ヤマハ政策保有株式の縮減と自己株式の取得・消却

時期 2025年2月
意思決定者(推定) 山浦敦 ヤマハ 代表執行役社長
論点 共通ブランドを分け合う相手の株式を保有し続けるか、資本効率のために売却するか
概要
ヤマハは2025年3月期に、共通の「ヤマハ」ブランドを使うヤマハ発動機の株式18,000,000株を売却し、保有株式数を46,928,370株から28,928,370株へ縮減した。売却による投資有価証券売却益は20,467百万円である。同じ期に3本の取締役会決議で自己株式を50,028百万円取得し、30,900,000株を消却した。2024年10月1日には普通株式1株を3株へ分割している。
背景
保有の基本方針は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資する合理性がある場合にのみ投資株式を保有することに置く。取締役会は個々の政策保有株式について、保有目的に照らした適切性と、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合うかを定期的・継続的に検証し、縮減を進めている。ヤマハ発動機株式の売却は2000年に始まり、2018年3月期には8,000,000株を売却して投資有価証券売却益25,823百万円を計上した。株主還元は中期経営計画期間の累計で総還元性向50%以上を目標に置く。
内容
自己株式の取得は3本の取締役会決議で進めた。2024年2月6日決議が7,000,000株・15,000百万円、2024年9月2日決議が18,000,000株・14,000百万円、2025年2月5日決議が35,000,000株・30,000百万円である。取得した自己株式は2024年6月3日と12月27日に消却し、発行済株式総数は株式分割を挟んで531,000,000株となった。2025年4月1日にはさらに28,000,000株を消却し、503,000,000株へ減少した。
含意
自己資本にあたる親会社の所有者に帰属する持分は510,592百万円から448,834百万円へ縮小し、資産合計に対する比率は76.6%から75.9%へ低下した。保有株式数を縮減しても保有目的の記述は変わらず、合同ブランド委員会・ヤマハブランド憲章・合同ブランド規程によるブランドの共同管理は続いている。ヤマハ発動機もヤマハ株式を14,080千株・3.11%保有し、相互保有の関係は残った。
筆者の見解

ブランドの共同管理は残し、政策保有株式だけを縮減する

この判断は、ヤマハ発動機株式を、分離の経緯でつながる相手の株式から、資本コストに見合うかを問われる資産へ置き直した動きにあたる。売却しても保有目的の記述は一字も変わらず、合同ブランド委員会を軸としたブランドの共同管理は続いている。縮減したのは関係そのものではなく、関係を支えるために積み上がった保有株式数のほうである。2025年3月期に売却した18,000,000株は前期末の保有の4割近くを占め、貸借対照表計上額は66,802百万円から34,482百万円へ下がった。保有の合理性を資本コストで検証する枠組みが、この年の縮減幅を決めている。

もっとも、売却益と自己株式の取得が対処している問題は、還元水準の不足ではなく資本効率の低さである。この期の親会社所有者帰属持分利益率は2.8%まで低下し、株主資本コストとして認識する7.5%を下回った。50,028百万円の取得と30,900,000株の消却は、その差を分母である自己資本の側から詰める手当てであって、収益力そのものを回復させる策ではない。ピアノの生産構造改革が損益に効くまでの時間を、資本政策で埋めているとみられる。ヤマハ発動機はヤマハ株式を3.11%保有したままで、相互保有の解消は片側からしか進んでいない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

資本政策の条件

科目 概要 備考
売却した政策保有株 ヤマハ発動機㈱ 18,000,000株 当事業年度末の保有は28,928,370株、貸借対照表計上額は34,482百万円
売却益 20,467百万円 提出会社の投資有価証券売却益。減少した上場5銘柄の売却価額の合計は31,065百万円
保有目的 「ヤマハ」ブランドの共同管理 合同ブランド委員会・ヤマハブランド憲章・合同ブランド規程を設けて共同で実施
自己株式取得の決議(2024年2月6日) 7,000,000株・15,000百万円 取得期間は2024年2月7日〜7月31日。株式分割前の株数
自己株式取得の決議(2024年9月2日) 18,000,000株・14,000百万円 取得期間は2024年9月10日〜2025年2月28日。株式分割による調整後の株数
自己株式取得の決議(2025年2月5日) 35,000,000株・30,000百万円 取得期間は2025年2月18日〜11月30日。株式分割による調整後の株数
当期の自己株式の取得額 50,028百万円 3本の決議による取得の合計。内訳は6,030・13,999・29,999百万円
自己株式の消却 30,900,000株 処分価額の総額は44,914,976,913円。2025年4月1日に28,000,000株を追加消却
株式分割 1株につき3株 2024年10月1日効力発生。発行済株式総数が362,000,000株増加
期末の発行済株式総数 531,000,000株 2025年4月1日の消却により503,000,000株となった
期末の保有自己株式数 77,914,034株 株式分割による調整後の株数

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第201期(2025年3月期)【株式の保有状況】【自己株式の取得等の状況】【発行済株式総数、資本金等の推移】

ヤマハ:ヤマハ発動機株式の保有

(百万円) 保有株式数(株)貸借対照表計上額 備考
2020年3月期 34,642,79045,278
2021年3月期 34,642,79093,916
2022年3月期 15,642,79043,111 19,000千株を売却。手数料等を控除した収入は46,087百万円
2023年3月期 15,642,79054,124
2024年3月期 46,928,37066,802 ヤマハ発動機が2024年1月1日に1株を3株へ分割。当期の売却はない
2025年3月期 28,928,37034,482 18,000,000株を売却。投資有価証券売却益は20,467百万円
2026年3月期 第202期の有価証券報告書が手元になく、逐語で照合できていない
2027年3月期 決算期が未到来
2028年3月期
2029年3月期
2030年3月期
ヤマハ発動機株式の計上額
貸借対照表計上額(百万円)

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第196〜201期【株式の保有状況】

ヤマハ:自己資本と自己株式の取得

(百万円) 親会社の所有者に帰属する持分資産合計自己株式の取得額 備考
2020年3月期 325,409474,0348,066 2019年2月5日決議による取得
2021年3月期 395,958557,6160 取締役会決議による自己株式の取得はない
2022年3月期 415,713580,66227,999 2021年8月23日決議。12月1日に4,255,025株を消却
2023年3月期 456,837594,2096,115 2023年2月7日決議による取得
2024年3月期 510,592666,83717,852 2023年2月7日決議分8,883と2024年2月6日決議分8,969の合計
2025年3月期 448,834591,27850,028 3本の決議で50,028を取得し、30,900,000株を消却
2026年3月期 第202期の有価証券報告書が手元になく、逐語で照合できていない
2027年3月期 決算期が未到来
2028年3月期
2029年3月期
2030年3月期
自己株式の取得額と自己資本比率
自己株式の取得額(百万円)親会社所有者帰属持分比率(%)

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第197期(2021年3月期)・第201期(2025年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / ヤマハ 有価証券報告書 第196〜201期【自己株式の取得等の状況】

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出典・参考

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