新宿駅西南口をJR東日本と再開発(2023年・京王電鉄の決断)

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論点 新宿駅前という最重要拠点の資産更新と大型投資判断
売上高(億円)営業利益率(%)
総事業費3000億円の共同事業への参画という、単独では担えない規模の投資

総事業費3000億円の共同事業への参画という、単独では担えない規模の投資

概要

京王電鉄は東日本旅客鉄道と事業主体を組み、新宿駅西南口地区の再開発に取り組んだ。2022年11月9日の都市計画決定告示を受け、2023年8月2日の取締役会が事業推進を決定し、南街区開発の自社負担分と京王線新宿駅改良工事(一部先行分)に920億円、本計画と改良工事の全体で京王電鉄の総事業費3000億円程度を見込んだ。だが2025年3月、南街区が新築工事の着工に至らず、工期を「2023年度〜未定」に変更した。

背景

東京都と新宿区は2018年3月、駅と駅前広場、駅ビルを一体で再編する"新宿グランドターミナル"構想を掲げた"新宿の拠点再整備方針"を公表していた。京王百貨店・京王プラザホテルなど中核資産を新宿エリアに集めてきた京王電鉄は、この方針に沿ってJR東日本と事業主体を組み、西南口一帯の資産と機能を更新する再開発に動き出した。

内容

計画地は新宿区西新宿一丁目と渋谷区代々木二丁目にまたがる敷地約1万6300平方メートルで、延床面積は約29万1500平方メートルに及ぶ。南街区は地上37階・地下6階、最高高さ約225メートル、北街区は地上19階・地下3階、最高高さ約110メートルとし、南街区の高層階には国際水準のラグジュアリーホテルの整備を検討する。26〜33階に130室程度を予定する。

含意

事業着手に伴う固定資産の耐用年数短縮で減価償却費は約17億円増え、対象エリアの取壊し義務として107億円の資産除去債務を計上した。南街区の工期が未定となった一方、北街区の着手は南街区の竣工後で工期は2040年代に及ぶ。本中期経営計画は建物投資も完成に伴う利益も見込んでおらず、負担だけが先に立つ形になっている。

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筆者の見解 先に立った負担と、動き出さない建物
筆者の見解

先に立った負担と、動き出さない建物

新宿駅西南口の再開発でまず動いたのは、建物ではなく損益だった。2023年8月の事業推進決定は、翌2024年3月期のうちに固定資産の耐用年数短縮という形で586百万円の減益を呼び、同じ期に取壊し義務として10,697百万円の資産除去債務を積み上げた。京王電鉄の総事業費3000億円程度という数字は、契約で確定した投資額ではなく、詳細を未定としたまま置かれた想定額にすぎない。確定しているのは負担の側で、収益は南街区が竣工するまで立たない。この判断は、都心の一等地を持つ鉄道会社が、収益の見えない期間をどれだけ長く抱えられるかを測る試験だったのだろう。

もっとも、止まっているのは南街区の建物だけである。京王線新宿駅改良工事は2024年4月に着手し、ホームの北側移動と改札の新設は工事として動いている。そしてHIRAKU2030は、建物に関する投資も完成に伴う利益も見込まないという前提のうえに、2030年度の財務目標を組み立てた。工期が未定に変わっても計画の数字が揺らがないのは、そもそも建物を計算に入れていなかったからだろう。竣工時期の空白は、計画の破綻というより、2030年代の大規模投資期へ渡るための助走をどこまで長く取れるかという問いに置き換わっている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

数字で見る 3表
新宿駅西南口地区開発計画の条件

新宿駅西南口地区開発計画の条件

科目 概要 備考
事業主体 京王電鉄・東日本旅客鉄道 両社の持分や費用分担の比率は開示されていない
都市計画決定の告示 2022年11月9日 都市再生特別地区としての告示を受けて事業推進の検討に入った
取締役会の決定 2023年8月2日 本計画と京王線新宿駅改良工事の事業を推進することを決議した
計画地 東京都新宿区西新宿一丁目及び渋谷区代々木二丁目各地内
敷地面積 約16,300㎡ 北街区は約10,000㎡、南街区は約6,300㎡
延床面積 約291,500㎡ 北街区は約141,500㎡、南街区は約150,000㎡
南街区の規模 地上37階、地下6階・最高高さ約225m 主要用途は店舗、事務所、宿泊施設、駐車場等
北街区の規模 地上19階、地下3階・最高高さ約110m 主要用途は店舗、宿泊施設、駐車場等。着手は南街区の竣工後
南街区の工期 2023年度〜2028年度 2025年3月28日に「2023年度〜未定」へ変更した
北街区の工期 〜2040年代 計画の内容は未定とし、今後決定するとした
ラグジュアリーホテル 26〜33階に130室程度 南街区の高層階に国際水準のホテルを整備する検討として示した
京王電鉄の事業費 920億円 南街区開発の京王電鉄の負担分と新宿駅改良工事(一部先行分)の予定額
京王電鉄の総事業費 3,000億円程度 本計画と改良工事の全体。詳細は未定として想定額を示した
資金の調達方法 自己資金、社債および借入金
2024年3月期業績への影響 減価償却費が約17億円増加 事業着手に伴う固定資産の耐用年数短縮等による見込み
資産除去債務の計上 10,697百万円 対象エリアの固定資産の取壊し義務。2024年3月期に計上した

出所:京王電鉄「新宿駅西南口地区開発計画および京王線新宿駅改良工事について」(2023年8月2日)・「新宿駅西南口地区開発計画の変更について」(2025年3月28日)

設備投資額と減価償却費の推移

京王電鉄:設備投資額と減価償却費の推移

(百万円) 設備投資額うち不動産業減価償却費 備考
2019年3月期 55,14611,60536,248
2020年3月期 56,63217,66435,862
2021年3月期 36,1218,75834,663
2022年3月期 33,8229,53731,164
2023年3月期 52,86519,71529,127 不動産業の投資は新規賃貸資産の取得が中心だった
2024年3月期 44,9596,90530,643 耐用年数の短縮などで減価償却費が5期ぶりに増加へ転じた
2025年3月期 45,8437,56632,644 不動産業の投資は新宿駅西南口地区開発計画などによる
うち不動産業(百万円)不動産業以外(百万円)

出所:京王電鉄 有価証券報告書 第98〜104期【設備の状況】(設備投資等の概要・設備の新設、除却等の計画) / 京王電鉄 有価証券報告書 第98〜104期(連結キャッシュ・フロー計算書)

不動産業セグメントの推移

京王電鉄:不動産業セグメントの推移

(百万円) 外部顧客への営業収益セグメント利益セグメント資産 備考
2019年3月期 47,1819,433211,015
2020年3月期 42,5889,199225,870
2021年3月期 45,32510,401223,544
2022年3月期 44,51810,470224,720
2023年3月期 50,09812,090252,398
2024年3月期 62,63212,018309,874 セグメント資産が前期から57,476増えた
2025年3月期 88,16218,177382,532 ショッピングセンター事業の区分変更後。前期の組替後は71,371
外部顧客への営業収益(百万円)セグメント利益率(%)

出所:京王電鉄 有価証券報告書 第98〜104期【セグメント情報等】

参考文献

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