ヤマハ国内製造子会社の吸収合併と生産機能の国内集約

時期 2024年4月
意思決定者(推定) 中田卓也山浦敦 ヤマハ 代表執行役社長(生産戦略の転換を決めた2024年3月期)・ヤマハ 代表執行役社長(企業結合日の2024年4月1日以降)
論点 海外工場での生産を続けるか、生産機能を国内へ集約して本体に内製化するか
概要
2024年4月1日、ヤマハは日本国内における楽器・音響機器の製造を担う株式会社ヤマハミュージックマニュファクチュアリングを吸収合併した。ヤマハを存続会社、同社を消滅会社とする吸収合併で、結合後企業の名称はヤマハ株式会社。共通支配下の取引として処理し、抱合せ株式消滅差益4,840百万円を特別利益に計上した。2014年に国内の生産事業を会社分割で分社してから10年での本体復帰にあたる。
背景
従来の生産戦略では、コスト・効率面で有利な海外工場へ工程を移管してきた。その一方で技術・技能が分散し、継承できないリスクが生じ、市場変化への迅速な対応にも課題が残った。近年は海外労務費の上昇と円安の継続に加えて地政学リスクも顕在化し、海外生産の優位性は低下していた。
内容
中期経営計画「Make Waves 2.0」は方針の一つに「事業基盤をより強くする」を掲げ、柔軟さと強靭さを備えた製造のレジリエンスを課題に据えた。その検討の結果、従来の生産戦略から一部転換し、日本でのものづくりの基盤を再構築する方針を定めた。国内製造機能を担うヤマハミュージックマニュファクチュアリングを本体へ取り込んで本社の生産戦略機能と連携させ、生産の「マザー機能」を国内へ集約して、海外拠点のものづくりを牽引する生産体制を構築する。
含意
転換には費用が伴った。2024年3月期は今後の使用可能性が乏しいと判断した設備の減損損失3,168百万円と、関連する廃却費用・割増退職金等1,161百万円を合わせ、構造改革費用4,329百万円を計上した。2025年3月期は中国・インドネシアのピアノ生産設備に減損損失10,391百万円、割増退職金3,483百万円などで構造改革費用14,263百万円に達し、ヤマハ・インドネシアとヤマハ・ミュージカル・プロダクツ・アジアの生産終了を決定した。提出会社の従業員数は2,341名から3,423名へ増加した。
筆者の見解

原価の優位が消え、生産機能の所在を選び直した

この合併の実質は、組織の統合ではなく生産機能の所在の選び直しにある。2014年に国内の楽器・音響機器の生産事業を子会社3社へ会社分割したとき掲げたのは、共通機能と生産負荷の相互補完による合理化と、コスト構造改革を通じた製造原価の低減だった。以後10年、工程は労務費の低い海外へ移管された。その流れを止め、分社した製造機能を共通支配下の取引として本体へ吸収合併したのが今回の判断である。理由に挙げたのは技術・技能の分散と継承できないリスク、そして海外労務費の上昇と円安による海外生産の優位性の低下。原価の優位が消えたことが、垂直統合を国内で組み直す判断を呼んだ。

もっとも、戻す判断にも費用が伴った。2024年3月期と2025年3月期の構造改革費用は合計186億円に達し、中国・インドネシアのピアノ生産設備は減損され、ヤマハ・インドネシアとヤマハ・ミュージカル・プロダクツ・アジアは生産終了が決まった。国内への集約は、海外拠点の閉鎖と一体でしか進まない。提出会社の従業員数は2,341名から3,423名へ増え、連結では695名減った。人員と設備が国内へ寄る動きは数字に出ている。ただし楽器事業の事業利益は2023年3月期の36,200百万円から2025年3月期の22,068百万円へ減っており、国内へ集めた固定費が製造原価の低減に変わるかは、まだ損益に現れていない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

合併の条件

科目 概要 備考
被結合企業 株式会社ヤマハミュージックマニュファクチュアリング 2017年度にヤマハピアノ製造とヤマハミュージカルプロダクツが統合して発足した製造子会社
事業の内容 日本国内における楽器、音響機器の製造
企業結合日 2024年4月1日
企業結合の法的形式 ヤマハを存続会社とする吸収合併 消滅会社は株式会社ヤマハミュージックマニュファクチュアリング
結合後企業の名称 ヤマハ株式会社
合併の目的 日本でのものづくりの基盤を再構築・強化 海外労務費の上昇・円安の継続・地政学リスクで海外生産のメリットが低下したため
会計処理 共通支配下の取引 企業結合会計基準と同適用指針に基づく。取得原価の配分やのれんは生じない
抱合せ株式消滅差益 4,840百万円 2025年3月期に個別財務諸表の特別利益へ計上

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第200期(2024年3月期)【重要な後発事象】・第201期(2025年3月期)【企業結合等関係】

ヤマハ:楽器事業の業績(報告セグメント)

(百万円) 売上収益事業利益減損損失 備考
2019年3月期 279,47140,815△264 国内の楽器・音響機器の生産は分社された製造子会社が担う
2020年3月期 269,37137,750△3,330
2021年3月期 238,98132,417△3,553
2022年3月期 276,15337,317 セグメント情報に減損損失の記載なし
2023年3月期 302,65336,200 セグメント情報に減損損失の記載なし
2024年3月期 305,19525,317△3,204 生産戦略の見直しに伴う減損3,168を含む。構造改革費用は計4,329
2025年3月期 296,10022,068△12,766 中国・インドネシアのピアノ生産設備の減損10,391を含む。構造改革費用は計14,263
2026年3月期 第202期。有価証券報告書の逐語で照合できていない
2027年3月期 第203期以降は未到来
2028年3月期
2029年3月期
楽器事業の売上収益と事業利益率
売上収益(百万円)事業利益率(%)

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第195〜201期(セグメント情報) / ヤマハ 有価証券報告書 第201期(2025年3月期)注記「その他の収益・費用」「非金融資産の減損」

ヤマハ:従業員数の推移

(名) 提出会社連結楽器事業 備考
2019年3月期 2,34420,37514,808
2020年3月期 2,33120,20314,746
2021年3月期 2,38920,02114,481
2022年3月期 2,38719,89514,680
2023年3月期 2,38520,02714,689
2024年3月期 2,34119,64414,552 合併の前日時点。国内の製造要員は製造子会社に属する
2025年3月期 3,42318,94913,622 合併で提出会社が1,082名増。連結は海外拠点の人員削減で695名減
2026年3月期 第202期。有価証券報告書の逐語で照合できていない
2027年3月期 第203期以降は未到来
2028年3月期
2029年3月期
提出会社と連結の従業員数
提出会社(名)提出会社以外の連結従業員(名)

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第195〜201期【従業員の状況】

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出典・参考

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