筆者の見解
安定と進歩をどう両立させるか
この判断の底にあるのは、寡占の首位という安定を、成長を止める理由にしないという意思である。旭硝子は板ガラスで5割のシェアを持ち、作れば売れる事業を抱えていた。その安定に安住せず、研究開発を長期の事業創出へ振り向け、中核技術に連なる周辺事業を一つずつ増やしていった。減量経営のさなかに研究開発の人員だけを増やした判断は、目先の収益より技術の蓄積を優先する経営の性格をよく表していると推察される。
"アミーバ的"という比喩は、多角化に方向を定めすぎない柔らかさを含んでいた。原料へさかのぼる垂直の多角化も、用途を広げる水平の多角化も、なじまない技術を別会社に出す分裂も、いずれも中核のガラス技術から連なっていた。この型は、後にディスプレー用ガラスやフッ素製品を生み、2010年代にはライフサイエンスを含む事業構成の転換にまで及んでいった。安定と進歩をどう両立させるかという問いに、旭硝子は技術を核に事業を増やし続けることで答えようとしたといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月