ヤマハ住宅設備事業のカーブアウトと音・音楽への集中

更新:

時期 2010年3月
意思決定者(推定) 梅村充 ヤマハ 社長
論点 住宅設備事業を連結内に保有し続けるか、事業領域を音・音楽へ絞り込むか
概要
ヤマハは2010年3月31日付で、システムキッチン・システムバス・洗面化粧台の製造販売を担う100%出資子会社ヤマハリビングテックの株式851,000株(議決権の85.1%)を、日本産業パートナーズが管理・運営する投資事業有限責任組合等へ譲渡した。売却価額は1,276百万円、売却後の持分比率は14.9%である。同社と100%子会社のヤマハリビングプロダクツ、ジョイエルホームの3社が同日付で連結の範囲から外れた。
背景
リビング事業は新設住宅着工数の大幅な減少と競争激化による低価格化を受け、売上高が2007年3月期の46,573百万円から2010年3月期の36,942百万円まで減少していた。音・音楽関連事業を中心に展開するグループの枠組みでは中長期の事業拡大に必要な経営の自由度を確保できないとして、資本関係を外部の投資ファンドへ移す判断に至っている。
内容
分離日が期末の2010年3月31日にあたるため、譲渡した3社の期末までの損益及びキャッシュ・フローは連結に含め、連結貸借対照表からは除外した。連結従業員19,275名のうちリビング事業の817名が連結の対象から外れ、翌2011年3月期には報告セグメントとしてのリビング事業を廃止している。残した持分14.9%は譲渡後も保有し、投資有価証券として計上した。
含意
譲渡の翌月から始まる中期経営計画「Yamaha Management Plan 125」では事業領域を再定義し、楽器・音楽・音響に関わる事業をコア事業と定めた。住宅設備の分離は、この事業領域の再定義を計画の公表より先に資本の側で確定させている。同じ年度にはマグネシウム成形部品事業からも撤退した。
筆者の見解

売却損を伴う譲渡が、事業領域を確定させた

この譲渡の目的は資金の回収ではなく、事業ポートフォリオの境界を確定させることにあったとみられる。受け取った対価は1,276百万円で、これに対し関係会社株式売却損2,159百万円を特別損失へ計上している。対価より移転損失のほうが大きく、譲渡そのものは連結の損益を押し下げた。譲渡の翌月に始まる中期経営計画「Yamaha Management Plan 125」は事業領域を再定義し、楽器・音楽・音響をコア事業と定めている。住宅設備は、その定義の外側に置かれた最初の事業だった。同じ年度にマグネシウム成形部品事業からも撤退しており、選択と集中は1事業の処分にとどまっていない。

もっとも、分離の設計には割り切れない部分が残る。譲渡したのは議決権の85.1%で、14.9%は譲渡後も保有し、投資有価証券として計上している。譲渡先が事業会社ではなく日本産業パートナーズの管理・運営する投資事業有限責任組合であった以上、この持分は事業上の結びつきを保つためのものではなく、譲渡先での再建の成否に対する持分としてしか説明できない。加えてリビング事業は譲渡直前の2010年3月期に営業利益365百万円を計上し、前期の営業損失305百万円から黒字化している。損益が改善した期に売却を決めており、値がつくうちに事業領域の線を引いたとみることができる。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

事業分離の条件

科目 概要 備考
分離した事業の内容 住宅設備機器の製造、販売 主要製品はシステムキッチン、システムバス、洗面化粧台
分離した子会社 ヤマハリビングテック株式会社 100%出資子会社。1991年10月設立。売却前の持分比率は100%
分離先 日本産業パートナーズが管理・運営する投資事業有限責任組合等
分離日 2010年3月31日 期末までの損益及びキャッシュ・フローは連結に含めている
譲渡した株式数 851,000株 議決権比率で85.1%にあたる
受取対価 1,276百万円
分離後の持分 14.9% 譲渡後も保有を続け、投資有価証券として計上している
移転損益 関係会社株式売却損2,159百万円 特別損失に計上
移転した資産・負債 記載がない 事業分離等関係の注記はなく、移転した資産・負債の額は開示されていない
連結の範囲への影響 3社が連結の範囲から除外 100%子会社のヤマハリビングプロダクツ、ジョイエルホームを含む
従業員への影響 817名が連結の対象から除外 譲渡直前の連結従業員数は19,275名
セグメントへの影響 2011年3月期にリビング事業セグメントを廃止 譲渡前の最終期の売上高は36,942百万円、営業利益は365百万円
売却理由 新設住宅着工数の減少で事業環境が悪化 音・音楽関連事業を中心とする枠組みから外し、経営の自由度を確保するため

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第186期(2010年3月期)【経営上の重要な契約等】

ヤマハ:リビング事業(住宅設備)の推移

(百万円) 売上高営業利益資産 備考
2005年3月期 42,844△2422,382
2006年3月期 45,2141,16921,291
2007年3月期 46,5731,15022,814
2008年3月期 45,52058821,585
2009年3月期 43,121△30518,207 新設住宅着工数の減少と低価格化で減収。営業損失に転じた
2010年3月期 36,942365 3月31日に株式85.1%を譲渡。期末の連結除外でセグメント資産の記載がない
2011年3月期 連結除外に伴いリビング事業セグメントを廃止。以降は区分そのものがない
2012年3月期
2013年3月期
2014年3月期
2015年3月期
リビング事業の売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第182期(2006年3月期)・第184期(2008年3月期)・第186期(2010年3月期)【事業の種類別セグメント情報】 / ヤマハ 有価証券報告書 第187期(2011年3月期)【生産、受注及び販売の状況】

ヤマハ:連結業績と総資産の推移

(百万円) 売上高経常利益総資産 備考
2005年3月期 534,07941,302505,577
2006年3月期 534,08435,244519,977
2007年3月期 550,36142,626559,031
2008年3月期 548,75432,584540,347
2009年3月期 459,28411,979408,974
2010年3月期 414,8114,910402,152 リビング事業子会社株式の譲渡損などにより49億21百万円の当期純損失
2011年3月期 373,86610,971390,852 リビング事業の譲渡とマグネシウム成形部品事業の撤退が減収要因
2012年3月期 356,6167,255366,610
2013年3月期 366,9418,580390,610
2014年3月期 410,30426,146438,932
2015年3月期 432,17731,231530,034
連結売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第182期(2006年3月期)・第186期(2010年3月期)・第191期(2015年3月期)【主要な経営指標等の推移】(連結・日本基準)

同じ問いに直面した会社

何を捨てて、何に絞るか2010年セイコーエプソン電子デバイス事業の縮小と、中小型液晶ディスプレイ事業資産の譲渡事業構造の絞り込みと電子デバイスの置きどころ
2012年デクセリアルズソニーによるケミカルプロダクツ事業の売却と、政投銀・ユニゾン主導の受け皿VGケミカルへの分離独立親会社の選択と集中と、素材子会社の分離独立
2008年日清製粉グループ本社医薬事業からの撤退——5本柱の一角を合弁相手へ託して畳む医薬事業の撤退と選択と集中
2008年日立化成日立ハウステック株式のニューホライズンキャピタルへの譲渡と住宅設備事業からの撤退非中核事業の切り離しと電子材料への集中
2008年ツムラ子会社ツムラライフサイエンスの売却による家庭用品事業からの撤退家庭用品事業からの撤退と医療用漢方への集中
出典・参考
  • ヤマハ アニュアルレポート「Annual Report 2010」
  • ヤマハ 有価証券報告書「第186期(2010年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • ヤマハ 有価証券報告書「第186期(2010年3月期)【事業の種類別セグメント情報】」
  • ヤマハ 有価証券報告書「第186期(2010年3月期)【対処すべき課題】」
  • ヤマハ 有価証券報告書「第187期(2011年3月期)【生産、受注及び販売の状況】」

免責事項およびポリシー