JT 英ギャラハーの買収 75億スターリング・ポンドを投じて手にした欧州とロシアの柱
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2007年4月、日本たばこ産業(JT)が英たばこ大手ギャラハーを取得原価75億スターリング・ポンド(約1兆7,200億円)で買収した経営判断。1999年のRJRナビスコの米国外たばこ事業買収(77億9,000万ドル)に続く二度目の巨額海外買収であった。英国のたばこ大手の販売網とブランドを取得し、世界3位のたばこメーカーとしての立場を固めた。決断は木村宏社長のもとで下された。
- 背景
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1999年のRJRナビスコ買収で手にした海外たばこ事業は、2006年3月期に売上高8,811億円・営業利益710億円(前年度比59.8%増)まで伸び、翌2007年3月期も売上高9,996億円・営業利益810億円と伸長した。一方、国内たばこの紙巻たばこ販売数量は2006年3月期の1,894億本から2007年3月期の1,749億本へ減り、たばこを中核に据える限り海外で規模を買う以外の道は乏しかった。
- 内容
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2006年12月15日、JTはギャラハーの発行済及び発行予定全株式を取得して子会社化する手続きの開始に合意した。2007年4月18日、英国法上のスキーム・オブ・アレンジメントにより買収を完了し、議決権100%を取得した。取得原価は75億スターリング・ポンド、発生したのれんは1兆7,213億円にのぼる。2008年3月期の連結売上高は前期の4兆7,694億円から6兆4,097億円へ伸びた。
- 含意
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RJRナビスコが世界3位への跳躍であったとすれば、ギャラハーは欧州とロシアという地理的な事業基盤を重ねた二段目であった。海外たばこ事業の紙巻たばこ販売数量は2007年3月期の2,401億本から2008年3月期に3,856億本、2009年3月期に4,523億本へ増え、連結総資産は3兆3,647億円から5兆872億円へ膨らんだ。膨らんだ分の大半はのれんで、2009年3月期末には海外たばこ事業ののれんが連結総資産の36.1%を占めた。以後の米ベクター買収(2024年)へと続く、海外M&Aで規模を買う路線が確かなものとなった。
いつ何が起きたか 9件
筆者の見解
世界3位を固めた二段目という位置づけ
この買収の面白さは、一度目の賭けが果実を生んだ実績を踏み台に、二度目のより大きな賭けへ踏み込めた点にある。RJRナビスコ買収は世界規模のたばこメーカーへの跳躍であり、その海外たばこ事業は2006年3月期に営業利益710億円(前年度比59.8%増)、2007年3月期に810億円と伸びていた。その実績が、取得原価75億スターリング・ポンドというギャラハー買収の説得材料となった。一段目で世界3位級へ跳び、二段目で欧州とロシアという地理的な事業基盤を重ねる——JTの海外M&Aは、成功を担保に次の規模へ進む積み上げの形をとった。もっとも、買値の重さは会計の扱いに現れている。ギャラハー株式を直接取得したJTI (UK) MANAGEMENT LTDが米国基準を採っていたため、発生した1兆7,213億円ののれんは当初、米国財務会計基準審議会基準書第142号に従って償却されず、年1回の減損判定だけが課されていた。ところが翌2009年3月期、在外子会社の会計処理を日本基準へ揃える実務対応報告第18号の適用によって償却が始まり、海外たばこ事業の営業利益はこの一事で942億円押し下げられた。のれん残高も2008年3月期末の2兆1,069億円から2009年3月期末に1兆4,540億円へ減り、同じ期に為替換算調整勘定は△410億円から△4,236億円へ振れている。
もっとも、この路線は国内の縮小を前提にしている点で、明るいだけの物語ではない。たばこを中核に据える限り、需要が伸びる市場は国外にしかなく、JTは海外で規模を買い続ける一方、国内では工場閉鎖と人員削減を繰り返してきた。ギャラハーで得た欧州・ロシアの基盤は、首位フィリップ・モリス、2位BATとの差を詰める土台となり、以後の米ベクター買収(2024年)まで続く海外M&Aの路線を確かなものにした。国内で縮み海外で伸びるという二正面を抱えたまま、JTは世界のたばこ大手としての立ち位置を保っている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
買収の条件
買収の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 被取得企業 | Gallaher Group Plc | 事業の内容は製造たばこの製造・販売。英国を所在地とする上場会社 |
| 合意の日 | 2006年12月15日 | 発行済及び発行予定の全株式を取得して子会社化する手続きの開始に合意 |
| 企業結合日 | 2007年4月18日 | 英国法上のスキーム・オブ・アレンジメントによる。JTI (UK) MANAGEMENT LTDを通じた取得 |
| 企業結合の法的形式 | 現金を対価とする株式取得 | 取得した議決権比率は100% |
| 取得原価 | 75億スターリング・ポンド | 約1兆7,200億円。外貨資金調達分の換算レートは238.51円/スターリング・ポンド |
| 連結した業績の期間 | 2007年4月18日から12月31日まで | 被取得企業の決算日は12月31日 |
| 受け入れた資産合計 | 2,941,697百万円 | 流動資産410,572百万円、固定資産2,531,125百万円 |
| 引き受けた負債合計 | 1,155,191百万円 | 流動負債405,712百万円、固定負債749,478百万円 |
| 発生したのれん | 1,721,368百万円 | 連結貸借対照表計上額。企業結合日の為替レート換算では1,791,188百万円 |
| のれんの当初の償却方法 | 償却せず年1回減損の有無を判定 | 取得企業が米国基準を採用したため米国財務会計基準審議会基準書第142号による |
| のれん償却の開始 | 2009年3月期から | 実務対応報告第18号の適用で海外たばこの営業利益が94,235百万円減少 |
| 商標権への配分額 | 523,263百万円 | のれん以外の無形資産に配分された主なもの。償却期間は20年 |
| 買収資金の借入(当社) | 4,500億円 | みずほ銀行から2007年4月25日に実行。元金一括返済、約定金利0.80%と0.84% |
| 買収資金の借入(英国子会社) | 19億スターリング・ポンド | 4,516億円。18銀行のシンジケート団から2007年4月26日に実行、金利5.76908% |
| 買収後の社債発行 | 1,500億円 | 2007年7月24日発行の第2〜4回国内普通社債。利率1.34%・1.53%・1.68% |
| 2008年3月期末の有利子負債 | 1兆3,892億円 | うち社債(1年以内償還予定を含む)が7,166億円。前期末は2,192億円 |
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第22期(2007年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】・第23期(2008年3月期)【追加情報】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】
のれんと無形資産の推移
JT:のれんと無形資産の推移
| (百万円) | のれん | のれん以外の無形固定資産 | 総資産 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2005年3月期 | 321,414 | 248,293 | 2,982,056 | 2007年3月期より前の科目名は連結調整勘定 |
| 2006年3月期 | 355,183 | 224,335 | 3,037,378 | |
| 2007年3月期 | 360,681 | 182,198 | 3,364,663 | |
| 2008年3月期 | 2,106,887 | 652,519 | 5,087,214 | ギャラハーののれん1,721,368と商標権523,263を計上し、総資産が1兆7,226億円増 |
| 2009年3月期 | 1,453,961 | 377,881 | 3,879,803 | のれん償却の開始と円高で減少。海外たばこののれんが連結総資産の36.1% |
| 2010年3月期 | 1,387,397 | 381,666 | 3,872,595 | |
| 2011年3月期 | 1,147,816 | 313,669 | 3,571,927 | 翌期の有価証券報告書は組替後ののれんを1,094,366と記載 |
| 2012年3月期 | 955,765 | 288,818 | 3,472,612 | |
| 2013年3月期 | 1,316,476 | 348,813 | 3,852,567 | IFRSの適用初年度。のれんは償却せず減損判定のみとなる |
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第21〜28期(連結貸借対照表、連結財政状態計算書)
海外たばこ事業の売上高と営業利益
JT:海外たばこ事業の売上高と営業利益
| (億円) | 売上高 | 営業利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2006年3月期 | 8,811 | 710 | 事業区分ではなく経営成績の説明に記載された海外たばこ事業の実績 |
| 2007年3月期 | 9,996 | 810 | |
| 2008年3月期 | 26,399 | 2,053 | ギャラハーを4月18日から12月31日まで連結。売上高は前年度比164.1%増 |
| 2009年3月期 | 31,183 | 1,747 | 通期化で増収。のれん償却費の計上により営業利益は前年度比305億円減 |
| 2010年3月期 | 26,336 | 1,091 | 主要市場の通貨安と円高で減収減益。営業利益は前年度比656億円減 |
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第21〜25期(経営成績の分析、事業の種類別セグメント情報)
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参考文献
- 日本たばこ産業 有価証券報告書(2025年12月期)【沿革】
- 日本たばこ産業 有価証券報告書(連結業績)
- 日本たばこ産業 有価証券報告書【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】
- 日本たばこ産業 有価証券報告書【追加情報】
- 日本たばこ産業 有価証券報告書【事業の種類別セグメント情報】
- 日本たばこ産業 有価証券報告書「第22期(2007年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
- 日本たばこ産業 有価証券報告書「第23期(2008年3月期)【追加情報】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【社債明細表】」
- 日本たばこ産業 有価証券報告書「第24期(2009年3月期)【事業の種類別セグメント情報】」
- 日本たばこ産業 有価証券報告書「第21〜28期(連結貸借対照表、連結財政状態計算書、経営成績の分析)」