米ジェフリーズとの戦略的資本・業務提携——海外投資銀行を自前でなく提携で補う
2021年実施自前で投資銀行を築くのでなく、なぜ米ジェフリーズに少数出資して提携で海外CIBを補ったのか
- 概要
- 2021年7月、SMBCグループが米独立系投資銀行ジェフリーズと戦略的資本・業務提携を締結した経営判断。上場普通株の最大4.9%(約3億8600万ドル)を市場で取得し、コーポレート&インベストメントバンキング分野で協業を始めた。以後、協業領域と出資比率を段階的に広げていった。
- 背景
- 3メガバンクの一角ながら、SMBCグループは海外の投資銀行業務で米欧勢に見劣りしていた。2020年度からの中期経営計画は海外CIBビジネスの高度化を最優先に掲げたが、M&A助言や株式引受、レバレッジドファイナンスの実績を自前で一から積むには、長い時間と多額の資本を要する。
- 内容
- 当局認可を前提にジェフリーズ株を市場取得し、米国の非投資適格企業向けレバレッジドファイナンス、日本関連クロスボーダーM&A、米国ヘルスケアの3分野で協働を開始。買収でも純粋な業務提携でもない、資本を絡めた提携で、少数出資から持ち分を刻んで引き上げる設計にした。
- 含意
- 提携は2023年に米国の投資適格企業向けM&A・株式引受へ広がり、経済持分は希薄化後ベースで最大15%、2025年には最大20.0%まで引き上げる方針に至った。自前主義でなく他社の実績を借りて海外投資銀行を補う路線を、SMBCは定着させた。
器を借りるという選び方
この判断の核心は、海外の投資銀行という器を、自前で築くのでも丸ごと買うのでもなく、他社に少数出資して借りた点にある。3メガバンクは長く米欧の投資銀行業務で存在感を欠き、リーマン危機の後には日本勢が海外拠点を広げては退く例も相次いだ。太田純はその轍を避け、実績あるジェフリーズと資本で結びつきながら、まず業務の協働で果実を確かめ、成果に応じて持ち分を4.9%、15%、20%と刻んで上げていく道を選んだ。全部を抱え込む買収より危険は軽く、資本を伴わない提携より結びつきは固い。
もっとも、借りた器は自分のものではない。SMBCは無議決権の株式で持ち分を積み、議決権は5%を超えないよう抑えている。経営権を握らないぶんジェフリーズの独立は保たれ、両社の利害がいつまで重なるかは相手の戦略にもかかっている。提携を描いた太田の死後も路線が続いたことは、これが個人の思いつきでなく組織の選択だったことを示す。他社の実績を借りて海外投資銀行の弱みを補うこのやり方が、自前にこだわった時代の反省をどこまで超えられるか。段階を踏む設計は、その問いへの答えを急がずに測るための仕掛けでもある。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
中期経営計画が最優先に据えた海外証券強化
三井住友フィナンシャルグループは、三井住友銀行とSMBC日興証券を通じて法人顧客にワンストップの金融サービスを届けてきたが、海外の投資銀行業務では米欧の大手に後れをとっていた。2020年度から3年間の中期経営計画は「海外CIBビジネスの高度化による資産・資本効率の向上」を掲げ、海外証券ビジネスの強化を最優先の課題に据える。M&A助言や株式引受、非投資適格企業向けのレバレッジドファイナンスをどう厚くするかが、海外事業の成否を左右していた[1]。
なぜ相手はジェフリーズだったか
提携相手のジェフリーズは、米国最大手の独立系投資銀行の一つで、インベストメントバンキングからキャピタルマーケッツ、リサーチ、資産運用まで総合的に手がける。2020年のグローバルM&A、米国および欧州の株式引受、米国のレバレッジドローン引受など幅広い分野で、リーグテーブルの上位10位以内に入っていた。銀行を母体とせず、大手金融グループの傘下にもない独立の立場が、特定の系列にしばられない助言の自由さを支えていた。自前で同じ器を一から築けば、人材の採用にも実績の蓄積にも長い時間と多額の資本を要する[2]。
決断
2021年7月、CIB協業を見据えた資本・業務提携
2021年7月14日、SMBCグループはジェフリーズと戦略的資本・業務提携の契約を結んだと発表した。狙いは、高い成長が見込めるコーポレート&インベストメントバンキング(CIB)分野での協業にある。協働はまず三つの領域に絞られた。米国の非投資適格企業に向けたレバレッジドファイナンス、日本企業が関わるクロスボーダーのM&A助言、そして米国ヘルスケア分野の投資銀行・キャピタルマーケッツ業務である。銀行の融資力と証券の助言力を、ジェフリーズの現地基盤と重ね合わせる組み立てにした[3]。
少数出資から始める設計
資本のつながりは、少数出資から始めた。SMBCグループは当局の認可取得を前提に、ジェフリーズの上場普通株式の最大4.9%を市場から買い付けると決める。2021年7月13日の終値で3億8600万ドル、日本経済新聞の報道で約400億円にあたる。過半どころか1割にも満たない持ち分にとどめ、まず業務での協働を先に走らせながら、成果を見て資本の関与を深めていく形にした。買収で経営権ごと抱え込む道でも、資本を伴わない業務提携でもない、その中間を選んだ[4][5]。
結果
協業の拡大と、段階を追う出資引き上げ
協働は当初の3分野にとどまらなかった。2021年に始めた提携を土台に、SMBCグループは2023年4月27日、協業の拡大を公表する。対象を主に米国の投資適格の大企業へ広げ、M&Aアドバイザリーとエクイティ、デットキャピタルマーケッツの各業務を加えた。あわせて経済持分を、無議決権株式の取得を通じて希薄化後ベースで最大15%まで引き上げると決める。足元の保有は約4.5%で、持ち分が10%以上になればジェフリーズの取締役を1名送り込める条件も整えた[6][7]。
出資は段階を追って積み上がった。三井住友銀行はジェフリーズ株を買い進め、2024年8月には比率を当初の4.5%から10.9%へ高める。協業の舞台も、欧州・中東・アフリカ、アジア太平洋へと広がった。提携を主導した太田純社長は2023年11月に病で急逝し、後任の中島達がこの路線を引き継ぐ。2025年9月には両社のホールセール日本株事業を合弁で一体運営することで合意し、経済持分を希薄化後ベースで最大20.0%まで引き上げる方針を示した。ただし議決権は5%を超えて持たない[8][9][10]。
- 三井住友フィナンシャルグループ・三井住友銀行・SMBC日興証券(2021年7月14日)「米国総合証券会社Jefferiesとの戦略的資本・業務提携について」
- 三井住友フィナンシャルグループ・三井住友銀行・SMBC日興証券(2023年4月27日)「米国総合証券会社Jefferiesとの戦略的資本・業務提携の強化について」
- 三井住友フィナンシャルグループ・三井住友銀行・SMBC日興証券(2025年9月19日)「米国総合証券会社Jefferiesとのホールセール日本株事業の統合を核とする戦略的資本・業務提携の強化について」
- 日本経済新聞(2021年7月14日)「三井住友、米証券ジェフリーズと資本提携 400億円出資」
- 日本経済新聞(2024年8月13日)「三井住友FG、米証券ジェフリーズへの出資比率10.9%に」
- 日本経済新聞(2023年11月27日)「三井住友フィナンシャルグループ太田純社長が死去、65歳 中島副社長が代行」