ナカニシが工業用で手掛けたのは新しい事業の立ち上げというより、毎分数十万回転でぶれずに回すという一つの技術を、歯科と工業という性格の異なる二つの顧客へ同時に貸し出すことであった。祖業から撤退せず、同じ回転機構を別の産業へ広げる。小径高速スピンドルが競合の少ない領域で優位を築けたのも、歯科で数十年をかけて精度と信頼性を磨いてきた蓄積があったからだとみられる。
もっとも、工業用がすぐに会社を支える収益源になったわけではない。参入から18年が経った2000年でも、その売上構成比は15%ほどにとどまり、歯科が主力事業である事実は動かなかった。ITの普及という外部の追い風が重なって、ようやく工業用は伸び足を得た面もある。それでも、単一の市場に技術を閉じ込めず応用の窓を早くから開けておいたことが、後年の成長の素地になったといえる。