ナチュラル・アメリカン・スピリット買収(2015年・JTの決断)

更新:
論点 高価格帯ブランドを買収で獲得するか
JT:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
米国外の商標権と販売会社9社の約5,922億円での取得による高価格帯の柱づくり

何をなぜ決めたか:米国外の商標権と販売会社9社の約5,922億円での取得による高価格帯の柱づくり

概要

2015年9月29日、レイノルズ・アメリカンとの間で、ナチュラル・アメリカン・スピリットの米国外たばこ事業を取得する契約を締結した。対象は同ブランドの米国外の商標権と、レイノルズ傘下でこのブランドのたばこ商品を販売する米国外子会社9社の全株式である。

取得価額は約50億米ドル(約5,922億円)で、2016年1月13日に取得を完了した。取得対価591,420百万円は全額を現金で支払い、資金はみずほ銀行・三井住友銀行・三菱東京UFJ銀行からの35億米ドル(約4,126億円)の借入で賄っている。

背景

国内の紙巻たばこ総需要は、少子高齢化の進展、喫煙と健康に関する意識の高まり、増税や喫煙をめぐる規制の強化を背景に減少傾向が続き、この傾向は継続すると見込まれていた。2015年12月期の国内販売数量は1,092億本で前年同一期間比2.8%減、シェアも59.9%と前年の60.4%から低下している。

同年7月には飲料自販機オペレーター事業の子会社株式と飲料ブランドをサントリー食品インターナショナルへ約1,500億円で譲渡し、多角化の一角を手放したばかりであった。広告や販促の規制が厳しい市場で新しい銘柄を育てる余地は乏しく、伸びている銘柄を外から取り込むことが残された道であった。

内容

受け入れた資産は商標権180,471百万円と繰延税金資産113,185百万円を含む324,232百万円、引き受けた負債は19,791百万円。差額として計上したのれん286,979百万円は、各市場における事業基盤拡充を含む事業統合効果による超過収益力を反映している。取得関連費用は293百万円にとどまった。

米国外の販売数量の過半を占めるのは日本で、のれんも商標権も海外たばこ事業ではなく国内たばこ事業に計上している。2016年12月期は取得日以降の売上収益28,291百万円を積む一方、営業利益は商標権の償却費17,928百万円を含んで13,946百万円の損失となった。

含意

効果は数量ではなくシェアに出た。2016年12月期の国内販売数量は1,062億本と前年から2.8%減ったが、シェアは61.1%へ1.2ポイント上がり、自社たばこ製品売上収益は1.2%増、調整後営業利益は2.4%増となっている。ブランドポートフォリオの中核を担うグローバル・フラッグシップ・ブランドは8から9へ増えた。

国内たばこ事業に配分したのれん265,891百万円は、2021年12月期まで減損なく同額で残る。一方で商標権は定額法の償却が進み、取得時の180,471百万円は2020年12月期末に82,120百万円まで減った。買収の成否は、償却が終わるまでに国内たばこ事業の利益がどこで下げ止まるかに懸かる。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 5名

当時の取締役(2015年3月株主総会決議)

  • 大久保憲朗:社外取締役
  • 宮崎秀樹:副社長
  • 岡素之:取締役
  • 幸田真音:取締役
  • 丹呉泰健:会長
考察:ブランドを取得するということ
考察

考察:ブランドを取得するということ

この買収で買ったのは事業ではなく、ほとんど商標そのものであった。受け入れた資産324,232百万円のうち商標権が180,471百万円を占め、工場も設備もほぼ含まれない。米国外の販売数量の過半を日本が占めるため、のれんと商標権はどちらも海外たばこ事業ではなく国内たばこ事業に積まれた。つまりこれは海外展開の話ではなく、縮んでいく国内市場でシェアを買う取引だったと読むべきだと思われる。事実、2016年12月期の販売数量は前年から2.8%減りながら、シェアだけが59.9%から61.1%へ上がっている。

もっとも、買ったものが商標である以上、その価値は償却で毎年削られていく。取得時に180,471百万円だった商標権は2020年12月期末に82,120百万円まで減り、その間の国内たばこ事業の調整後営業利益は254,053百万円から168,069百万円へ減少した。償却が終わる頃に残るのは、減損されずに置かれたのれん265,891百万円と、市場でのシェアだけである。ブランドを買って時間を稼ぐ策が、稼いだ時間で何を仕込めたかを問われる段階に入っているのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

JT:取得により国内たばこ事業へ計上したのれんと商標権

のれん(百万円)商標権(百万円)
JT:取得により国内たばこ事業へ計上したのれんと商標権
(百万円) のれん商標権 備考
2016年12月期 265,891148,260 1月13日に取得。のれん286,979百万円のうち国内たばこ資金生成単位への配分額
2017年12月期 265,891131,822 測定期間は取得日から1年。配分したのれんに修正はない
2018年12月期 265,891115,274
2019年12月期 265,89198,669
2020年12月期 265,89182,120 商標権の残存償却期間は主として5〜6年
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第32〜36期(のれん及び無形資産)
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第32〜36期(のれん及び無形資産)

JT:国内たばこ事業の売上収益とセグメント損益

売上収益(百万円)調整後営業利益率(%)
JT:国内たばこ事業の売上収益とセグメント損益
(百万円) 売上収益調整後営業利益調整後EBITDA 備考
2011年3月期 665,819−247,184 IFRSの移行日は2010年4月1日。セグメント損益は調整後EBITDAで開示
2012年3月期 646,187−262,257
2013年3月期 687,138−281,309
2014年3月期 710,299−302,099
2014年12月期 505,602172,235− 決算期の変更により9か月決算。損益指標が調整後営業利益へ変わる
2015年12月期 677,331254,053− 販売数量1,092億本(前年同一期間比2.8%減)、シェア59.9%
2016年12月期 684,233260,205− 販売数量1,062億本、シェア61.1%。取得日以降の売上収益28,291百万円を含む
2017年12月期 626,758232,275−
2018年12月期 621,426208,977−
2019年12月期 611,494187,180−
2020年12月期 555,568168,069−
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第27〜36期(事業セグメント)
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第27〜36期(事業セグメント)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 ナチュラル・アメリカン・スピリットの米国外たばこ事業 1982年にサンタフェナチュラルタバコカンパニーが米国で製造・販売を開始した無添加たばこ
取得の法的形式 商標権の取得と子会社株式の取得 レイノルズ・アメリカン傘下の販売会社9社(サンタフェナチュラルタバコジャパン他8社)が対象
契約の締結 2015年9月29日 取得の合意を経て同日付で契約を締結
企業結合日 2016年1月13日
取得した議決権比率 100% 米国外子会社9社の全株式を取得
取得価額 約50億米ドル(約5,922億円) 2019年12月期の記載では約50億ドル(約5,914億円)
取得対価と対価の種類 591,420百万円・全額現金 取得した子会社の現金及び現金同等物4,335百万円を控除した支出は587,085百万円
取得資金 35億米ドル(約4,126億円)の借入 みずほ銀行・三井住友銀行・三菱東京UFJ銀行から2016年1月12日と13日に実行
受け入れた資産 324,232百万円 流動資産21,369/商標権180,471/繰延税金資産113,185/その他の非流動資産9,207
引き受けた負債 19,791百万円 流動負債11,376/非流動負債8,415
のれん 286,979百万円 各市場における事業基盤拡充を含む事業統合効果による超過収益力を反映
商標権 180,471百万円 商標権とのれんの大部分は税務上損金算入可能と見込む
のれんの償却 償却せず毎期減損テスト 国内たばこ資金生成単位に265,891百万円を配分し、2021年12月期まで同額
商標権の償却 定額法 2016年12月期末の残存償却期間は主として9〜10年
取得関連費用 293百万円 販売費及び一般管理費等で費用処理
取得日以降の業績 売上収益28,291百万円・営業利益△13,946百万円 2016年12月期の取得日以降分。営業利益は商標権の償却費17,928百万円を含む
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第31期(2015年12月期)【経営上の重要な契約等】【後発事象】・第32期(2016年12月期)【企業結合】
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第31期(2015年12月期)【経営上の重要な契約等】【後発事象】・第32期(2016年12月期)【企業結合】
当時の取締役 5名

当時の取締役(2015年3月株主総会決議)

  • 大久保憲朗:社外取締役
  • 宮崎秀樹:副社長
  • 岡素之:取締役
  • 幸田真音:取締役
  • 丹呉泰健:会長
参考文献

参考文献

参考
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書「第31期(2015年12月期)【経営上の重要な契約等】【後発事象】」
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書「第32期(2016年12月期)【企業結合】」
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書「第33〜37期(2017〜2021年12月期)【のれん及び無形資産】」
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書「第35期(2019年12月期)【事業等のリスク】」

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