卵黄レシチンでファインケミカルへ進出(1981年・キユーピーの決断)

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論点 卵を食品以外の原料に加工するか
キユーピー:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
マヨネーズの卵を医薬品や化粧品の原料にも加工する事業の開始

何をなぜ決めたか:マヨネーズの卵を医薬品や化粧品の原料にも加工する事業の開始

概要

1981年12月、キユーピーはファインケミカル分野へ進出し、卵黄レシチンなどの製造を開始した。マヨネーズの主原料である卵から成分を取り出し、医薬品・化粧品・食品の原料として販売する事業である。その4年前の1977年5月には、卵素材品の販売部門を分離してキユーピータマゴを設立していた。

この2つの決断で、卵の外販は2つの系統に分かれた。液卵・凍結卵・乾燥卵などの素材品は業務用の市場へ、ヒアルロン酸や卵黄レシチンなどの原料はファインケミカルの市場へ向かう。2025年11月期のファインケミカルは、売上高11,836百万円・営業利益712百万円の報告セグメントになっている。

背景

キユーピー マヨネーズは卵黄を使う製品で、450グラムに卵黄3.6個分が入る。卵黄に含まれる脂質のうち約30%はリン脂質と呼ばれる成分である。したがって、マヨネーズを作るほど卵白と卵殻が残る。卵殻の発生量は現在も年間約2万8千トンにのぼり、キユーピーは1950年代から卵殻の再生利用に取り組んできた。

進出の直前、卵はすでに大きな事業だった。1979年11月期の卵製品の売上高は18,973百万円で、単体の売上高107,069百万円の18%を占めた。キユーピータマゴは全額出資の関係会社である。一方、単体の経常利益は1979年11月期の43.82億円から、1980年11月期には25.56億円へ減少していた。

内容

1981年12月の進出で、最初に製造したのは卵黄レシチンなどだった。その1981年11月期の単体の売上高は1,266億円、経常利益は26.82億円である。卵製品の売上高に比べると、新しい事業は小さな規模から始まった。

その後、卵黄レシチンは製剤の技術に応用された。2005年11月期には、卵黄レシチンを使った製剤化(リポソーム化)の技術で、化粧品用のコエンザイムQ10製剤と食品用のラクトフェリン製剤を発売した。同じ期に、キユーピー醸造が発酵法でヒアルロン酸を製造し、化粧品メーカーへ納入している。当時のファインケミカルはタマゴの区分に含まれ、ヒアルロン酸の伸びがタマゴの増収要因の1つに挙がった。

含意

素材は卵黄から卵白・卵殻膜へ広がった。2016年11月期には、医薬用原料の高分子の発酵ヒアルロン酸を国内外で販売し始め、卵白由来の加熱変性リゾチームを配合した除菌スプレー「K Blanche」を通信販売で発売した。2018年11月期にはヒアルロン酸を使った初の医療機器「ケイスマート」を開発し、2020年11月期には卵殻膜由来の化粧用原料「EMlastic」を発売した。

ただし、事業の規模は10年で大きく変わっていない。ファインケミカルの売上高は2015年11月期の11,311百万円から2020年11月期に7,942百万円まで減り、2025年11月期に11,836百万円へ戻った。2025年11月期は医薬原料の販売数量が減り、通信販売の好調で補った。連結売上高513,417百万円に占める比率は2.3%である。

いつ何が起きたか 12件
考察:卵の量に支えられた原料事業
考察

考察:卵の量に支えられた原料事業

なぜ食品の外へ出たのか。卵黄を使うマヨネーズは、作るほど卵白と卵殻が残る製品である。そのうえ卵製品は単体の売上高の18%を占め、キユーピーは卵を大量に扱う会社だった。食品として売る限り、卵の価値は食品の価格で決まる。成分まで分ければ、医薬品や化粧品という価格の違う市場に出られる。経常利益が25.56億円へ減少した直後の進出は、主原料の価値を引き上げる手段として選ばれたと思われる。

もっとも、この事業の強みは、本業が大量の卵を使い続けるという前提の上に立つ。卵黄レシチンも卵殻膜も、マヨネーズの生産量があってこそ安く集まる。一方で、2005年にはヒアルロン酸を発酵法で製造しており、原料はもはや卵に限らない。卵から離れた素材ほど、医薬や化学の専業と同じ市場で競うことになる。2025年11月期に医薬原料の数量減を通信販売で補ったのは、その表れだろう。原料の供給者にとどまらず、自ら消費者へ売る販路を持つことが、専業との差を保つ条件になっているとみられる。

進出から現在までの到達点は、部分的な成功である。ファインケミカルは2015年11月期から2025年11月期までの11期すべてで営業黒字を計上し、2018年には医療機器まで素材を広げた。しかし2025年11月期の売上高11,836百万円は2015年11月期の11,311百万円とほぼ同じで、連結売上高に占める比率は2.3%にとどまる。卵の成分を医薬品・化粧品の原料に変える仕組みは根づいたが、収益の主軸には育っていない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

キユーピー:キユーピー(単体)の売上高と経常利益

売上高(億円)経常利益率(%)

単体の経常利益は進出前年の1980年11月期に25.56億円へ減少

キユーピー:キユーピー(単体)の売上高と経常利益
(億円) 売上高経常利益 備考
1977年11月期 1,00232.53 5月に卵素材品の販売部門を分離し、キユーピータマゴを設立
1978年11月期 1,08339.43
1979年11月期 1,07143.82 卵製品の売上高は18,973百万円で、単体の売上高の18%
1980年11月期 1,17025.56
1981年11月期 1,26626.82
1982年11月期 1,30232.04 期初の1981年12月にファインケミカル分野へ進出
1983年11月期 1,32543.04
1984年11月期 1,384− 売上高は帝国銀行会社年鑑で照合。経常利益は1986年版の誌面の文字起こしが無く照合できていない
出所:会社年鑑 1985年版(日本経済新聞社)キユーピーの項・単体(1977〜1983年11月期)。1979年11月期の卵製品は1981年版 / 帝国銀行会社年鑑 第66版(1986)別冊(1984年11月期の売上高)
出所:会社年鑑 1985年版(日本経済新聞社)キユーピーの項・単体(1977〜1983年11月期)。1979年11月期の卵製品は1981年版 / 帝国銀行会社年鑑 第66版(1986)別冊(1984年11月期の売上高)

キユーピー:ファインケミカルの売上高と営業利益

売上高(百万円)営業利益率(%)

売上高は2025年11月期に11,836百万円と、10年前とほぼ同じ水準

キユーピー:ファインケミカルの売上高と営業利益
(百万円) 売上高営業利益 備考
2015年11月期 11,311350 通信販売会社を連結子会社化し増収、コスト増で減益
2016年11月期 10,8631,031
2017年11月期 10,593864
2018年11月期 10,0351,269 翌期の有報では組替後の営業利益を1,459と表示
2019年11月期 8,3481,236
2020年11月期 7,9421,156 ヒアルロン酸の販売不振により減収減益
2021年11月期 8,7701,075
2022年11月期 10,0131,267
2023年11月期 11,1701,040
2024年11月期 11,382572
2025年11月期 11,836712 医薬原料の数量減を通信販売の好調で補い増収増益
出所:キユーピー 有価証券報告書 第103〜113期(セグメント別の売上高・営業利益。各期の当期欄)
出所:キユーピー 有価証券報告書 第103〜113期(セグメント別の売上高・営業利益。各期の当期欄)
参考文献

参考文献

参考
  • キユーピー 有価証券報告書 第113期(2025年11月期)【沿革】
  • キユーピー 有価証券報告書 第113期(2025年11月期)【セグメント情報】
  • キユーピー 有価証券報告書 第113期(2025年11月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
  • 会社年鑑 1981年版(日本経済新聞社)キユーピーの項
  • 会社年鑑 1985年版(日本経済新聞社)キユーピーの項
  • キユーピー 有価証券報告書 第93期(2005年11月期)【研究開発活動】
  • キユーピー 有価証券報告書 第93期(2005年11月期)【業績等の概要】
  • キユーピー 有価証券報告書 第104期(2016年11月期)【研究開発活動】
  • キユーピー 有価証券報告書 第106期(2018年11月期)【研究開発活動】
  • キユーピー 有価証券報告書 第108期(2020年11月期)【研究開発活動】
  • キユーピー 有価証券報告書 第103期(2015年11月期)【業績等の概要】・第108期(2020年11月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
  • キユーピー 有価証券報告書 第93期(2005年11月期)【主要な経営指標等の推移】
  • キユーピー 有価証券報告書 第103期(2015年11月期)【業績等の概要】
  • 会社年鑑 1985年版(日本経済新聞社)キユーピーの項・単体(1977〜1983年11月期)。1979年11月期の卵製品は1981年版
  • 帝国銀行会社年鑑 第66版(1986)別冊(1984年11月期の売上高)
  • キユーピー 有価証券報告書 第103〜113期(セグメント別の売上高・営業利益。各期の当期欄)
  • キユーピー 公式サイト「沿革」
  • キユーピー 会社案内「マヨネーズ誕生物語」
  • キユーピー 有価証券報告書「第93期(2005年11月期)【主要な経営指標等の推移】【業績等の概要】【研究開発活動】」
  • キユーピー 有価証券報告書「第103〜108期(2015〜2020年11月期)【業績等の概要】【研究開発活動】ほか」
  • キユーピー 有価証券報告書「第113期(2025年11月期)【沿革】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】【セグメント情報】」

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