ヤマハ減損会計の適用とレクリェーション事業からの撤退

時期 2006年3月
意思決定者(推定) 伊藤修二 ヤマハ 社長
論点 不採算のリゾート資産を保有し続けるか、事業ポートフォリオから外すか
概要
2006年3月期から「固定資産の減損に係る会計基準」を適用し、減損損失32,703百万円を一括計上した。うち31,988百万円はレクリェーション事業資産で、「キロロ」「つま恋」「鳥羽国際ホテル」「合歓の郷」の4施設が対象である。帳簿価額の切り下げを経て、翌2007年3月期には6施設のうち4施設の譲渡を決議し、2009年3月期には事業の種類別セグメントの区分そのものを廃止した。
背景
レクリェーション事業は1962年5月に開始し、観光施設・宿泊施設・スキー場及びスポーツ施設の経営を担ってきた。2005年3月期の売上高は18,290百万円、営業損失は2,253百万円で、営業活動から生ずる損益は継続してマイナスだった。レジャーに対する嗜好の多様化で施設の経済的陳腐化が進み、2005年3月期には減価償却の方法を定額法から定率法へ変更している。
内容
2007年3月23日に三井不動産株式会社と基本合意書を締結し、キロロ・鳥羽国際ホテル・合歓の郷・はいむるぶしの4施設について、事業用資産と各運営子会社の全株式を譲渡することを決議した。譲渡予定価額が帳簿価額を下回るため、2007年3月期に減損損失4,728百万円を追加計上している。譲渡は2007年10月1日に実行され、各運営子会社は下期より連結の範囲から外れた。手元に残したのは「つま恋」と「葛城」の2施設である。
含意
4施設の譲渡で事業の重要性が低下したため、2009年3月期から「その他」の事業に含める区分変更を行い、レクリェーションは報告セグメントから外れた。同じ期に「葛城」で減損損失3,918百万円を計上し、2017年3月には「つま恋」の不動産と商標をホテルマネージメントインターナショナルへ譲渡して運営を終了した。株式会社ヤマハリゾートによる宿泊施設・スポーツ施設の経営は、その後も「その他」に含まれる事業として継続している。
筆者の見解

帳簿価額を切り下げてから、譲渡の条件が整った

この判断を先に動かしたのは経営の意思決定ではなく、会計基準の適用である。レクリェーション事業は2005年3月期に営業損失2,253百万円を計上し、営業活動から生ずる損益は継続してマイナスだった。それでも6施設は取得原価に基づく帳簿価額のまま資産に載り続けていた。2006年3月期の減損会計の適用がその前提を崩し、将来キャッシュ・フローを9.4%で割り引いた使用価値まで、32,703百万円の切り下げを一度に迫った。うち31,988百万円がリゾート4施設である。切り下げの翌期に三井不動産との基本合意が成立し、なお残る差額は減損損失4,728百万円の追加計上で埋めている。簿価を回収可能価額まで引き下げる処理が先にあり、それが譲渡の条件を成立させた。

もっとも、事業ポートフォリオからの除外は一度では終わっていない。4施設を譲渡したのちも「つま恋」と「葛城」は残り、報告セグメントの区分だけが2009年3月期に先行して廃止された。同じ期に「葛城」へ減損損失3,918百万円を計上し、「つま恋」の運営終了は2017年3月26日、固定資産売却益2,182百万円と構造改革費用2,652百万円の計上をもって決着している。会計基準が動かせたのは資産の評価までで、残った施設の処分には、そこから10年を要した。株式会社ヤマハリゾートは現在も存続し、宿泊施設とスポーツ施設の経営は「その他」に含まれる事業として残っている。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

撤退の条件

科目 概要 備考
対象となった事業 レクリェーション事業 観光施設・宿泊施設・スキー場及びスポーツ施設の経営。全6施設
減損会計の適用 2006年3月期 「固定資産の減損に係る会計基準」を当連結会計年度から適用
一括計上した減損損失 32,703百万円 うちレクリェーション事業資産31,988百万円。提出会社単体では32,549百万円
減損したリゾート資産の種類 建物及び構築物22,321・土地9,666百万円 「キロロ」「つま恋」「鳥羽国際ホテル」「合歓の郷」の4施設。計31,988百万円
回収可能価額の算定 使用価値 将来キャッシュ・フローを9.4%で割り引いて算定
譲渡の基本合意 2007年3月23日 三井不動産株式会社と基本合意書を締結
譲渡した施設 キロロ、鳥羽国際ホテル、合歓の郷、はいむるぶし 6施設のうち4施設。「つま恋」「葛城」は譲渡の対象から外した
譲渡の対象 事業用資産及び各運営子会社の全株式 譲渡先は三井不動産リゾート株式会社
譲渡日 2007年10月1日 各運営子会社は下期より連結の範囲から外れた
譲渡価額 記載がない 回収可能価額を三井不動産への譲渡予定価格で算定したとだけ記す
譲渡決定に伴う減損損失 4,728百万円 2007年3月期に計上。建物及び構築物4,316・土地412百万円
事業区分の廃止 2009年3月期 重要性が低下したため「その他」の事業に含める変更
「葛城」の減損損失 3,918百万円 2009年3月期。建物及び構築物1,132・土地2,785百万円
「つま恋」の譲渡契約 2017年2月28日 ホテルマネージメントインターナショナルへ不動産と商標を譲渡
「つま恋」の運営終了 2017年3月26日 翌27日に資産を譲渡。建物は帳簿価額4,604百万円が減少
再編に伴う損益 固定資産売却益2,182百万円 構造改革費用2,652百万円(内、減損2,004百万円)。税前影響は470百万円の損失

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第182期(2006年3月期)・第183期(2007年3月期)・第184期(2008年3月期)・第185期(2009年3月期)・第193期(2017年3月期)【減損損失】【事業の内容】【セグメント情報】【追加情報】

ヤマハ:レクリェーション事業の推移

(百万円) 売上高営業損益資産 備考
2001年3月期 第181期以前の有報が手元になく、逐語で照合できていない
2002年3月期
2003年3月期
2004年3月期
2005年3月期 18,290△2,25319,805 減損会計の適用前。減価償却の方法を定額法から定率法へ変更した期
2006年3月期 18,013△1,78918,344 減損会計を適用し、リゾート4施設に減損損失31,988を計上
2007年3月期 17,800△1,53613,454 4施設の譲渡決定に伴い減損損失4,728を計上。セグメント資産は3割減少
2008年3月期 11,353△1,1038,062 4施設を下期に譲渡。売上高は6,447減。減損損失の計上はない
2009年3月期 6,104△3104,231 「その他」の事業に含めた金額。「葛城」に減損損失3,918を計上
2010年3月期 「その他」に含まれ、レクリェーション事業の内訳は開示されていない
2011年3月期 同上
レクリェーション事業の売上高と営業損益率
売上高(百万円)営業損益率(%)

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第182期(2006年3月期)〜第185期(2009年3月期)【事業の種類別セグメント情報】

ヤマハ:全社の業績と財政状態

(百万円) 売上高純資産額総資産額 備考
2001年3月期 第182期の有報が載せるのは第178期(2002年3月期)からの5期分
2002年3月期 504,406201,965509,663
2003年3月期 524,763214,471512,716
2004年3月期 539,506259,731508,731
2005年3月期 534,079275,200505,577
2006年3月期 534,084316,005519,977 減損損失32,703の計上で税金等調整前当期純利益が31,464減少
2007年3月期 550,361351,398559,031
2008年3月期 548,754343,028540,347
2009年3月期 459,284251,841408,974 半導体・のれん等を含む減損損失15,323を計上し、当期純損失20,615
2010年3月期 414,811254,591402,152
2011年3月期 373,866245,002390,852
総資産と自己資本比率
総資産額(百万円)純資産比率(%)

出所:ヤマハ 有価証券報告書 第182期(2006年3月期)・第187期(2011年3月期)【主要な経営指標等の推移】

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出典・参考
  • ヤマハ 有価証券報告書「第182期(2006年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項の変更】【減損損失】」
  • ヤマハ 有価証券報告書「第183期(2007年3月期)【事業等の概要】【減損損失】」
  • ヤマハ 有価証券報告書「第184期(2008年3月期)【事業の内容】【対処すべき課題】【事業の種類別セグメント情報】」
  • ヤマハ 有価証券報告書「第185期(2009年3月期)【減損損失】【事業の種類別セグメント情報】追加情報」
  • ヤマハ 有価証券報告書「第187期(2011年3月期)【事業の内容】・第188期(2012年3月期)【連結の範囲に関する事項】」
  • ヤマハ 有価証券報告書「第193期(2017年3月期)【追加情報】【設備投資等の概要】【構造改革費用】」

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