ミタルと提携し資本防衛(2007年・日本製鉄の決断)

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論点 世界最大手と提携して買収に備えるか
日本製鉄:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
世界最大手の攻勢に備えた提携覚書の締結と、3社連合による資本防衛

何をなぜ決めたか:世界最大手の攻勢に備えた提携覚書の締結と、3社連合による資本防衛

概要

2007年7月12日、新日本製鉄はアルセロール・ミタルと覚書を結んだ。前年のミタル・スチールによるアルセロール統合を受けて続けてきた協議の結論で、アルセロールと結んでいた戦略提携の契約は統合会社が権利と義務を引き継ぐことで基本合意し、北米の自動車鋼板合弁の拡大は引き続き協議することにした。

同じ2007年、新日本製鉄は住友金属工業・神戸製鋼所との3社で、連携をさらに深める施策の検討に入った。世界最大手とは契約を引き継いで組み続け、国内では3社の結びつきを強める、二つの動きを並べた判断だった。

背景

新日本製鉄は2006年3月29日の取締役会で、株式の大量買付けに関する適正ルールという買収防衛策を導入していた。三村明夫社長は2007年の年頭のあいさつで、ミタル・スチールによるアルセロール買収で、同社の約3倍にあたる年1億2,000万トンの粗鋼生産能力と1兆円以上のキャッシュフローを持つ鉄鋼会社が生まれたと述べた。そのうえで、この買収は 『十分な時価総額がなければ、結果として買収されるリスクが高まる』 ことを示したと語った。

業績は高い水準にあった。2007年3月期の連結売上高は4兆3,021億円、経常利益は5,976億円だった。稼ぐ力があっても、規模と時価総額の差は埋まっていなかった。

内容

ミタルとの覚書は二本立てだった。アルセロールと結んでいた戦略提携の契約は統合会社に引き継がせ、改定契約を結ぶ。北米の自動車鋼板合弁の拡大は、成案を得しだい正式な契約を結ぶ。

国内の3社は4つの項目を検討した。高級鋼向けに住友金属工業和歌山の鉄源設備を3社で共同活用する範囲の拡大、新日本製鉄と住友金属工業の高級鋼薄板の供給能力確保と住友金属直江津への共同対応、新日本製鉄と神戸製鋼所のダストのリサイクルや還元鉄の生産・利用、住友金属工業と神戸製鋼所の連携である。三村明夫社長は年頭に、両社などとのアライアンスをさらに深めたいと表明していた。

含意

覚書は翌年に形になった。新日本製鉄とアルセロール・ミタルは、米インディアナ州の合弁I/N Koteに年約48万トンの自動車鋼板用溶融亜鉛めっきラインを新設し、2010年内の稼働を目指すことで合意した。投資額は約2億40百万ドルを目標とし、戦略提携の契約も統合会社が引き継ぐことで決着した。

三村明夫社長は2007年末、ミタルの誕生を受けて対抗軸を築く動きが世界各地で活発になっていると語った。国内の連合の一角だった住友金属工業とは、2012年10月に合併して新日鐵住金となった。

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考察:対抗と協調のあいだで
考察

考察:対抗と協調のあいだで

この判断の核心は、圧倒的な規模を持つ相手に対し、同じ規模で正面から張り合うのではなく、対抗と協調を使い分けた点にある。欧州に拠点を持たない新日鉄は、顧客である自動車メーカーへの供給責任を果たすため、対抗軸を掲げた当の相手とも覚書を交わした。同時に国内では、住金・神鋼との連合で規模と鉄源を補い、買収の圏外に完全には立てないという緊張のなかで足場を確立した。名を捨てて実を取る現実主義が、一連の動きを貫いていたのだろう。

もっとも、連合には温度差があり、対抗軸という方針は必ずしも足並みのそろったものではなかった。結局、最も強く結びついた新日鉄と住金は合併へ進み、対抗すべき相手だったミタルとは協業を重ねていった。誰と組み、誰と競うのかの線引きは、時とともに書き換えられていった。グローバル再編の圧力のもとで、対抗と協調の境界がたえず動く——鉄鋼という国家的産業が置かれた立場が、この判断のその後にうかがえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
参考文献

参考文献

参考
  • NIPPON STEEL MONTHLY 2008年5月号「新日鉄とアルセロール・ミッタル社との合意について」
  • NIPPON STEEL MONTHLY 2007年8・9月号「新日鉄とアルセロールミッタル社との覚書の締結について」
  • NIPPON STEEL MONTHLY 2007年12月号「新日鉄・住友金属工業(株)・(株)神戸製鋼所間のさらなる連携深化・拡大の検討について」
  • NIPPON STEEL MONTHLY 2006年5月号「当社株式の大量買付けに関する適正ルールの導入と新株予約権の発行登録について」
  • NIPPON STEEL MONTHLY 2007年1・2月号「新年のごあいさつ」
  • 新日本製鐵 有価証券報告書 第86期(2011年3月期)【主要な経営指標等の推移】
  • NIPPON STEEL MONTHLY 2007年12月号「長年の信頼関係を軸に──新日鉄−宝鋼友好協力」
  • 日本製鉄 有価証券報告書 第100期(2025年3月期)【沿革】
  • 公正取引委員会「(平成23年度:事例2)新日本製鐵(株)と住友金属工業(株)の合併」

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