森ビル虎ノ門ヒルズ森タワー周辺3街区の連続開発と、日比谷線新駅の再開発との一体整備
1棟で終えるか、駅ごと街区にするか——創業の地で組んだ56年ぶりの新駅
- 概要
- 2014年に竣工した虎ノ門ヒルズ森タワー1棟の周辺で、森ビルが3街区の開発を続けて4棟の街区にまとめ、あわせて東京メトロ日比谷線の新駅を再開発と一体で整備した経営判断。2020年6月に虎ノ門ヒルズ駅が開業し、2023年10月のステーションタワー開業で4棟が揃った。
- 背景
- 虎ノ門は前身の森不動産が2棟のビルを建てた創業の地だが、以前は小中規模ビルが林立するオフィス街の一つでしかなかった。日比谷線は1964年の全線開業以来、霞ケ関と神谷町の間に駅がなく、交通結節点としては弱かった。
- 内容
- 森ビルは新駅を囲む形で3棟の超高層ビルを計画し、区域面積7.5ヘクタール・総事業費約4000億円ともいわれる規模で4棟をデッキと地下道でつないだ。新駅はUR都市機構が事業主体、東京メトロが設計・工事受託者という分担で2016年2月に着工した。
- 含意
- 2025年4月のグラスロック開業で総事業費約7000億円・約10年の再開発が事実上完了した。一方で同時期の港区は大規模オフィスの平均空室率が都内最高の8.1%に達し、再開発の拡大路線そのものを問う議論も出ていた。
床を建てる話と、改札を置く話
森ビルが手を伸ばしたのは、隣の3街区だけではなかった。1964年の全線開業以来ひとつも増えていなかった日比谷線の駅を、自社の開発と同じ工程のなかへ引き込んでいる。事業主体はUR都市機構、設計と工事は東京メトロ、森ビルは虎ノ門一・二丁目地区市街地再開発組合の参加組合員という分担で、駅は2016年2月に着工し2020年6月6日に開いた。オフィス床を建てる話と改札をどこに置くかの話を切り離さなかった点に、この面展開の芯があるとみることができる。
ただ、駅を得たことが街区全体の答えになったわけではない。ステーションタワーが駅直結でほぼ満床とみられていた同じ年、同じ港区で森ビルが開いた麻布台ヒルズはオフィスの内定率が伸びず、区の大規模ビルの平均空室率は都内で最も高い8.1%であった。2023年から26年の新規供給の過半が港区に集まる状況では、駅直結という条件を持たない床まで埋まるとは限らない。創業の地に4棟を建てて改札まで開けた事実と、その床が誰にどう使われるかは、別々に確かめられるべきものといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
1棟が建っても街区にはならない
虎ノ門ヒルズ森タワーが竣工したのは2014年5月であった。道路の上空に建物を建てる立体道路制度を用い、市街地再開発事業のなかで環状二号線と超高層タワーを一体に整備した1棟である。ただし建ったのはその1棟だけで、周囲は以前と変わらなかった。虎ノ門は小中規模のビルが林立する、よくあるオフィス街の一つでしかなかった[1][2][3]。
虎ノ門は森ビルにとって創業の地であり、前身の森不動産が同地に2棟のビルを建てたところから歩みが始まっている。2015年の時点で同社は森タワーの周辺にオフィスビルとマンションを建てる計画を進め、今後10年で虎ノ門や六本木を中心に約10件の再開発、総事業費1兆円、総敷地面積22万平方メートルを見込んでいた。1棟を核に面へ広げる構えが、すでにそこにあった[4][5]。
駅のない交差点
交通の側から見た虎ノ門は弱かった。日比谷線は1964年に全線が開業して以来、新しい駅が一つも増えていない。国道1号と環状第二号線が交わる一帯は霞ケ関駅から約500メートル、神谷町駅から約800メートルの位置にあり、日比谷線から街へ直接降りる術がなかった。街区の規模を広げるほど、この空白は重くなる[6][7]。
2014年度、特定都市再生緊急整備地域の整備計画が策定され、UR都市機構が日比谷線新駅整備の実施主体として決まった。計画は「生活環境を備えた国際的なビジネス・交流拠点の整備」と「交通結節機能の強化」を掲げていた。周辺の開発で居住者と就業者が増えれば交通量も増えるため、歩行者の安全性やアクセス性の向上が課題とされていた[8][9]。
決断
新駅を囲む3棟
森ビルは新駅を囲む形で、3棟の超高層ビルを計画した。36階建てのオフィス棟に、職住近接を求める海外顧客をにらんだ600戸の住居棟、さらにホテルと商業施設を組み合わせる。各棟は新駅から地下道でつながり、既存の虎ノ門ヒルズを含む計4棟がデッキで橋渡しされる。区域面積7.5ヘクタール、総事業費は約4000億円ともいわれた[10][11]。
開発を担う主体は森ビル単独ではなかった。4棟目にあたるステーションタワーは虎ノ門一・二丁目地区市街地再開発組合が推進する第一種市街地再開発事業のA-1街区であり、森ビルは参加組合員として加わる形をとっている。用地を買い集めて自ら建てるのではなく、組合の枠組みに入って床を得る組み立ては、六本木ヒルズで採った方針の延長にあった。辻慎吾社長は「これからが本番だ」と述べている[12][13]。
駅を再開発と同じ工程に入れる
新駅の設置工事は2016年2月に始まった。位置は日比谷線霞ケ関〜神谷町駅間、国道1号と環状第二号線の交差点付近である。交通結節機能の強化を周辺のまちづくりと連携して進める必要があるため、駅整備と周辺まちづくりを一体で進める事業調整を担うUR都市機構が事業主体となり、東京メトロが設計・工事受託者となった。事業期間は2014年度から2027年度までとされている[14][15]。
工事は営業中の路線の足元で進んだ。約50年前に造られたトンネルの側壁を撤去してホームを新設し、トンネルを支えながらその下を掘削する手順をとっている。開業日は2020年6月6日と決まり、まずホームのある地下1階に改札を置いて開ける形をとった。最終形では地下2階に改札を移し、隣接する再開発ビルの駅広場とつなぐと定められていた[16][17]。
結果
4棟が揃うまで
2020年1月にビジネスタワーが竣工した。総貸室面積約9万6000平方メートルのオフィスはテナント契約が満室で、1階には空港リムジンバスや都心と臨海部を結ぶBRTが発着できる約1000平方メートルのバスターミナルを設けている。同年6月6日、日比谷線虎ノ門ヒルズ駅が開業した。1964年の全線開業から56年ぶりの新駅であり、銀座線虎ノ門駅との乗り換えもできるようになった[18][19][20]。
2022年1月にレジデンシャルタワーが竣工し、547戸の住宅が加わった。2023年7月15日には駅の拡張工事が完成して改札が地下2階へ移り、ステーションタワー内に生まれた約2000平方メートルの駅前広場「ステーションアトリウム」とつながった。同年10月6日にステーションタワーが開業し、区域面積約7.5ヘクタール、延床面積約80万平方メートルの4棟が揃った[21][22][23]。
7000億円の完了と、大量供給のなかの評価
2025年4月、地下3階・地上4階建て、延べ床面積約8800平方メートルのグラスロックが開業し、総事業費約7000億円・約10年をかけた再開発が事実上完了した。先に開業したステーションタワーは延べ床面積約7万1000坪で、主要テナントとして外資系金融大手ゴールドマン・サックス証券などが入居する見通しとなり、日比谷線虎ノ門ヒルズ駅直結という利便性からオフィスフロアはほぼ満床とみられていた[24][25][26]。
同じ時期の港区は、大規模オフィスビルの平均空室率が8.1%と都内で最も高く、2023年から26年の4年間に東京23区で新規供給されるオフィスの55%がこの区に集まる状況にあった。森ビル自身が11月に開いた麻布台ヒルズはテナント集めに苦戦していた。ステーションタワーが4棟目として開業した年に、同じ会社の別の街区が床を埋めきれずにいたことになる[27][28]。
供給側の是非そのものを問う議論も同じ号に載っている。都市再生本部の設置から20年余りで東京には大量の床が積み上がったが、東京の都市総合力ランキングは8年連続の3位で横ばい、スイスIMDの世界競争力順位で日本は2023年に過去最低の35位へ落ちた。国土交通省都市局は「東京は人口増加の勢いほど経済成長できていない」と指摘している。拡大路線を続けてよいのか、という問いであった[29][30]。
- 週刊東洋経済 2015年5月15日号「【第1特集 不動産・マンション バブルが来る!?】Part1 都心再開発バブル! 不動産大手、最後の陣取り合戦」
- 週刊東洋経済 2017年12月9日号「【第1特集 駅・路線格差】PART1 首都圏編 これから伸びる都心の駅 五輪前後に目白押し 再開発で変わる勢力図」
- 週刊東洋経済 2023年11月25日号「【特集 不動産・オフィス大余剰】PART1 オフィス戦争 港区オフィス崩壊の序章か? 『麻布台ヒルズ』が映し出す新築ビルの不安」
- 週刊東洋経済 2023年11月25日号「【特集 不動産・オフィス大余剰】PART2 再開発の闇 都市政策は正しかったのか? 再開発『拡大路線』の限界」
- 東京メトロ ニュースリリース(2019年11月11日)「日比谷線に虎ノ門ヒルズ駅が誕生します!2020年6月6日(土)開業」
- 東京メトロ ニュースリリース(2020年6月2日)「2020年6月6日(土)日比谷線虎ノ門ヒルズ駅 開業」
- UR都市機構・東京地下鉄 ニュースリリース(2023年6月21日)「虎ノ門ヒルズ駅の拡張工事完成 虎ノ門ヒルズ ステーションタワーとつながり、まちと一体となった新たな駅へ」
- UR都市機構「日比谷線新駅整備(虎ノ門ヒルズ駅)周辺まちづくりとの連携による交通結節機能整備」
- 森ビル ニュースリリース(2020年1月21日)「『虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー』竣工」
- 森ビル ニュースリリース(2023年1月24日)「『国際新都心・グローバルビジネスセンター』へと拡大・進化 『虎ノ門ヒルズ ステーションタワー』2023年秋開業」
- 東洋経済オンライン(2019年10月)「日比谷線新駅『虎ノ門ヒルズ』どんな駅になる?」
- 日経ビジネス(2020年6月9日)「虎ノ門ヒルズ駅開業 交通の要衝復活を狙う虎ノ門」
- 日本経済新聞(2025年4月)「虎ノ門ヒルズ、7000億円開発完了 森ビルが新施設開業へ」
- 日本経済新聞(2025年4月8日)「〈ビジネスTODAY〉虎ノ門ヒルズ、企業つなぐ 森ビル、7000億円再開発完了 麻布台などと回遊促す」
- 森ビル 有価証券報告書【沿革】