英ギャラハーを約2兆2,500億円で買収し欧州とロシアの柱を得る

RJRナビスコで世界3位へ跳んだJTが、上位2社との差をどう詰めたか——二度目の巨額買収

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時期 2006年12月
意思決定者 木村宏 社長
論点 海外M&Aによる規模拡大と地理的分散
概要
2007年4月、日本たばこ産業(JT)が英たばこ大手ギャラハーを総額約2兆2,500億円で買収した経営判断。1999年のRJRナビスコの米国外たばこ事業買収(約9,400億円)に続く二度目の巨額海外買収で、当時の国内企業による海外買収として過去最高額であった。英国のたばこ大手の販売網とブランドを取得し、世界3位のたばこメーカーとしての立場を固めた。決断は木村宏社長のもとで下された。
背景
1999年のRJRナビスコ買収は当初「無謀な1兆円投資」と揶揄されたが、2006年3月期には海外たばこ事業の営業利益が前期比42%増の660億円へ伸び、ロシア単独で利益100億円を稼ぐ水準に達していた。批判を数字が塗り替えるなか、国内は喫煙率の低下で市場が縮み、たばこを中核に据える限り海外で規模を買う以外の道は乏しかった。
内容
2006年12月、JTはギャラハー買収を発表した。買収総額は約2兆2,500億円で、RJRナビスコ買収のおよそ2倍にあたる。2007年4月18日に買収を完了し、ギャラハーはジュネーブに本社を置くJTインターナショナル(JTI)へ統合された。翌2008年3月期の連結売上高は前期の約4兆7,700億円から約6兆4,100億円へ伸びた。
含意
RJRナビスコが世界3位への跳躍であったとすれば、ギャラハーは欧州とロシアという地理的な柱を重ねた二段目であった。首位フィリップ・モリス、2位BATとの差を詰める規模を得た一方、国内では構造改革による工場閉鎖と人員削減が続き、海外で攻め国内で縮む二正面の経営が定着した。以後の米ベクター買収(2024年)へと続く、海外M&Aで規模を買う路線が確かなものとなった。
筆者の見解

世界3位を固めた二段目という位置づけ

この買収の面白さは、一度目の賭けが果実を生んだ実績を踏み台に、二度目のより大きな賭けへ踏み込めた点にある。RJRナビスコ買収は世界規模のたばこメーカーへの跳躍であり、当初は「無謀」と評された投資が、2006年3月期には海外営業利益660億円という数字で報われた。その実績が、およそ2倍の規模となるギャラハー買収の説得材料となった。一段目で世界3位級へ跳び、二段目で欧州とロシアという地理的な柱を重ねる——JTの海外M&Aは、成功を担保に次の規模へ進む積み上げの形をとった。

もっとも、この路線は国内の縮小を前提にしている点で、明るいだけの物語ではない。たばこを中核に据える限り、需要が伸びる市場は国外にしかなく、JTは海外で規模を買い続ける一方、国内では工場閉鎖と人員削減を繰り返してきた。ギャラハーで得た欧州・ロシアの基盤は、首位フィリップ・モリス、2位BATとの差を詰める土台となり、以後の米ベクター買収(2024年)まで続く海外M&Aの路線を確かなものにした。国内で縮み海外で伸びるという二正面を抱えたまま、JTは世界のたばこ大手としての立ち位置を保っている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

「無謀な1兆円投資」が果実を生んだ後で

JTが二度目の巨額海外買収へ動いた前提には、一度目の成功があった。1999年に約9,400億円を投じた米RJRナビスコの米国外たばこ事業買収は、当初「歴史的な賭け」「無謀な1兆円投資」と評され、公社体質を抱えたままの世界競争を危ぶむ声が強かった。ところが2006年3月期には、海外たばこ事業の営業利益が前期比42%増の660億円に達する見込みとなり、ロシアを筆頭にウクライナや台湾、利幅の大きい欧州が業績を押し上げていた。批判の根拠を数字が塗り替えたところで、次の一手の下地が整った[1]

海外へ規模を求める必然は、国内市場の縮小にあった。成人の喫煙率は下がり続け、たばこを中核に据える限り、需要が伸びる市場を国外に確保するほかない、というのが民営化後のJTが繰り返し語ってきた論理であった。1999年の時点で経営陣は、先進国のたばこ需要が頭打ちである一方、途上国では需要が伸び、国際化は避けて通れないと述べていた。RJRナビスコ買収でその論理を実地に移し、成果が数字で確かめられたことが、より大きな買収へ踏み込む後押しとなった[2]

国内で稼ぐ力を整えたうえでの実行

巨額の投資に耐えるには、国内で現金を生み出す力を保つ必要があった。JTは海外買収と並行して国内の構造改革を進め、2003年に希望退職の募集を通じて4,000名規模の人員削減を実施し、2005年には国内8工場を閉鎖した。攻めの海外投資と守りの国内改革を同じ時期に走らせ、成熟した国内事業で稼いだ現金を海外の規模拡大へ振り向ける形が、ギャラハー買収の前に組み上がっていた[3]

決断

RJRナビスコの2倍を投じる二度目の買収

2006年12月、JTはギャラハーの買収を発表した。投じる総額は約2兆2,500億円で、国内企業による買収として過去最高額であり、1999年のRJRナビスコ買収のおよそ2倍にあたる規模であった。一度目の海外買収で得た海外たばこ事業が成長の牽引役へ育っていたことが、より大きな二度目の買収を正当化していた。専門誌はこの買収を、米RJRナビスコに続く国内過去最高額の案件と位置づけて報じた[4]

2007年4月18日、JTはギャラハーの発行済株式を取得し、買収を完了した。取り込んだ事業は、RJRナビスコ買収でジュネーブに束ねた海外統括会社JTインターナショナル(JTI)へ統合された。英国のたばこ大手が持つ成熟市場の基盤に、ロシアなど新興市場へ広がる販売網とブランドが加わり、JTの海外たばこ事業は地理的な広がりを一段と増した[5][6]

結果

連結売上高を一段押し上げた統合初年度

買収の効果は、翌期の連結業績にはっきりと表れた。ギャラハーを取り込んだ2008年3月期の連結売上高は約6兆4,100億円で、前期の約4兆7,700億円からおよそ1兆6,000億円伸びた。営業利益も3,320億円から4,306億円へ増え、海外たばこ事業がJTの利益を支える柱として定着した。国内市場が縮むなかで会社全体の規模を押し上げたのは、二度にわたる海外買収で買い足した事業であった[7]

一方で、海外で規模を買う経営は、国内の縮小と背中合わせであった。JTは海外買収の前後を通じて国内工場の閉鎖と人員削減を続け、国内たばこ事業で減る利益を海外事業の利益で補う形が2000年代を通じて定着した。攻めの海外と守りの国内を一つの経営として走らせる二正面の構造は、ギャラハー買収によって後戻りのできないものとなった[8]

出典・参考