ヤマハ半導体製造事業の譲渡によるファブレス化と電子部品事業の縮退
- 概要
- 2014年10月にフェニテックセミコンダクターと基本合意し、2015年3月31日、全額出資子会社ヤマハ鹿児島セミコンダクタの半導体製造事業を同社へ譲渡する契約を締結した。譲渡の実行は2015年10月1日で、半導体事業はファブレス化へ移行している。1971年に開始した半導体の自社生産は、ここで終了した。
- 背景
- ヤマハ鹿児島セミコンダクタは1987年2月の設立以来、半導体事業の国内生産拠点として重要な役割を担い、2012年からは主力商品の一つである地磁気センサーの専用工場へ転換して、拡大するスマートフォン等の世界需要に対応してきた。しかし電子部品事業は市場の変化と競争にさらされ、2015年3月期の売上高は前期比28.6%減の134億35百万円、営業損益は14億46百万円の損失へ転じた。
- 内容
- 半導体事業をファブレス化して機動性のある事業体へ移行する方針を決め、生産設備と人材を活用して生産ラインの拡張を目指すフェニテックセミコンダクターへ製造事業を譲渡した。鹿児島で生産していたセンサー商品は、台湾を中心にすでに取引のある生産委託先との関係を強化し、ウェハ工程から組立、検査までを外部へ移管している。2015年3月期に本件事業譲渡に起因する構造改革費用15億94百万円を計上し、2016年3月期には帳簿価額5億45百万円の半導体製造設備を売却した。
- 含意
- 固定費の削減により電子部品事業は2016年3月期に営業利益1億7百万円を確保したが、売上高は130億68百万円まで縮小し、2017年3月期には規模の縮小を理由に報告セグメントから外れて「その他」へ含められた。ヤマハが掲げたのは半導体メーカーからソリューションベンダーへの形態転換で、車載・ホームヘルスケア・産業機器の領域に音の技術を持ち込み、部品・装置事業を第3の柱とする方針である。
製造設備を譲渡し、垂直統合を解いた
この判断は半導体事業からの撤退ではなく、半導体を自社の設備で製造しない形へ移した構造改革だったとみることができる。1971年に開始した生産は、電子楽器の音源LSIを自前で調達するための内製であり、1983年のカスタムLSI外販、1987年の鹿児島への製造子会社設立と、楽器の外側へ広がってきた。ところが2012年に地磁気センサーの専用工場へ転換した時点で、その設備が対応する需要はスマートフォンの世界市場になっている。楽器のための内製が、他社市場の需要変動へ業績を連動させる設備に変わっていた。手放したのは半導体事業そのものではなく、その変動を自社の固定費で受け止める垂直統合のほうである。
もっとも、固定費を切り離した先に残った事業は小さい。譲渡の翌期に営業損益は1億7百万円の黒字を確保したが、売上高は130億68百万円で連結の3%にとどまり、翌々期には報告セグメントから外れて「その他」へ吸収された。譲渡価額と譲渡損益は有価証券報告書に記載がなく、この譲渡が資本の面で何をもたらしたかは開示されていない。ヤマハが掲げたのは半導体メーカーからソリューションベンダーへの形態転換であり、車載・ホームヘルスケア・産業機器へ音の技術を持ち込む道筋である。ファブレス化は製造設備の固定費と稼働率の負担を外した一方、部品・装置事業を第3の柱へ押し上げる売上規模はまだ生んでいない。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
構造改革の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 対象となった事業 | ヤマハ鹿児島セミコンダクタの半導体製造事業 | 1987年2月設立の全額出資子会社。2012年に地磁気センサーの専用工場へ転換した |
| 譲渡先 | フェニテックセミコンダクター | 生産設備と人材を活用し生産ラインの拡張を目指す半導体製造会社 |
| 基本合意 | 2014年10月 | 譲渡に関する基本合意を締結 |
| 譲渡契約の締結 | 2015年3月31日 | |
| 譲渡の実行 | 2015年10月1日 | 2016年3月期に実行し、同社を連結の範囲から除外した |
| 自社生産をやめた工程 | ウェハ工程から組立、検査まで | センサー商品は台湾を中心とする既存の生産委託先へ移した |
| 譲渡価額 | 記載がない | 有価証券報告書に譲渡価額・譲渡損益の記載はない |
| 構造改革費用 | 1,594百万円 | 2015年3月期に計上。損失等を含む特別損失の構造改革費用は1,786百万円 |
| 売却した設備 | 半導体の製造設備 | 帳簿価額545百万円。2016年3月期に売却した |
| 人員規模 | 127名 | 2015年3月31日現在のヤマハ鹿児島セミコンダクタ本社工場の従業員数 |
| 減損損失 | 記載がない | 2015年3月期の減損損失861百万円は寮・社宅の一部廃止に係るもの |
| セグメントの帰結 | 2017年3月期に報告セグメントから除外 | 「電子部品」事業の規模が縮小したため「その他」に含めた |
出所:ヤマハ 有価証券報告書 第191期(2015年3月期)【追加情報】【設備の状況】・第192期(2016年3月期)【設備の状況】
ヤマハ:電子部品事業の推移(報告セグメント)
| (百万円) | 売上高 | セグメント利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2010年3月期 | 19,745 | △606 | |
| 2011年3月期 | 20,610 | 510 | |
| 2012年3月期 | 16,233 | △2,913 | |
| 2013年3月期 | 15,038 | △2,044 | |
| 2014年3月期 | 18,828 | 770 | 地磁気センサーとアミューズメント機器向けが増加し、営業損益が黒字化 |
| 2015年3月期 | 13,435 | △1,446 | 譲渡契約を締結。前期比28.6%の減収で営業損益が損失へ転じた |
| 2016年3月期 | 13,068 | 107 | 譲渡を実行。構造改革による固定費の削減効果等で1,553改善し黒字化 |
| 2017年3月期 | − | − | 報告セグメントから除外され「その他」に含まれたため、単独の開示がない |
| 2018年3月期 | − | − | 「その他」に含まれ、単独の開示がない |
| 2019年3月期 | − | − | 「その他」に含まれ、単独の開示がない |
| 2020年3月期 | − | − | 「その他」に含まれ、単独の開示がない。当期からIFRS(移行日2018年4月1日) |
出所:ヤマハ 有価証券報告書 第186〜192期(2010年3月期〜2016年3月期)【業績等の概要】 / ヤマハ 有価証券報告書 第193期(2017年3月期)【セグメント情報】
ヤマハ:連結従業員数の推移
| (名) | 従業員数 | 平均臨時雇用者数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2010年3月期 | 19,275 | 6,383 | |
| 2011年3月期 | 19,462 | 7,354 | |
| 2012年3月期 | 19,694 | 8,497 | |
| 2013年3月期 | 19,688 | 8,198 | |
| 2014年3月期 | 19,851 | 7,863 | |
| 2015年3月期 | 19,967 | 7,860 | 譲渡対象のヤマハ鹿児島セミコンダクタ本社工場の従業員数は127名 |
| 2016年3月期 | 20,348 | 7,990 | 譲渡の実行後も連結従業員数は増えている |
| 2017年3月期 | 20,175 | 7,938 | |
| 2018年3月期 | 20,228 | 7,558 | |
| 2019年3月期 | 20,375 | 7,733 | |
| 2020年3月期 | 20,203 | 8,064 | 当期からIFRS(移行日2018年4月1日)。従業員数の集計に基準の断層はない |
出所:ヤマハ 有価証券報告書 第190期・第195期・第196期【主要な経営指標等の推移】
同じ問いに直面した会社
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- ヤマハ 有価証券報告書「第192期(2016年3月期)【設備の状況】【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】」
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- ヤマハ 有価証券報告書「第197期(2020年3月期)【沿革】【事業の内容】」