ヤマハCordoba Music Group の全持分取得と米国ギター事業のブランド集約
- 概要
- 2023年2月7日、ヤマハは連結子会社のYamaha Guitar Group, Inc.(YGG)を通じて、米国のギターメーカーCordoba Music Group, LLCの資本持分100%を取得し、同社とその子会社3社を連結子会社とした。支払対価は5,122百万円で、現金を対価とする持分取得である。Cordoba社は「Cordoba」ブランドのナイロン弦ギターやウクレレ、「Guild」ブランドのアコースティックギター・エレクトリックギターを企画開発・製造販売し、米国では弦の輸入代理店も担う。本社はカリフォルニア州サンタモニカ、流通および製造施設はオックスナードにある。
- 背景
- 2022年4月に始まる3か年の中期経営計画「Make Waves 2.0」は、楽器事業のうち高い成長を見込むギター事業を将来の収益源と定め、投資による規模の拡大を掲げた。米国のギター事業は2014年のLine 6社の子会社化に始まる。2018年に同社をYGGへ社名変更してヤマハブランドギターを含む複数ブランドを擁する米国拠点とし、同年にはベースアンプで世界的に知名度の高いAmpegブランドの事業を譲り受けた。Cordoba社の資本持分の取得は、この拠点へブランドを集約する投資の続きにあたる。
- 内容
- 取得の目的には、商品ラインアップの補完・拡充、Cordoba社の知見を用いた製品企画・開発、ブランド発信力の向上を挙げた。取得日時点では識別可能資産および負債の評価が完了しておらず、支払対価5,164百万円・のれん4,395百万円を暫定的に算定していた。翌期第2四半期に取得原価の配分が確定し、支払対価は5,122百万円、無形資産は3,390百万円(顧客関連資産2,874・商標権278・技術関連資産238)、のれんは852百万円へ修正され、前連結会計年度末の連結財政状態計算書が遡及修正された。取得関連費用は総額515百万円で、うち502百万円を2023年3月期に計上している。
- 含意
- 買収後のギター事業は当初計画を下回って推移した。新商品の投入が遅れて開発費を回収できないこと、買収後に巣籠り需要の反動で販売が拡大しなかったことが事業利益を圧迫した。YGGののれんは為替換算差額により2024年3月末に1,194百万円へ増えたが、2025年3月期に事業環境の変化を踏まえて事業計画を見直した結果、回収可能価額が帳簿価額を下回り、全額1,204百万円を減損損失に計上して残高はなくなった。YGGは売上高に上限を置いても利益を確保できるよう、費用構造の改革を進めている。
取得できたのは商品ラインアップ、回収できなかったのはのれん
この判断の実質は、ギターという商品分野を自社ブランドの育成だけでは埋めきれないと見切り、完成したブランドを取得して米国拠点へ集約する道を選んだところにある。Line 6、Ampegに続く取得で、Yamaha Guitar Groupはナイロン弦のCordobaとアコースティックのGuildを傘下に加え、価格帯とジャンルの空白を取得原価で埋めた。支払対価51億円は同じ期の連結売上収益4,514億円の1%強にすぎず、ギター事業を注力領域に掲げた文言に比べれば投じた額は小さい。ブランドを取得して単一の米国拠点の下に置く事業ポートフォリオの組み方は、2014年から変えていない。
もっとも、支払対価の小ささは、損失の小ささにつながらなかった。取得原価の配分が確定すると、超過収益力として暫定計上した43億円のうち33億円は顧客関連資産と商標権という識別可能な無形資産へ振り替えられ、のれんは8億円まで縮んだ。それでも2年後には、その残高すら回収可能価額が下回っている。2025年3月期の減損損失1,204百万円は、取得から2年での全額取崩しにあたる。取得できたのは商品ラインアップと販路までで、新商品を出し続ける開発の速度は移らなかったとみられる。規模の拡大を掲げて始めた投資は、売上高に上限を置いても利益を確保できる費用構造への転換で決着した。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
買収の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 被取得企業 | Cordoba Music Group, LLC | ギター及び関連商材の企画開発・製造販売、弦輸入代理店(米国のみ) |
| 支配の獲得方法 | 現金を対価とする持分取得 | 取得主体は連結子会社のYamaha Guitar Group, Inc. |
| 取得日 | 2023年2月7日 | |
| 取得した資本持分の割合 | 100% | 同社および子会社3社が連結子会社となった |
| 支払対価の公正価値 | 5,122百万円 | 取得日時点では暫定5,164百万円。現預金・債務の残高と運転資本の調整で確定 |
| 取得資産・引受負債の公正価値 | 純額4,269百万円 | 取得日時点では暫定768百万円。無形資産3,390百万円の認識で増加した |
| 無形資産 | 3,390百万円 | 内訳は顧客関連資産2,874・商標権278・技術関連資産238 |
| のれん | 852百万円 | 取得日時点では暫定4,395百万円。確定で3,572百万円減り前期末を遡及修正 |
| のれんの主な内容 | シナジー効果と超過収益力 | 個別に認識要件を満たさないもの。税務上損金算入可能と見込む |
| 取得関連費用 | 515百万円 | 販売費及び一般管理費に計上。うち502百万円は2023年3月期の計上分 |
| 業績に与える影響 | 開示なし | 連結財務諸表に与える影響額に重要性がないため開示していない |
出所:ヤマハ 有価証券報告書 第199期(2023年3月期)・第200期(2024年3月期)注記「企業結合」
ヤマハ:のれんの推移
| (百万円) | のれん | 備考 |
|---|---|---|
| 2018年3月期 | − | 日本基準。IFRSの移行日は2018年4月1日で、この期末ののれんの開示はない |
| 2019年3月期 | 161 | Line 6社の子会社化などによる残高 |
| 2020年3月期 | 158 | |
| 2021年3月期 | 160 | |
| 2022年3月期 | 177 | 買収前の最終期 |
| 2023年3月期 | 1,053 | Cordoba社を取得。期末は暫定4,626で、翌期の確定により1,053へ遡及修正 |
| 2024年3月期 | 1,194 | 為替換算差額141による増加。減損テストでは回収可能価額が帳簿価額を上回った |
| 2025年3月期 | 0 | 減損損失1,204を認識し、のれんの残高はなくなった |
| 2026年3月期 | − | 有価証券報告書が手元になく、逐語で照合できていない |
| 2027年3月期 | − | 決算期が未到来 |
| 2028年3月期 | − | 決算期が未到来 |
出所:ヤマハ 有価証券報告書 第197期(2021年3月期)注記「のれん及び無形資産」 / ヤマハ 有価証券報告書 第199期(2023年3月期)注記「のれん及び無形資産」 / ヤマハ 有価証券報告書 第201期(2025年3月期)注記「のれん及び無形資産」
ヤマハ:楽器事業の業績(報告セグメント)
| (百万円) | 売上収益 | 事業利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2018年3月期 | − | − | 日本基準。IFRSによる楽器事業の売上収益・事業利益の開示はない |
| 2019年3月期 | 279,471 | 40,815 | IFRSを適用した第196期の比較情報。当期としての開示はない |
| 2020年3月期 | 269,371 | 37,750 | |
| 2021年3月期 | 238,981 | 32,417 | |
| 2022年3月期 | 276,153 | 37,317 | 翌期の有価証券報告書の前期欄では事業利益が37,332に組み替えられている |
| 2023年3月期 | 302,653 | 36,200 | 2月にCordoba社を取得。取得日以降の損益は重要性がなく開示されていない |
| 2024年3月期 | 305,195 | 25,317 | |
| 2025年3月期 | 296,100 | 22,068 | 米国ギター事業ののれん1,204を減損。楽器事業の減損損失に含まれる |
| 2026年3月期 | − | − | 有価証券報告書が手元になく、逐語で照合できていない |
| 2027年3月期 | − | − | 決算期が未到来 |
| 2028年3月期 | − | − | 決算期が未到来 |
出所:ヤマハ 有価証券報告書 第196〜201期 注記「セグメント情報」
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