知多工場の150tアーク炉新設(2011年・大同特殊鋼の決断)

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論点電力コスト上昇に製鋼設備の刷新で備えるか
大同特殊鋼:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
炉の大型化による電力コスト上昇への備えと粗鋼生産能力の拡大

何をなぜ決めたか:炉の大型化による電力コスト上昇への備えと粗鋼生産能力の拡大

概要

2011年12月、大同特殊鋼は主力の知多工場(愛知県東海市)で製鋼設備の合理化工事に着手した。投資予定額は19,800百万円、完了予定は2013年11月である。2012年3月に公表した2014中期経営計画は、この投資を約200億円・稼働予定2013年秋と示し、粗鋼生産能力を年150万トンから180万トンへ引き上げ、エネルギーコストを10%削減する目標を置いた。決めたのは2010年6月に就任した嶋尾正社長である。

工事は予定どおり進んだ。2013年11月、知多工場で150tアーク炉が稼働を開始した。新型電炉は量産体制に移り、立上げに合わせて2013年11月から2014年3月まで備蓄在庫を取り崩した。

背景

知多工場は1963年5月に操業を開始し、1992年4月にNo.2連続鋳造設備を動かし、1995年4月には星崎工場の製鋼部門を集約した。大同特殊鋼の粗鋼はこの工場に集まっていた。2012年3月期の重点課題の筆頭に、会社は知多工場の製鋼プロセスの抜本的な合理化を置き、歩留向上と省電力によるコストダウン、品質改善、戦略商品の生産余力の創出を求めた。

重点課題には、原材料の調達環境の変化や電力供給の制約への対処も並んだ。電炉で鉄スクラップを溶かす製鋼は電力を多く使う。2011年10月の決算説明会資料は、知多工場への戦略投資を、エネルギーコストが高くなる時代に備えた抜本的なコスト削減と位置づけている。

内容

投資には3つの狙いがあった。1つ目は物流改革による粗鋼生産能力の向上で、代替生産の難しい大同得意商品の生産能力を年150万トンから180万トンへ引き上げる。2つ目は炉容の大型化と投入エネルギーの多様化で、電力コストの上昇に備えてエネルギーコストを10%削減する。3つ目は物流の整流化と炉容の大型化による粗鋼品質の安定化である。炉の大容量化には、No.2連続鋳造設備の製造余力を生む狙いもあった。

支出は2期にまたがった。特殊鋼鋼材の設備投資は2013年3月期に9,923百万円、2014年3月期に22,260百万円で、どちらも知多工場の製鋼設備合理化が主な案件である。2014年3月期の提出会社では、製鋼設備合理化で機械及び装置が12,497百万円、建物が3,491百万円増加した。

含意

稼働の年は利益を押し下げた。2014年3月期の特殊鋼鋼材は売上高が前期比8.7%増の1,841億円となった一方、営業利益は新電炉の立上げコストと円安によるエネルギーコストの拡大で前期比18億23百万円減の16億91百万円にとどまった。2016年3月期には、鉄スクラップ価格の下落やエネルギーコストの低下も加わり、営業利益が75億60百万円まで回復した。

全社の目標には届かなかった。2014中期経営計画は2014年度の経常利益450億円を掲げた。実績は217億円で、会社は尖閣問題による需要減と想定以上の現地調達化を挙げて収益未達と総括した。続く2017中期経営計画は、150t新電炉の効果の刈り取りと、知多工場への再溶解炉(ESR)の設置を課題に置いた。

いつ何が起きたか12件
考察:電力高への備えが先に立った電炉
考察

考察:電力高への備えが先に立った電炉

なぜ2011年の暮れに着手したのか。知多工場は大同特殊鋼の粗鋼を集める工場で、電炉は電力を大量に使う。2012年3月期の重点課題は、電力供給の制約を経営環境のリスクに数えていた。炉を大きくし、電力以外のエネルギーも投入できれば、電気代が上がっても1トンあたりのコストを抑えられる。同じ投資で年150万トンの能力を180万トンへ引き上げる計画も立てた。守りのコスト削減と、得意商品を増産する攻めを1つの設備投資で兼ねる選択だったとみられる。

もっとも、この投資は数量が伸びることを前提にしていた。能力を180万トンへ増やしても、売れなければ固定費が重くなる。2014中期経営計画は2014年度に経常利益450億円を見込み、知多工場の投資効果で市況とコストの上昇を補う筋書きを描いた。ところが2014年3月期の特殊鋼鋼材は、新電炉の立上げコストと円安によるエネルギーコスト拡大で営業利益が16億91百万円まで低下した。電気代の上昇は、新しい炉が効果を出すより早く進んでいたと思われる。

到達点は部分的な成功である。150tアーク炉は計画どおり2013年11月に稼働し、特殊鋼鋼材の営業利益は2016年3月期に75億60百万円まで戻った。設備としての狙いは果たした。一方で、全社の経常利益は2014年度に217億円にとどまり、目標の450億円の半分を下回った。会社自身が収益未達と総括している。炉を大きくしても、需要減と現地調達化という外の変化までは埋められなかった。知多の製鋼は、その後の再溶解炉の設置へと投資が続いている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

大同特殊鋼:特殊鋼鋼材の設備投資額の推移

特殊鋼鋼材の設備投資額(百万円)

150tアーク炉が稼働した2014年3月期に、設備投資額は22,260百万円まで増加した

大同特殊鋼:特殊鋼鋼材の設備投資額の推移
(百万円)特殊鋼鋼材の設備投資額備考
2007年3月期11,315
2008年3月期11,253
2009年3月期10,514
2010年3月期5,745
2011年3月期8,356
2012年3月期10,7062011年12月に知多工場の製鋼設備合理化(19,800百万円)に着手
2013年3月期9,923この期から報告セグメントの区分を変更。主な案件は知多の製鋼設備合理化
2014年3月期22,2602013年11月に150tアーク炉が稼働。主な案件は知多の製鋼設備合理化
2015年3月期9,172
2016年3月期7,670主な案件は知多工場の再溶解設備
2017年3月期7,527主な案件は知多工場の再溶解設備
出所:大同特殊鋼 有価証券報告書 第83〜93期【設備投資等の概要】
出所:大同特殊鋼 有価証券報告書 第83〜93期【設備投資等の概要】

大同特殊鋼:連結の売上高と営業利益の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)
大同特殊鋼:連結の売上高と営業利益の推移
(百万円)売上高営業利益備考
2007年3月期522,62031,700
2008年3月期591,39838,441
2009年3月期532,6559,115
2010年3月期362,507△14,050
2011年3月期472,06232,730
2012年3月期489,15431,5332011年12月に知多工場の製鋼設備合理化に着手
2013年3月期440,42815,425需要減と知多工場の工事関連費用で減益
2014年3月期457,73118,9772013年11月に150tアーク炉が稼働
2015年3月期483,63320,40814中期の最終年度。経常利益は217億円で目標450億円に未達
2016年3月期460,57724,432
2017年3月期445,12225,513
出所:大同特殊鋼 有価証券報告書 第83〜93期【連結損益計算書】
出所:大同特殊鋼 有価証券報告書 第83〜93期【連結損益計算書】

大同特殊鋼:特殊鋼鋼材の売上高と営業利益の推移

特殊鋼鋼材の売上高(百万円)特殊鋼鋼材の営業利益率(%)
大同特殊鋼:特殊鋼鋼材の売上高と営業利益の推移
(百万円)特殊鋼鋼材の売上高特殊鋼鋼材の営業利益備考
2013年3月期169,3793,514この期から報告セグメントの区分を変更
2014年3月期184,1001,691新電炉の立上げコストと円安によるエネルギーコスト拡大で減益
2015年3月期189,1243,177
2016年3月期170,5137,560鉄スクラップ価格の下落とエネルギーコストの低下が寄与
2017年3月期163,0865,813
出所:大同特殊鋼 有価証券報告書 第83〜93期【業績等の概要】【セグメント情報】
出所:大同特殊鋼 有価証券報告書 第83〜93期【業績等の概要】【セグメント情報】
参考文献

参考文献

参考
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第88期(2012年3月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • 大同特殊鋼 2014中期経営計画説明会資料(2012年3月21日)「1-8 ベースロード事業基盤の強化」
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第88期(2012年3月期)【役員の状況】
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第90期(2014年3月期)【沿革】
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第90期(2014年3月期)【業績等の概要】/2013年度第2四半期決算説明会資料(2013年10月31日)
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第88期(2012年3月期)【対処すべき課題】
  • 大同特殊鋼 2013年度第2四半期決算説明会資料(2013年10月31日)「ベースロード事業基盤の抜本的強化①」
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第89期(2013年3月期)・第90期(2014年3月期)【設備投資等の概要】
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第90期(2014年3月期)【有形固定資産等明細表】
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第90期(2014年3月期)【業績等の概要】
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第92期(2016年3月期)【業績等の概要】
  • 大同特殊鋼 2014中期経営計画説明会資料(2012年3月21日)「3-1 中期経営目標≪計数目標値≫①」
  • 大同特殊鋼 2017中期経営計画説明会資料(2015年6月2日)「Ⅰ.14中期 経営実績」
  • 大同特殊鋼 2017中期経営計画説明会資料(2015年6月2日)「Ⅲ-3.QCD競争力の強化」
  • 大同特殊鋼 2014中期経営計画説明会資料(2012年3月21日)
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第90期(2014年3月期)【沿革】【業績等の概要】
  • 大同特殊鋼 2017中期経営計画説明会資料(2015年6月2日)
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第92期(2016年3月期)【設備投資等の概要】
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第83〜93期【設備投資等の概要】
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第83〜93期【連結損益計算書】
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書 第83〜93期【業績等の概要】【セグメント情報】
  • 大同特殊鋼 決算説明会資料「決算説明会資料(2011年10月31日)」
  • 大同特殊鋼 中期経営計画「2014中期経営計画説明会資料」
  • 大同特殊鋼 決算説明会資料「2013年度第2四半期決算説明会資料(2013年10月31日)」
  • 大同特殊鋼 中期経営計画「2017中期経営計画説明会資料」
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書「第88期(2012年3月期)【設備の新設、除却等の計画】【対処すべき課題】」
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書「第89期(2013年3月期)【業績等の概要】【設備投資等の概要】」
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書「第90期(2014年3月期)【沿革】【業績等の概要】【設備投資等の概要】」
  • 大同特殊鋼 有価証券報告書「第92期(2016年3月期)【業績等の概要】【設備投資等の概要】」

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