米国事業の大規模リストラと成長戦略の国内回帰

10年をかけた米国事業で赤字を垂れ流してきた山田進太郎CEOは、なぜ人員を半減させ「バック・トゥ・スタートアップ」を掲げたのか

更新:

時期 2024年6月
意思決定者 山田進太郎 メルカリ 代表取締役CEO
論点 米国事業の停滞と市場との信頼回復
概要
2024年6月、メルカリは赤字が続く米国事業で大規模なリストラに踏み切り、現地の人員を半数程度に縮減した。同年8月の2024年6月期決算では2027年6月期までの中期方針を示し、越境取引や金融、スキマバイト「メルカリ ハロ」を軸に成長戦略を国内へ回帰させた経営判断。
背景
2014年に進出した米国事業は、四半期の流通取引総額が2021年をピークに減少へ転じ、17年6月期以降の累積の調整後営業赤字は5億ドル近くに膨らんでいた。国内では積極投資を続ける一方、米国の赤字が続くさまに投資家から「利益創出に関心がない」と嫌気され、市場との信頼関係にもひびが入り始めていた。
内容
6月初頭により大規模なリストラで人員を半数程度に縮減し、経営陣も報酬カットで責任を取った。撤退はせず「必要な組織再編を行って仕切り直す」構えとした。8月13日の決算と同時に、期初時点の当期業績予想を初めて開示し、増益を伴うトップライン成長への転換を打ち出した。
含意
未開拓市場で先行者利得を狙う攻めの経営から、収益の見込める国内へ資源を集める規律ある経営への転換であった。山田進太郎CEOは2000人規模の組織を大胆に動かせなかったことを自らの能力不足と振り返り、社内に「バック・トゥ・スタートアップ」を掲げた。
筆者の見解

筆者見解

この判断は、日本で通用したモデルを海外へ持ち込む攻めの成長から、収益の輪郭が見える国内へ資源を引き戻す規律への転換であったとみることができる。手数料無料化やリブランディングを重ねても米国の流通取引総額は下げ止まらず、10年の投資は黒字化に届かなかった。人員半減という重い手段に踏み込んだうえで、なお撤退はせず継続を選んだあたりに、創業者が自ら育てた事業への未練と、市場への説明責任のはざまで揺れる姿がうかがえる。

もっとも、国内回帰と初の業績予想開示は、成長株から収益株への性格の切り替えとも読める。山田進太郎CEO自身が能力不足とボトムアップの行き過ぎを認め、「バック・トゥ・スタートアップ」を掲げた点は率直であった。ただ、米国事業に定量目標を示せないまま継続する構図が残り、物言う株主も現れた。仕切り直しが再成長につながるのか、規律と野心をどう両立させるのかは、なお見届ける段階にあるといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

10年越しの米国事業と累積5億ドルの赤字

米国事業は創業翌年の2014年に始まった。日本で急成長したスマホ完結のCtoC体験をそのまま持ち込む戦略で、2017年にはグーグルやフェイスブックで要職を務めたジョン・ラーゲリン氏を現地子会社のトップに招き、赤字をいとわず成長に腐心してきた。四半期の流通取引総額は2021年をピークに減少へ転じ、2024年6月期には208百万ドルまで縮んだ。10四半期連続で前年同期を割り込み、2017年6月期以降の累積の調整後営業赤字は5億ドル近くに膨らんでいた[1][2]

市場との信頼にひびが入る

現地の厳しい競争に加え、昨今のインフレで消費者の嗜好品への購買意欲が低迷し、SHEINなど中華系格安ECの台頭もボディーブローのように効いた。成長が見通せない米国で赤字を垂れ流す一方、国内では積極投資をいとわない。そうした経営スタンスに、一部投資家からは「メルカリは利益創出自体に関心がない」と嫌気された。2021年に上場来高値をつけた株価はコロナ禍の巣ごもり特需のピークアウトとともに低迷し、2024年に入ると過去最安値近くまで落ち込む場面もあった。大型IPOの象徴と見上げられてきた平成ベンチャーの雄は、市場との信頼関係にひびが入り始めていた[3]

決断

6月の大規模リストラと「バック・トゥ・スタートアップ」

2024年6月初頭、メルカリは米国事業で大規模なリストラに踏み切り、人員を半数程度に縮減した。今春には出品手数料を無料化し購入者が手数料を負担するモデルへ切り替えるなど、あらゆる手を尽くしてきたが、再成長には届かなかった。山田進太郎CEOは今期での黒字化を必達事項ととらえ、必要な組織再編を行って仕切り直すと決めた。経営陣も報酬カットで責任を取り、規模の小さくなった組織のモチベーションを保つ役目を負った[4][5]

撤退ではなく仕切り直しという判断

停滞の深さを踏まえれば、取締役会で撤退が論じられてもおかしくなかった。だが山田進太郎CEOは、米国の中古市場の大きさとアップサイドは間違いないとみて、事業の継続を選んだ。今の投資レベルで続けるのは会社の判断として意味をなさないが、仕切り直してもう一度どういう選択肢があるかを考えようという総意に至ったという。撤退しない理由を問われた際には、経済合理性もなくやっているわけではないと強調した[6]

山田進太郎CEOは、2000人規模となった会社を大胆に動かせなかったことを自らの経営者としての能力不足と振り返った。外国人社員も多く多様な意見を尽くして議論するうちに、皆が納得する総花的で丸いプランに落ち着いてしまう。ボトムアップが強くなりすぎたことを反省点に挙げ、ある程度議論したら「えい」と決めていくことが重要だと語った。今期の社内スローガンには「バック・トゥ・スタートアップ」を掲げた[7]

結果

国内回帰と初の通期業績予想

2024年8月13日、メルカリは2024年6月期決算を発表した。売上収益は1874億円、純利益は144億円で、上場来初の2期連続黒字を達成した。同時に示した2027年6月期までの中期方針では、国内フリマアプリを安定成長させつつ、越境取引やBtoC、メルカリ ハロで高成長を見込み、金融事業のコア営業利益100億円以上を掲げた。あわせて期初時点の当期業績予想を初めて開示し、増益を伴うトップライン成長を目指すことを明確にした。予想が難しかった高成長期を過ぎ、収益を上げつつ成長する道筋を示せるようになったとの判断であった[8][9]

米国の赤字圧縮と物言う株主の登場

米国事業のスリム化は数字に表れた。流通取引総額の停滞を受けて広告宣伝費を抑え、前期からのリストラも奏功して赤字は大幅に圧縮された。一方、米国事業は国内フリマとの連携を掲げつつも、定量的な成長目標を示せなかった。決算後の8月20日には、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントがメルカリ株を4%弱保有していることが判明し、9月25日の株主総会に向けた株主提案への思惑から株価は上昇に転じた[10][11]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2024年9月7日号「米国事業でリストラ メルカリの反省」
  • 週刊東洋経済 2024年9月7日号「INTERVIEW メルカリCEO 山田進太郎『米国はまだやりようがある 経営者として能力不足だった』」
  • メルカリ 有価証券報告書(2024年6月期・連結)

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