メルカリ テレビCMへの先行投資 14.5億円の資金調達を原資としたマス広告への一気の投入

更新:

時期 2014年5月
当時の社長 山田進太郎
論点 ネットワーク効果の先行独占
何をなぜ決めたか
概要

2014年5月10日、サービス開始から2年目のメルカリが、初のテレビCMを一部の地域を除く全国で放映した。原資は3月31日に第三者割当増資で集めた14.5億円で、山田進太郎社長のもと、調達したばかりの資金をマス広告へ一気に振り向けた。

商品代金の原則10%を出品者から受け取る手数料の徴収が始まるのは同年10月で、2014年6月期の提出会社には売上高の記載がなく、経常損失は1,373百万円、純資産額は351百万円にとどまる。収入の裏づけを持たないまま全国へCMを流す選択だった。

背景

2013年7月のサービス開始後、スマホ完結・即決価格の設計で利用は広がりつつあったが、成長は口コミとオンライン広告に依存し、フリマアプリという概念自体が一般には浸透していなかった。出品者と購入者が相互に増えるほど価値が高まるネットワーク効果が働く市場では、先に規模を築いた事業者が優位を固めやすい。コスト構造の相当の割合を広告宣伝費が占める一方、初期成長段階では売上高に占める比率が高くなり、ユーザ基盤が拡大し安定するにつれて比率を抑えられる——このモデルを前提に、比率の高い時期を最短で通り抜けることが狙いになった。

内容

2014年3月31日、グローバル・ブレイン、グロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、GMOベンチャーパートナーズ等を引受先とする第三者割当増資で14.5億円を調達し、元ミクシィ取締役CFOの小泉文明氏が取締役、高宮慎一氏が社外取締役に就任した。資金は国内の開発・PR・カスタマーサポートの強化と、米国事業の立ち上げに充てられた。

5月8日時点の総ダウンロード数は200万件、1日の出品数は数万件、流通総額は月間数億円規模で、その水準で菅谷哲也氏・筧美和子氏を起用した初のCMを投下した。10月9日には総ダウンロード数が500万件を超え、同日にWorld Innovation Lab等からの23.6億円の追加調達と第2弾CMを公表している。

含意

オンライン広告とTVCMで市場プレゼンスの拡大を図った当初は、広告宣伝費が収益を圧迫し、提出会社ベースで営業損失を計上した。しかし日本市場での規模拡大に伴ってコスト効率が向上し、売上高の急速な成長と引き換えに、提出会社では採算性が確立する。経常損益は2016年6月期に3,262百万円へ転じた。

提出会社の広告宣伝費は2017年6月期10,283百万円、2018年6月期11,594百万円、2019年6月期10,424百万円と横ばいに落ち着く一方、売上高は21,254百万円から46,254百万円へ伸び、売上高に対する比率は48%から23%まで下がった。米国事業と国内の新規事業への先行投資が続いたため、連結では営業損失の計上が続いている。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

規模を先取りする賭けの功罪

この判断の核心は、目先の採算ではなく、まだ競争優位・劣位の決まっていない市場の構造そのものを、時間を味方につけて先に固めにいった点にある。売上高の記載すらない会社が、調達した14.5億円の相当部分を数か月でテレビCMへ流し込むという選択は、外れれば資金を焼き付かせるだけで終わる。それでも、出品と購入が互いを呼ぶ市場では、認知と規模で先んじることが後発との差をそのまま決める。赤字を織り込んででも先に面を取りにいったところに、この決断の性格がよく表れている。

もっとも、この賭けが成立したのは、広告の効き目が高いうちに一気に投下し切ったからだと思われる。提出会社の広告宣伝費はその後ほぼ横ばいで推移し、売上高に対する比率だけが48%から23%へ低下していく。増やしたのではなく、伸びた売上が比率を薄めた形である。2019年6月期には『短期的に広告宣伝を増やしてGMVやMAUを伸ばすのは健全でなく、今後も安定してGMVを伸ばしていくことが重要』という水準感に移り、投下量で数字を押し上げる段階は5年で終わった。規模を先に取るか採算を先に取るか——勝者総取りに近い市場で、その順序を早い時期に選び切った例だと言える。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
テレビCM投下の条件

テレビCM投下の条件

科目 概要 備考
テレビCM放映開始 2014年5月10日 一部の地域を除く全国で放映。菅谷哲也氏・筧美和子氏を起用した初のテレビCM
原資となった資金調達 14.5億円 2014年3月31日、グローバル・ブレイン等を引受先とする第三者割当増資
資金の充当先 国内の開発・PR・CS強化と米国展開 小泉文明氏が取締役、高宮慎一氏が社外取締役に就任した
CM開始時の総ダウンロード数 200万件 2014年5月8日時点。1日の出品数は数万件、流通総額は月間数億円規模
5か月後の総ダウンロード数 500万件 2014年10月9日時点。同日に第2弾CMと23.6億円の追加調達を公表した
追加の資金調達 23.6億円 2014年10月、World Innovation Lab等を引受先とする第三者割当増資
手数料の徴収開始 2014年10月 「メルカリ」で商品代金の原則10%を出品者から受領する方式
2014年6月期の売上高 記載なし 提出会社。手数料の徴収前で、主要な経営指標等の推移に金額の記載がない
2014年6月期の経常損失 1,373百万円 提出会社。当期純損失は1,374百万円、純資産額は351百万円

出所:メルカリ ニュースリリース 2014年3月31日・5月8日・10月9日/有価証券報告書 第6期(2018年6月期)【主要な経営指標等の推移】

広告宣伝費と売上高・経常損益の推移

メルカリ:広告宣伝費と売上高・経常損益の推移

(百万円) 広告宣伝費売上高経常損益 備考
2014年6月期 −−△1,373 テレビCM放映開始。手数料の徴収前で売上高の記載はない
2015年6月期 −4,237△1,099 提出会社。広告宣伝費の金額は開示されていない
2016年6月期 −12,2563,262 提出会社で経常黒字へ。海外子会社の損失は含まない
2017年6月期 10,28321,2544,469 広告宣伝費が売上高に占める比率は48%
2018年6月期 11,59433,4247,107 6月19日に東京証券取引所マザーズへ上場した
2019年6月期 10,42446,2547,090 広告宣伝費が売上高に占める比率は23%まで下がった
売上高と広告宣伝費
売上高(百万円)広告宣伝費(百万円)

出所:メルカリ 有価証券報告書 第6期(2018年6月期)・第7期(2019年6月期)【主要な経営指標等の推移】(提出会社) / メルカリ 有価証券報告書 第6期(2018年6月期)・第7期(2019年6月期)【損益計算書関係】

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参考文献

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