メルペイ設立とスマホ決済参入による「メルカリ経済圏」の構築
2017年実施フリマの売上金を実店舗へ——フリマに次ぐ第二の柱として金融・決済に踏み出した判断
- 概要
- 2017年11月、メルカリは金融・決済を担う専門子会社・株式会社メルペイを設立し、フリマで得た売上金を実店舗やネットの決済でも使えるようにする「メルカリ経済圏」の構築に踏み出した。2019年2月のスマホ決済開始を皮切りに、フリマに次ぐ第二の柱として金融・決済へ本格参入した経営判断である。
- 背景
- スマホ特化のフリマアプリで国内の個人間取引を定着させた一方、手数料収入は取引総額に連動し、市場の成熟と競争激化のなかでフリマ単体の成長を描きにくくなっていた。アプリ内に積み上がる売上金と利用データを、決済・与信という新たな収益に変える余地があった。
- 内容
- 2017年11月にメルペイを100%子会社として設立し、元グリーの青柳直樹氏が代表に就任。2019年2月にiD対応のスマホ決済を開始し、2020年のOrigami買収・NTTドコモ提携で決済網と顧客基盤を広げ、2022年11月には独自与信のクレジットカード「メルカード」で後払い・与信へ踏み込んだ。
- 含意
- 立ち上げ期の先行投資でグループの営業赤字は拡大したが、その後Fintech事業は黒字化した。一方で後払いの拡大は未収入金と貸倒れのリスクを高め、フリマとは異なる資本と規律を要する事業として、決済という第二の柱の難しさも浮かび上がらせた。
フリマの「その先」を、決済という別の原理で
この判断の核心は、フリマで積み上がる「売上金」という滞留資産を、アプリの外でも使える貨幣に変え、取引のたびに生まれる決済と信用そのものを新たな収益源に据えようとした点にある。楽天やPayPayが進めた、自社サービスで消費を囲い込む「経済圏」とは力点がやや異なり、メルカリのフリマ利用データを与信に転換する「信用」を軸に置いた構想であった。フリマに次ぐ第二の柱を、既存事業の延長ではなく金融・決済という別の事業原理の上に築こうとしたところに、この決断の性格がうかがえる。
もっとも、決済と与信は、フリマの高収益とは異なる資本集約と規律を求める事業でもある。立ち上げ期の巨額の先行投資はグループの赤字を深め、後払いの拡大は未収入金と貸倒れのリスクを恒常的な経営課題に変えた。それでも、メルペイとメルカードによって、フリマの単発の取引が決済・与信を通じて継続的な関係へと結び直された意義は小さくない。フリマの「その先」を決済に賭けたこの選択が、規模の拡大と与信リスクの管理をどう両立させるかという問いを、以後のメルカリに残したとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
フリマの成功と、アプリに滞留する「売上金」
メルカリは、2013年に始めたスマートフォン特化のフリマアプリで、個人間取引という新しい市場を国内に定着させた。出品から購入、決済、配送までをアプリ内で完結させる設計は、従来のオークション型では取り込めなかった層を広く巻き込み、取引が日常化するにつれてアプリ内には利用者が受け取った「売上金」が積み上がっていった[1]。この売上金は、そのままでは「メルカリ」の中での買い物か、銀行口座への振込にしか使えず、アプリの外へは流れ出さない資産としてとどまっていた。
フリマ単体の成長制約と「第二の柱」
フリマ事業の売上は、取引総額(GMV)に手数料率を掛けた構造に依存しており、国内市場が成熟し競合の参入も相次ぐなかで、フリマの伸びだけで中長期の成長を描くことは次第に難しくなっていた[2]。取引のたびに生まれる決済と、利用者の信用(与信)そのものを収益に変えられれば、GMVの拡大に頼らない第二の柱を持てる。上場を翌年に控えた時期でもあり、フリマに続く事業の柱をどこに置くかが、経営の焦点になりつつあった。
決断
金融・決済の専門子会社メルペイの設立
2017年4月、メルカリは創業者の山田進太郎氏が代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)に退き、小泉文明氏が代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)に就く新体制へ移っていた。その体制のもとで、同年11月20日、金融・決済の新規事業を自前で担う専門子会社として株式会社メルペイを100%子会社として設立した[3]。代表取締役には、元グリー取締役常務でCFOとして資金調達や株式上場を主導した青柳直樹氏が11月28日付で就任し、決済と与信の内製化を率いることになった[4]。
売上金を「使える」動線と、iDによる面の確保
メルペイが最初に整えたのは、フリマで得た売上金をアプリの外で「使える」動線であった。2019年2月13日、まずiOS向けにスマホ決済「メルペイ」の提供を開始し、三井住友カードとの事業連携を通じてNTTドコモが推進する非接触決済「iD」に対応することで、開始当初から全国の広い加盟店で使える面を確保した[5]。3月にはQRコード決済も加え、フリマの売上金を実店舗やネットの支払いに回せるようにすることで、「メルカリ経済圏」と呼ばれる循環の構築に着手した。
結果
ドコモ提携・Origami統合・メルカードへの拡張
サービス開始の翌年、メルペイは決済網の拡張を一気に進めた。2020年1月にはコード決済「Origami Pay」を手がける株式会社Origamiの全株式を取得してメルカリグループに迎え(買収額は非公表で、当時の報道では実質0円と伝えられた)、同サービスをメルペイへ統合した[6]。続く2月には、メルカリ・メルペイがNTTドコモと業務提携で合意し、「メルカリID」と「dアカウント」の連携やdポイント・d払いとの相互利用を通じて、加盟店網と顧客基盤の相互拡張を図った[7]。2022年11月には、メルカリでの利用実績に基づく独自の与信を用いたクレジットカード「メルカード」の提供を始め、決済から後払い・与信へと踏み込んでいった[8]。
先行投資と与信リスク、そして黒字化
決済・金融への進出は、フリマ事業とは性格の異なる先行投資を伴った。メルペイの立ち上げと拡大に資源を投じたことで、連結の営業損益は2019年6月期に121億円、2020年6月期に193億円の赤字へと膨らんだ[9]。もっとも、加盟店と利用者の基盤が整うにつれて収益化は進み、2021年6月期にはグループとして初の通期営業黒字に転じ、Fintech事業も黒字化した[10]。一方で、後払いの「メルペイスマート払い」やメルカードの拡大は、利用者への貸付にあたる未収入金と貸倒れのリスクを押し上げた。2023年6月期には未収入金が前期から大きく増え、期末の貸倒引当金は54億円に達し、営業キャッシュフローの悪化要因ともなった[11]。決済という第二の柱は、フリマの高い利益率とは異なる資本と規律を要する事業として姿を現していった。
- メルカリ ニュースリリース 2017年12月4日「青柳直樹が金融関連の新規事業を行うメルペイ社の代表に就任」
- 株式会社メルペイ ニュースリリース 2019年2月13日「メルカリの新しいスマホ決済サービス『メルペイ』、第一弾として非接触決済サービス『iD』に対応」
- 株式会社メルペイ ニュースリリース 2020年1月23日「株式会社Origamiのメルカリグループ参画に関するお知らせ」
- メルカリ ニュースリリース 2020年2月4日「メルカリ・メルペイ・NTTドコモが業務提携に合意」
- メルカリ ニュースリリース 2022年10月31日「株式会社メルペイ、クレジットカード事業参入に関するお知らせ」
- 株式会社メルカリ 有価証券報告書(連結・沿革)
- 株式会社メルカリ 有価証券報告書(第11期・2023年6月期)