コムシスホールディングス日本通信建設による光ファイバーケーブル工事への早期参入

銅線を敷いてきた会社が、まだ量産の見えない新しい線を最初に取りにいった1982年

時期 1982年8月
意思決定者(推定) 日本通信建設 取締役会
論点 技術転換への対応と受注資格の維持
概要
1982年8月、日本通信建設が光ファイバーケーブル工事を初めて受注した。電電公社を唯一の発注者とする受注構造のなかで、銅線ケーブルとは別の施工技術を早い段階で自社に取り込む判断であった。
背景
電電公社は工事種別ごとに業者を1級から4級へ格付けする資格審査制度を敷き、認定を受けた会社だけが工事を請け負えた。施工実績の積み重ねが次の受注資格そのものになる業界であった。
内容
減収減益となった1982年12月期に光ファイバーケーブル工事を受注し、以後の伝送路更新の現場を確保した。1991年2月にはNTTの新認定制度「通信設備総合工事」の認定も取得した。
含意
1997年3月期に受注高・完成高2,000億円を突破する成長は光網整備が支えたが、同時にNTTグループ向けが売上の過半を占める依存構造も深まった。光化そのものは2020年代に終点へ近づいた。
筆者の見解

最初の1件が買ったもの

1982年の受注は、金額でも利益でも記録に残る規模ではなかった。745億円の売上に対して減益の期であり、光ファイバーの工事量が業績に効いたのは10年以上あとになる。それでも、この1件が意味を持ったのは、電電公社の資格審査制度が実績で受注範囲を決める仕組みだったからにほかならない。等級と工種の認定を握られた会社にとって、新しい工法の最初の現場を引き受けることは、次の10年に請け負える仕事の幅を先に確保する行為に近かった。技術を選んだというより、受注できる資格を選んだとみられる。

その資格は同社に1997年3月期の受注高2,000億円をもたらし、同時に2003年度時点で売上の54.1%をNTTグループが占める体質も残した。光を早く取ったことは、依存の相手を変える働きまではしなかった。そして2027年度末に99.9%という世帯カバー率の目標が置かれた今、光ファイバーを新たに敷く仕事はもう大きくは残っていない。1982年8月に初めて請け負ったケーブルの延長線上に、40年後の同社の主戦場はない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

発注者が1社しかない受注構造

日本通信建設は1951年12月に設立され、翌1952年に電電公社から線路・機械・伝送無線の総合1級業者の認定を受けた。以後の受注はこの1社の設備投資に連動した。電電公社からの受注額は昭和36年度の44.8億円から昭和40年度の107.7億円へ4年で2.4倍になり、公社全体の請負額に占める同社の比率は13.2%から14.2%の幅で動いた。伸びたのは営業の力というより発注者の投資規模であり、比率のほうはほとんど動かなかった[1]

発注者の側の計画も膨らみ続けた。電電公社の5カ年計画の建設費は第一次計画の2,935億円から第四次計画の35,210億円へ12倍になっている。もっとも、この市場に新しく入る道は開いていなかった。当時の業界解説は、公社の発注方式は競争入札が原則でありながら、工事の専門性の高さから実質的には指定業者間の競争にとどまると書いている。守られた市場のなかで、各社は発注者に認められた工事の種類と等級を維持することに関心を向けた[2][3]

実績が受注資格に直結する業界

この業界では、工事の実績がそのまま次の受注の条件になった。電電公社は1952年以来、電気通信建設業者の資格審査制度を設け、工事種別ごとに1級から4級までの格付けを与えていた。認定を受けた会社は全国で約70社にとどまる。同業の経営者が1990年に語った説明によれば、通信線路と通信機械のそれぞれで等級が決まり、受注できる工事の範囲はその等級に縛られた。新しい工法が現れたとき、最初にその現場を踏んだ会社と踏まなかった会社の差は、翌年以降の受注の幅として残った[4]

日本通信建設は、その新しい工法を先に取りにいく行動を1960年代から繰り返していた。1963年11月にシールド工事の第1号を受注して地下通信管路の施工に入り、1970年9月には衛星通信地球局工事を受注している。いずれも当時の主力であった架空線や地下ケーブルの延長線上にはない工種であった。1953年に東京〜名古屋〜大阪間のマイクロ波無線中継回線工事を請け負って以来、長距離の基幹伝送路は同社が繰り返し手がけてきた領域でもあった[5][6]

決断

1982年8月の初受注

1982年8月、日本通信建設は光ファイバーケーブル工事を初めて受注した。伝送媒体を銅線から石英のガラス繊維へ置き換える工事で、ケーブルの接続も測定も従来の線路工事とは手順が異なる。全国の電話網がまだ銅線で組まれていた時期であり、光ファイバーの工事量が受注全体に占める割合はごくわずかであった。それでも最初の現場を引き受けたのは、実績の有無が数年後の受注資格を決める資格審査制度の下で仕事をしてきた会社の判断として理解できる[7]

この受注は業績の良い年に出たものではなかった。1982年12月期の売上高は745億円、経常利益は21億円で、前期の売上高764億円・経常利益33億円から減収減益となっている。当期純利益も12億円から9億円へ減った。目先の採算が締まっている期に、量のまとまらない新しい工種へ人と時間を割いたことになる。翌1983年12月期には売上高847億円・経常利益29億円へ戻したが、光ファイバー工事がその回復を担ったわけではない[8]

発注のしくみが変わる時期と重なった

参入の時期は、発注者側の工事の出し方が変わる時期と重なった。1980年代、電電公社はそれまで固定網と移動体の工事を複数の会社に分けて発注していた形を改め、1社発注へ見直している。この変更に伴い、移動体と固定系のそれぞれで業界の再編が進んだ。工事会社にとっては、どの領域でどの等級を持つかが、受け取れる仕事の量を左右する条件になった。光ファイバーは、その固定系の伝送路をこれから置き換えていく工種であった[9]

1985年の電電公社民営化を経て、認定の枠組みも組み替えられた。日本通信建設は1990年7月に社名を日本コムシスへ変更し、1991年2月にNTTの新認定制度「通信設備総合工事」の認定を取得している。1982年から数えて9年、光ファイバーを含む伝送路工事の実績を抱えた状態で新制度の認定を受けた。1992年3月には湾岸戦争後のクウェート緊急復興プロジェクトも請け負い、国内の技術転換と並行して海外の実績も加えた[10]

結果

光網整備が押し上げた1990年代

光ファイバー工事が受注の柱に育ったのは1990年代であった。NTTの光ファイバー網整備と携帯電話基地局の増設が重なり、1997年3月には受注高・完成高がそろって2,000億円を突破している。1995年2月の企業分析誌は、日本コムシスについて業界再編でシェアが急拡大し過去最高益を更新したと書き、1995年3月期・1996年3月期とも一桁の増収を見込んだ。1982年に取った1件の工事から13年を経て、光は同社の主力工種の一つになった[11][12]

ただし、工事量が増えるほど発注者への集中も進んだ。持株会社へ移る直前の2003年度、売上高2,490億円のうちNTTグループ向けは1,347億円で54.1%を占めた。民営化から約20年を経ても、収益の過半は旧電電公社系の発注に支えられていた。光ファイバーへの早い参入は受注資格と工事量を確保した一方、依存の相手を変えるものではなかった。2003年9月の持株会社設立と、その後15年に及ぶ同業・非通信企業の取り込みは、この構造への対応として続いた[13]

光化が終わりに近づいた2020年代

40年近くのちに、この工事そのものが終点へ近づいた。2018年の同時代誌面は、通信工事について次世代の移動通信・5G向けが動き出す一方、固定電話は光ファイバーへの移行が一段落し今後の縮小は避けられないと書いている。同じ記事は、電気通信工事10社が2018年4月下旬から5月上旬にかけて相次いで経営統合を発表した事実を伝えた。光への置き換えを終えつつある固定系の工事量をどう埋めるかが、業界再編の理由の一つに挙げられた[14]

数字でも同じことが示されている。2022年5月の決算説明資料は、光ファイバの世帯カバー率を2021年度末99.7%、2024年度末99.85%、2027年度末99.9%と並べた。残りは0.3ポイントに満たない。1982年に初めて1件を請け負った工種は、40年でほぼ全世帯に届いた。コムシスグループの通信キャリア事業はその先に、5G基地局の整備、旧サービスの設備撤去、データセンターの電気設備といった別の工事を並べている[15][16]

出典・参考
  • 証券アナリストジャーナル 第5巻第11号(1967年11月)「電気通信建設業界と日本通信建設」
  • 証券アナリストジャーナル 第28巻第11号(1990年11月)「ジェイコス株式会社」講演要旨
  • 月刊経済 第42巻第2号(1995年2月)「企業分析 日本コムシス」
  • 週刊東洋経済 2011年11月29日号「通信工事の過当競争 スマホでキャリアは大儲け でも工事会社は“豊作貧乏”」
  • 週刊東洋経済 2018年6月2日号「ニュース深掘り 上意下達の再編 「電電ファミリー」いまだ健在」
  • 日本コムシス公式サイト(沿革)
  • コムシスホールディングス 有価証券報告書(連結財務諸表)
  • コムシスホールディングス 2022年3月期 決算説明資料
  • コムシスホールディングス 2023年3月期 決算説明資料
  • 日本通信建設 会社年鑑(単体業績)

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