東京エレクトロン合志と大和町への開発棟新設:他社との統合による規模拡大を捨て、国内の自社開発拠点への投資で伸びる道を選んだ判断

更新:

時期 2022年3月
意思決定者(推定) 河合利樹 東京エレクトロン 代表取締役社長・CEO
論点 統合破談後の成長路線と開発能力の確保
概要

2022年3月末時点で、東京エレクトロンは連結子会社の東京エレクトロン九州が本社を置く熊本県合志市に、投資予定金額300億円の研究開発施設を建てる計画を持っていた。同じ計画表には、東京エレクトロン宮城の本社がある宮城県黒川郡大和町の研究開発施設470億円も並ぶ。

続く2022年6月8日には新しい中期経営計画を発表し、2023年3月期からの5年間で2027年3月期までに売上高3兆円以上、営業利益率35%以上、ROE30%以上という財務目標を掲げた。装置の開発能力そのものを国内の自社拠点で厚くする道を選んだ判断である。

背景

2013年9月に合意した米アプライドマテリアルズとの対等統合は、各国の独占禁止法審査が折り合わず2015年4月に解約された。規模で世界首位級に並ぶ道は、この時点で閉じている。

その後の東京エレクトロンは自力の成長に振り、2019年5月の中期経営計画で2024年3月期までに売上高2兆円・営業利益率30%以上・ROE30%以上という財務モデルを掲げた。2022年3月期の決算は売上高2兆38億円、営業利益率29.9%、ROE37.2%となり、この財務モデルに2年前倒しでほぼ到達した。次の目標を置き直す時機が来ていた。

内容

合志の研究開発施設は計画時の300億円から2023年3月期末に430億円へ増え、2023年9月に着手して2025年8月の完了を予定した。大和町の研究開発施設も470億円から520億円となり、2023年6月着手・2025年4月完了で組まれた。いずれも自己資金による。

中期経営計画では、5年間で1兆円以上の研究開発費と4,000億円程度の設備投資を国内を中心とする拠点に充てる計画を置いた。買収で他社の製品群を取り込むのではなく、自社が得意とする分野で付加価値の高い新製品を出し続けることで売上と利益率を上げるという筋立てである。

含意

設備投資額は2022年3月期の572億円から2025年3月期には1,621億円へ、研究開発費は同じ期間に1,583億円から2,500億円へ増えた。2025年3月期の売上高は2兆4,315億円、営業利益率28.7%、ROE30.3%で、財務目標のうちROEだけが目標線に届いている。

2025年6月には大和町に投資予定金額1,040億円の生産・物流施設を着手し、完成後の生産能力を250%増やす計画を置いた。合志と大和町で始まった開発拠点への投資は、生産能力の増強へ地続きに広がっている。

筆者の見解

統合で買えなかったものを、自分で建てる

この投資を、単なる設備の増強として読むと芯を外す。2013年に合意した対等統合が2015年に解約されたとき、東京エレクトロンが失ったのは規模だけではなく、相手の製品群と開発人員を一度に手に入れる経路そのものであった。合志と大和町の開発棟は、その経路を自分の敷地の中に作り直す試みだったとみることができる。5年で研究開発費1兆円以上・設備投資4,000億円程度という枠の置き方も、買収の対価として一度に払う金額ではなく、開発能力を毎年積み上げる費用として払うという構えを示している。統合で買えなかったものを、時間をかけて自分で建てるという選択である。

もっとも、この道が財務目標に届いたかはまだ決していない。2025年3月期の売上高2兆4,315億円は3兆円に遠く、営業利益率28.7%も35%以上には届いていない。自前の開発に寄せるほど成果が出るまでの距離は長くなり、市況の谷では投資だけが先に立つ。それでも、開発棟の投資が2025年に1,040億円の生産棟へ地続きに伸び、生産能力を250%増やす計画にまで及んだことは、この5年で開発の出口が実際に太くなったことを示しているように見える。目標線に届くかどうかより、拠点を建て続けられる稼ぐ力を保てるかが、この判断の答え合わせになるのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

国内開発拠点への投資と中期経営計画の条件

科目 概要 備考
投資の対象 研究開発施設(新開発棟) 完成後の増加能力は記載がない。生産設備ではなく開発と評価のための施設
合志の投資予定金額 300億円 → 430億円 2022年3月末の計画は300億円。2023年3月末に430億円へ増えた
合志の着手と完了 2023年9月着手・2025年8月完了予定 2022年3月末の計画では2023年3月着手・2024年9月完了だった
大和町の投資予定金額 470億円 → 520億円 2022年3月末の計画は470億円。2023年3月末に520億円へ増えた
大和町の着手と完了 2023年6月着手・2025年4月完了予定 2022年3月末の計画では2023年5月着手・2025年4月完了だった
資金の調達方法 自己資金 計画表に載る国内外の新設・改修は、いずれも自己資金による
事業を担う会社 東京エレクトロン九州・東京エレクトロン宮城 いずれも議決権比率100.0%の連結子会社。合志市と黒川郡大和町に本社を置く
中期経営計画の期間 2023年3月期から5年 2022年6月8日に新ビジョンとあわせて発表した
財務目標(売上高) 2027年3月期までに3兆円以上 2019年5月の財務モデルは2024年3月期までに2兆円だった
財務目標(営業利益率・ROE) 営業利益率35%以上・ROE30%以上 営業利益率は前計画の30%以上から引き上げ、ROEは30%以上に据え置いた
5年間の研究開発費 1兆円以上 付加価値の高い次世代製品の創出に充てる計画として置いた
5年間の設備投資 4,000億円程度 生産能力の増強と研究開発向けの設備投資を含む
財務目標と市場想定の関係 市場想定とは紐づけていない 2027年3月期は通過点で、早期の達成を目指すという置き方をした

出所:東京エレクトロン 有価証券報告書 第59期(2022年3月期)【設備の新設、除却等の計画】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】/第60期・第62期【設備の新設、除却等の計画】/中期経営計画説明会 質疑応答(2022年6月8日)/統合報告書 IR2022

東京エレクトロン:設備投資額と研究開発費の推移

(億円) 設備投資額研究開発費 備考
2017年3月期 206838
2018年3月期 456971
2019年3月期 4971,140
2020年3月期 5461,203
2021年3月期 5381,366
2022年3月期 5721,583 合志300億円・大和町470億円の研究開発施設を計画に置いた期
2023年3月期 7441,912 穂坂事業所の新開発棟を建設中。合志と大和町は着手前
2024年3月期 1,2182,029 穂坂の新開発棟が稼働。合志と大和町の新開発棟を建設中
2025年3月期 1,6212,500 合志と大和町の新開発棟を建設中。夏に大和町の新生産棟の着工を予定
2026年3月期 有報が手元になく、逐語で照合できていない
2027年3月期 中期経営計画の最終年度。決算期は未到来
設備投資額と研究開発費
設備投資額(億円)研究開発費(億円)

出所:東京エレクトロン 有価証券報告書 第54期〜第62期【設備投資等の概要】 / 東京エレクトロン 有価証券報告書 第54期〜第62期【研究開発活動】

東京エレクトロン:中期経営計画の財務目標に対する連結業績

(億円) 売上高営業利益 備考
2017年3月期 7,9971,557 営業利益率19.5%・ROE19.1%
2018年3月期 11,3072,812 営業利益率24.9%・ROE29.0%
2019年3月期 12,7823,106 営業利益率24.3%・ROE30.1%
2020年3月期 11,2732,373 営業利益率21.0%・ROE21.8%
2021年3月期 13,9913,207 営業利益率22.9%・ROE26.5%
2022年3月期 20,0385,993 営業利益率29.9%・ROE37.2%。前計画の財務モデルに2年前倒しで到達
2023年3月期 22,0906,177 営業利益率28.0%・ROE32.3%。新中期経営計画の初年度
2024年3月期 18,3054,563 営業利益率24.9%・ROE21.8%
2025年3月期 24,3166,973 営業利益率28.7%・ROE30.3%
2026年3月期 有報が手元になく、逐語で照合できていない
2027年3月期 財務目標は売上高3兆円以上・営業利益率35%以上・ROE30%以上
売上高と営業利益率
売上高(億円)営業利益率(%)

出所:東京エレクトロン 有価証券報告書 第57期・第62期【主要な経営指標等の推移】 / 東京エレクトロン 有価証券報告書 第54期〜第62期【連結損益計算書】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

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出典・参考
  • 東京エレクトロン 有価証券報告書「第59期(2022年3月期)【設備の新設、除却等の計画】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 東京エレクトロン 決算説明会質疑応答「2022年6月8日 中期経営計画説明会 質疑応答集」
  • 東京エレクトロン 統合報告書「統合報告書 IR2022」
  • 東京エレクトロン 有価証券報告書「第60期(2023年3月期)【設備の状況】」
  • 東京エレクトロン 有価証券報告書「第61期(2024年3月期)【設備の状況】」
  • 東京エレクトロン 有価証券報告書「第62期(2025年3月期)【設備の状況】【主要な経営指標等の推移】」
  • 東京エレクトロン 決算説明会資料「2023年3月期 決算説明会資料」

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