この判断の核は、財務の危機でも新規事業への転進でもなく、好不況の波が激しい半導体という産業で、需要のピークに能力増強をどこまで重ねるかにある。SCREENには、1990年代末の不況期に石田明社長が下した300ミリ量産への先行投資が、競合の脱落と寡占を招き寄せた成功体験がある。廣江氏が2033年の1兆円を数字で区切り、彦根に量産を集めて増産を先へ延ばしたのは、その体験を長い時間軸へ引き延ばした選択とみることができる。世界シェア首位という土台が、先回りの賭けを支える担保になった。
先回りには裏がある。ピーク前に建てた工場と設備は、需要が想定どおり伸びれば取りこぼしを防ぐ受け皿になるが、波が引けば固定費として収益を圧迫する。2025年3月期の最高益は前者が働いた結果であり、シクリカルな産業では、いつか後者へ転じるときも巡ってくる。1兆円という目標そのものよりも、増勢のときに増やし、退潮のときに耐えるという投資の呼吸を、後藤氏の新体制が波を越えて保てるかどうか――本稿の時点で答えは出ていない。世界首位の設備メーカーが自らの好不況の波とどう向き合うかを見る事例として、この決断は示唆に富む。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
洗浄装置で得た世界首位と、AIがもたらす追い風
SCREENホールディングスは、写真製版機器を源流に、1975年からウエハ洗浄装置を中核とする半導体製造装置へ事業を移した会社である。2020年代には半導体関連が連結売上の約8割を占め、ウエハ洗浄装置は世界シェア約4割で首位に立った。前工程では成膜やエッチングのたびに洗浄が挟まり、工程数の多さが装置需要の厚みにつながる。そこへ生成AIが加わった。データセンター向けの先端半導体投資が膨らみ、微細化で工程が増えるほど、一枚あたりの洗浄回数も増える。数量と単位需要の双方が、主力の洗浄装置を押し上げた[1]。
好不況の波と、先行投資という賭け
もっとも、半導体設備投資には激しい好不況の波がある。SCREENはかつて、この波のなかで先行投資に賭けた歴史を持つ。1998年から2001年にかけて、石田明社長は不況で最終赤字に沈みながらも300ミリウエハ対応の量産投資を止めず、2001年3月に彦根事業所へFab.FC-1を新設した。専用の量産工場を建てられたのは洗浄装置メーカーで同社だけで、体力の乏しい競合が次々と脱落し、寡占が固まった。ピーク前に設備で先回りする発想は、この成功体験に根ざす[2]。
決断
2033年に売上1兆円を掲げる10年計画
2023年9月25日、廣江敏朗社長は10年後の到達点を数字で区切った。2033年3月期に連結売上高を当時の約2倍にあたる1兆円以上へ、売上高営業利益率を20%以上へ引き上げるという長期計画である。売上の約8割を占める半導体関連、とりわけ世界シェア約4割の洗浄装置を中核に据え、微細化とAIで膨らむ需要を取り込む道筋を示した。10年という長さで数値目標を公にする点に、事業の連続性への自信がにじんだ[3]。
この長期計画を足元で支えるのが、2024年4月に始めた3カ年の中期経営計画「Value Up Further 2026」である。2025年3月期からの3年間で累計売上高1.8兆円以上、通算の営業利益率19%以上、投下資本利益率(ROIC)15%以上を掲げた。事業ポートフォリオ・サステナビリティ・人財の三つを柱に置き、稼いだ資金を成長投資と株主還元へ振り分ける枠組みを定めた。長期の1兆円と、目前の3年の数字とを一本の線でつないだ[4]。
彦根への集中投資と増産
数値目標の裏づけは、マザー工場・彦根事業所への設備投資だった。SCREENは同事業所に、2023年1月にSキューブ4、2024年1月にSキューブ5を相次いで稼働させた。この2棟の新設で、生産能力は子会社SCREENセミコンダクターソリューションズの売上高ベースで2022年比40%増の年5000億円へ拡大した。祖業の写真製版から数えて一世紀半、洗浄装置の量産を彦根の一拠点へ集める集中の度合いを一段と高めた[5]。
増産の計画はさらに先へ延びる。SCREENは装置の生産能力を2027年3月期までに約2割増の年6000億円へ、2033年3月期には約8000億円へ引き上げる見通しを示した。1兆円のうち約8割を占める半導体関連を、およそ8000億円規模の供給力で支える算段である。半導体の需要が高い今のうちに建屋と設備を先に用意し、次の増勢が来たときに取りこぼさない――ピーク期の増産は、この先回りに賭ける判断だった[6]。
結果
最高益と、引き継がれた構想
賭けは、まず数字で報われた。2025年3月期の連結売上高は6252億円と初めて6000億円を超え、営業利益は1357億円、営業利益率は21.7%に達した。前年に続く最高益で、長期計画が掲げた20%以上の利益率を、目標年度の8年前にすでに上回った。親会社株主に帰属する当期純利益も994億円と最高を更新した。生成AI向けの先端半導体投資が想定を超える速さで立ち上がり、先に積み増した彦根の供給力が受け皿として働いた[7]。
体制も移った。2025年、6年にわたり社長を務めた廣江氏が退き、後藤正人氏が代表取締役社長CEOに就いた。後藤氏は現場の声を重視して高収益の体質を保つと述べ、前任が敷いた1兆円への道筋を引き継いだ。もっとも、2033年3月期の1兆円は本稿の時点でなお構想の段階にとどまる。半導体の波が下振れすれば、先回りした設備が重荷に転じる危うさも、この投資は同時に抱える[8]。