デクセリアルズソニーによるケミカルプロダクツ事業の売却と、政投銀・ユニゾン主導の受け皿VGケミカルへの分離独立
好採算の素材子会社を、親会社ソニーはなぜ本業集中の名のもとで手放したか
- 概要
- 2012年3月、ソニーは事業ポートフォリオ改革の一環で、ケミカルプロダクツ関連事業を日本政策投資銀行主導のファンドへ売却すると発表した。同年6月に受け皿となる持株会社VGケミカルが設立され、9月に旧ソニーケミカル&インフォメーションデバイスの全株式を取得して、素材事業はソニーから完全に分離した。翌2013年3月にVGケミカルが同社を吸収合併し、商号をデクセリアルズへ改めた。
- 背景
- 前身のソニーケミカルは1962年にソニーが設立した素材技術子会社で、外部の電子機器メーカーへも異方性導電膜(ACF)などを供給する独立心の強い子会社であった。1990年代末以降のソニー本体は業績不振とグループ再編に追われ、好採算ながらグループの中核から外れる化学事業を、選択と集中のなかで整理の対象に据えた。
- 内容
- 日本政策投資銀行とユニゾン・キャピタル系のファンドが出資する持株会社VGケミカルを受け皿とし、ソニーは保有する化学事業の全株式を譲渡した。当初は政投銀へ300〜400億円で譲渡すると報じられた。「Dexerials」は「デバイス」「卓越」「素材」「提携」を組み合わせた造語で、独立した機能性材料メーカーとしての名乗りに採られた。
- 含意
- 分離から3年後の2015年、デクセリアルズは東証一部へ再上場し、PEファンドは投資を回収した。再上場後しばらくは売上700億円以下で停滞し、時価総額は2019年3月に約420億円まで沈んだが、2019年就任の新家由久社長のもとで収益性を高め、2025年3月期に営業利益397億円へ達した。親会社の傘を外れた素材事業が、独立企業として稼ぐ力を取り戻したとみることができる。
売られた側の十年
この売却を、親会社に見限られた非中核部門の切り離しという言葉だけで読むと芯を外す。手放された化学事業は好採算で、外部メーカーへも素材を売り、もともと独立心の強い子会社であった。むしろ親会社の資本配分の論理から外れたことが、投資判断の速さをこの会社にもたらしたとみられる。新家由久社長は後年、子会社のままなら成長投資の判断は遅れていたかと問われ、それは絶対にあると述べ、意思決定のスピードを復活の背景に挙げている。
もっとも、分離がそのまま再建を約束したわけではない。2015年の再上場から数年は売上700億円以下で停滞し、時価総額は2019年3月に約420億円まで沈んだ。潮目が変わったのは、初の生え抜き社長がROIC経営で製品を選び直し、車載シフトとコロナ特需という外部の追い風が重なってからであった。カーブアウトが用意したのは独立という前提にすぎず、そこから稼ぐ力を引き出すには別の経営が要ったといえる。手放す側の選択と集中と、手放された側の再建とは、同じ一つの事業をめぐって別々に問われる主題であったとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
ソニーの素材子会社という位置
前身のソニーケミカルは、1962年にソニーが素材の内製化を目的に設立した子会社であった。プリント基板向けの接着剤に始まり、半導体チップを基板へ接続する異方性導電膜(ACF)や反射防止フィルムを育て、外部の電子機器メーカーへも素材を供給した。1987年に東京証券取引所第二部へ上場し、独自の資本市場アクセスを持った時期もある。ソニー向けの売上比率は低く、独立心の強い子会社として知られていた[1][2]。
一方の親会社ソニーは、2000年代に入って本業の不振とグループ再編に追われていた。エレクトロニクスの収益力が落ち込むなか、経営資源を中核事業へ振り向ける選択と集中が経営の主題となる。化学事業はグループ内で好採算の部類にありながら、ソニーが主戦場とする最終製品からは外れた素材の領域であった。多くの事業を抱え込む体制を見直す流れのなかで、その分離が検討の対象に入った[3]。
決断
政投銀主導のカーブアウト
2012年3月、ソニーはケミカルプロダクツ関連事業を日本政策投資銀行主導のファンドへ売却すると発表した。エレクトロニクスの立て直しへ経営資源を絞る本業集中の一手で、素材事業を外部の資本のもとへ移す枠組みであった。譲渡額は当初、政投銀へ300〜400億円で移すと報じられた。50年にわたりソニーの傘下で運営されてきた素材事業を、親会社が自ら手放す判断であった[4]。
受け皿として2012年6月に持株会社VGケミカルが設立され、日本政策投資銀行とユニゾン・キャピタル系のファンドが出資した。同年9月、VGケミカルが旧ソニーケミカル&インフォメーションデバイス(同月に旧デクセリアルズへ商号変更済み)の全株式を取得し、素材事業はソニーから完全に分離した。翌2013年3月にVGケミカルが同社を吸収合併し、商号をデクセリアルズへ改めた。「デバイス」「卓越」「素材」「提携」を組み合わせた造語で、独立企業としての名乗りに採られた[5][6]。
結果
停滞を経ての再上場と復活
2015年7月、デクセリアルズは東京証券取引所第一部へ再上場し、PEファンドは投資を回収した。2000年の上場廃止から15年ぶりの株式市場復帰であった。もっとも独立後の歩みは平坦ではなく、スマートフォン市場の踊り場と重なった2016年3月期から2019年3月期は売上600億円台から700億円、営業利益も35億円から62億円と伸び悩んだ。時価総額は2019年3月に約420億円まで沈み、大企業の看板を外れた素材事業の評価はしばらく低いままであった[7][8]。
転機は2019年2月に就いた初の生え抜き社長、新家由久氏のもとで訪れた。事業や製品を投下資本利益率(ROIC)で選び直し、稼ぐ力の高い車載向けへ反射防止フィルムを広げた。コロナ禍のテレワーク特需とサプライチェーンの在庫確保も追い風となり、2022年3月期は売上高957億円・営業利益266億円へ跳ね、2025年3月期には売上高1104億円・営業利益397億円へ達した。ACF・反射防止フィルム・光学弾性樹脂の3製品はいずれも世界シェア首位を占め、時価総額は2024年11月に約4500億円まで回復した[9][10][11]。
- 日本経済新聞(2012年3月22日)「ソニー、化学事業売却へ 本業集中 政投銀に300~400億円で」
- 日本経済新聞(2012年9月30日)「ソニーが譲渡の化学企業に出資 ユニゾン・キャピタル」
- 週刊東洋経済 2021年7月24日号「発見!成長企業 デクセリアルズ ニッチな光学材料が急拡大 ROIC経営で稼ぐ力を生む」
- 週刊東洋経済 2024年11月23日号「トップに直撃 デクセリアルズ 社長 新家由久 復活劇の背景にあるのは経営の意思決定のスピード」
- デクセリアルズ 有価証券報告書【沿革】
- デクセリアルズ 有価証券報告書(連結・JGAAP/IFRS)