米アフラックへの7%出資と持分法適用をめざす戦略提携

豪トール減損の後、日本郵政はなぜ買収でなく「時間をかけた少数出資」を選んだか

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時期 2018年12月
意思決定者 長門正貢 社長
論点 海外・収益源多様化の再挑戦と、パートナーとの資本提携
概要
2018年12月19日、日本郵政が、長年のがん保険パートナーである米アフラック・インコーポレーテッドの発行済株式7%程度を信託を通じて約2,700億円で取得し、4年後の持分法適用をめざす「資本関係に基づく戦略提携」を発表した経営判断。長門正貢社長のもとで決めた、豪トール以来の大型出資である。
背景
国内郵便と郵貯・簡保の構造的な縮小に対し、民営化企業として市場に示せる成長の柱は乏しかった。2015年の豪トール買収が2年後に約4,000億円の減損を招いた後の、海外・収益源多様化の再挑戦であった。
内容
アフラック株を48か月保有すると1株につき10議決権が付与される定款を用い、議決権が20%以上に達した後に持分法を適用してアフラックの利益の一部を連結へ取り込む設計。支配や経営介入は目的とせず、信託を通じて保有した。
含意
未知の海外事業を丸ごと買って減損に沈んだトールの反省から、勝手を知るパートナーへ少数出資し、時間をかけて会計上の利益を取り込む慎重な型を選んだ。2024年3月に持分法適用が実現した。
筆者の見解

減損を避けた出資が、成長の穴を埋めるか

この判断の輪郭は、直前の豪トールと引き比べると見えやすい。未知の海外事業を丸ごと買い、上場という時間の制約のなかで価値を見誤って減損に沈んだ買収の後で、日本郵政が選んだのは、勝手を知るパートナーへの少数出資であった。信託と定款の議決権条項を組み合わせ、支配のリスクを負わずに会計上の利益を取り込む——その設計は、M&Aで痛手を負った企業がたどり着いた慎重な型といえる。減損の危うさから距離を置いた点で、トールとは対照的な選択であった。

ただ、この出資が民営化企業の抱える課題そのものに答えたかは、なお見極めが要る。持分法がもたらす利益は連結の数字を厚くする一方で、国内郵便や郵貯・簡保の構造的な縮小を埋め合わせるものではない。提携の主眼であったがん保険の共同販売も、発表の翌年に表面化したかんぽ生命の不適切募集で現場が揺れた。アフラックへの出資は、本業の穴を埋める成長というより、収益源を外へ分散させる一手にとどまるとみることもできる。時間をかけて利益を取り込む慎重さが、次の成長の柱にどう接続していくのかは、この先に残された問いであろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

トール減損の後に残った、成長の柱の乏しさ

郵政民営化以降、国内の郵便物数と郵貯・簡保の残高は長期の縮小傾向にあり、2015年に東証へ3社同時上場した日本郵政にとって、市場へ示せる成長の柱の乏しさは重い課題であった。西室泰三前社長のもとで打った豪トール買収は、約6,200億円を投じたわずか2年後の2017年3月期に約4,000億円の減損を計上し、民営化後初の連結赤字を招いていた。海外M&Aの失敗が尾を引くなかで、なお成長への一手は求められていた[1]

それでも日本郵政は、2020年度までの3年間で数千億円規模の成長投資を続ける方針を掲げていた。トールが未知の海外物流を丸ごと抱え込む買収であったのに対し、今回選んだのは長年のパートナーであった。傘下のかんぽ生命がアフラックのがん保険を扱ってきた関係を土台に、収益源の多様化を図る道であり、買収の反省を織り込んだ選択の色が濃かった[2]

長年のがん保険パートナー、アフラック

アフラックは1974年に日本で初めてがん保険を発売し、保険業界でがん保険といえば真っ先に名の挙がる存在へ育っていた。先行者としての強みで事業を広げ、アフラックグループの保険料収入の7割超を日本市場が占めるまでになっていた。日本郵政グループとは、2008年の日本郵便によるがん保険の取扱い開始、2013年の業務提携と、段階的に関係を深めてきた間柄であった[3]

もっとも、その日本事業には陰りも見えていた。医療技術の進歩でがん保険のニーズは入院保障から通院保障へ移り、アフラックの新契約件数は2015年度の164万件から16年度の155万件、17年度の144万件へと減少が続いた。日系生保が健康増進型保険を投入するなど第3分野の競争も激しく、提携を資本で固め、郵便局網での販売を立て直したい思惑が双方にあったとみられる[4]

決断

7%出資と、4年後の持分法適用という設計

2018年12月19日、日本郵政は長門正貢社長のもとで、アフラック・インコーポレーテッドとアフラック生命保険との「資本関係に基づく戦略提携」を発表した。その柱は、アフラック・インコーポレーテッドの発行済株式総数の7%程度を、信託を通じて1年以内をめどに米国での市場取引またはブロック取引で取得することであった。出資額は約2,700億円にのぼり、西室前社長時代の豪トール以来の大型投資となった[5][6]

この提携の眼目は、取得から4年を経た後の持分法適用にあった。アフラック・インコーポレーテッドの定款では、普通株式を48か月保有し続けると1株につき10議決権が割り当てられ、日本郵政の議決権は20%以上に達する。その時点で持分法を適用し、アフラックの利益の一部を連結決算へ反映させる設計であった。支配権や経営介入は目的とせず、20%を超える議決権は他の株主の投票に比例して行使するとした[7]

なぜ「買収」でなく「戦略提携」だったか

買収ではなく少数出資による提携という形は、トールの反省と表裏であった。未知の海外事業を丸ごと取り込んで減損に沈んだ経験を踏まえ、勝手を知るパートナーへ限られた比率で出資し、時間をかけて利益貢献を得る道が選ばれた。提携は資本関係に加え、がん保険の取組みの再確認と、デジタル活用・共同投資・資産運用などの新たな協業の検討を三本柱に据えていた[8]

米国の保険持株会社に対する規制のもとで支配とみなされずに出資を積むため、日本郵政は信託を活用したストラクチャーを組んだ。支配を仕組みのうえで遮断しつつ、議決権の積み上がりによって持分法適用を可能にする建て付けである。あわせて、36年連続で増配を続けるアフラック株からの配当や、継続的な自社株買いによる株主還元の享受も見込んでいた[9]

結果

4年をかけた持分法適用の実現

出資はほぼ計画どおりに進んだ。日本郵政は2020年2月までにアフラック・インコーポレーテッドの普通株式7%程度を取得し、2018年の投資開始以来、累計で約430億円の配当を受け取った。2021年6月には、この戦略提携を成長戦略の「共創プラットフォーム」の実践事例と位置づけ、がん保険販売にとどまらない協業へ発展させることで合意した[10][11]

そして2024年3月、信託を通じて保有する議決権が20%に達したことから、増田寛也社長のもとで日本郵政はアフラック・インコーポレーテッドへ持分法を適用した。2018年に描いた設計が、当初めざしたとおり4年余りをかけて実現したことになる。持分法の効果は2025年3月期第1四半期決算から表れ、追加の出資なしに連結純利益を年500億円規模押し上げるとみられた[12][13]

出典・参考