豊田合成独メテオール社の資産譲受によるシーリング事業の欧州拡張と、5年後の連結除外

欧州の顧客をまとめて買うか、自前で積むか——ウェザストリップ世界首位級メーカーの誤算

時期 2014年1月
意思決定者(推定) 荒島正 社長
論点 欧州事業基盤の獲得と買収後統合
概要
2014年、豊田合成がドイツのゴム部品メーカー、メテオール社の自動車用シーリング事業資産を譲り受け、欧州の完成車メーカー向け基盤を得ようとした判断。5年後の2019年12月に全株式を手放し、連結から外した。
背景
1999年の英国、2000年のベルギー統括会社と拠点は置いていたものの、欧州の生産規模は薄かった。ウェザストリップでは世界首位級を占めながら、ダイムラー・BMW・アウディといった現地の顧客とは取引が細かった。
内容
2014年1月17日にドイツ・ボッケネム市へToyoda Gosei Meteor GmbHを設立し、同年4月30日に資産譲受を完了した。2014年度の売上見込みは約1億4,000万ユーロ、従業員は連結で約1,300名であった。
含意
欧州事業は苦戦が続き、2019年12月30日に独米2社の全株式をドイツのプライベートエクイティファンド傘下企業へ譲渡。事業整理損失216億円を計上し、拡張路線はCASE対応への集中に置き換わった。
筆者の見解

顧客を買うことと、顧客に選ばれること

この取引が示しているのは、製品で世界首位級であることと、その製品を別の商習慣のもとで売り切れることが別だという事実であった。ウェザストリップの設計・生産で高い水準を持つ会社が、同じ製品を作るドイツの会社を引き受けた——技術の重なりだけを見れば無理のない組み合わせで、資産譲受という慎重なスキームまで選んでいる。それでも欧州事業は苦戦が続いた。買えたのは工場と人と顧客名簿までで、現地の完成車メーカーが日本発の系列サプライヤーへ仕事を託す理由までは、資産に含まれていなかったとみることができる。

手放し方には、この会社の性格が出ている。損失を先送りせず、事業ファンドへ現金の受取なしで譲り渡し、216億円を一期で処理した。同じ時期にLED事業も縮小へ向かっており、2018年の「2025事業計画」以降は、地域を足していく拡張から既存事業の収益性へと判断の基準が移っている。2025年の芦森工業の買収が、地域ではなく製品の隣接領域を埋める取引であったことも、この転換の延長線上にある。買収で何を買えるのかを、この5年間はかなり具体的に教えたといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

世界首位級の製品と、薄い欧州

豊田合成は、窓枠などに装着するウェザストリップで世界首位級を占め、エアバッグでは世界4位につけていた。売上高およそ8,000億円の樹脂・ゴム部品メーカーとして、内外装部品を柱に据えている。得意な製品を持ちながら、地域ごとの厚みには差があった。北米はトヨタ自動車の現地生産に沿って1986年から積み上げてきたのに対し、欧州は1999年4月の英国豊田合成、2000年11月のベルギーのTGヨーロッパと統括会社を置いた段階にとどまっていた[1][2]

系列の内側で育った部品メーカーにとって、欧州は取引の入口が遠い市場であった。ドイツの完成車メーカーは自国と近隣のサプライヤーと長い関係を結んでおり、日本からの図面と品質だけで席が空くわけではない。豊田合成が2013年7月にメキシコへ豊田合成ラバーメキシコを設けたように、この時期の同社は地域ごとに生産法人を足していたが、欧州で同じ速度を出すには時間がかかる。既存の供給者を丸ごと取り込む道が検討の対象に入った[3]

メテオール社という相手

相手に選ばれたメテオール社(Meteor Gummiwerke K. H. Baedje GmbH & Co, KG)は、ダイムラー、BMW、アウディなど欧州の完成車メーカーへウェザストリップなどの自動車用ゴム部品を供給するサプライヤーで、ドイツと米国に拠点を持っていた。豊田合成が求めていた顧客名簿と、現地で製品を作り続けてきた技術・人材の双方を備えている。譲受の狙いは、欧州自動車メーカーとのビジネスを拡大するとともに、固有技術・ノウハウとそれを支える資源を引き継ぎ、欧州における事業基盤を強くすることに置かれた[4]

規模は、豊田合成の連結売上6,895億円(2014年3月期)に対して小さい。譲り受ける事業の2014年度の売上見込みは約1億4,000万ユーロ、日本円でおよそ200億円、従業員は連結で約1,300名であった。全社の3%に満たない事業の取得で、欧州の顧客と生産の足場が同時に手に入る計算になる。数字の上では手頃な買い物に見えたが、その1,300名を日本の部品メーカーの流儀へどう接続するかという問題が、この取引の実質であった[5]

決断

株式ではなく資産を買う

豊田合成は2014年1月30日にメテオール社の事業資産の譲受を公表し、受け皿となる新会社をドイツに立てた。Toyoda Gosei Meteor GmbH(TGメテオール)は2014年1月17日設立、本社はニーダーザクセン州ボッケネム市、資本金は1,500万ユーロ(約21億円)である。取得の形は株式の買収ではなく資産の譲受で、旧会社に残る債務や過去の係争を新会社へ持ち込まない整理にあたる。資産譲受は同年4月30日に完了し、翌2015年3月期の第1四半期から連結に取り込まれた[6]

経営陣の置き方にも、統合への構えが表れている。TGメテオールの会長には豊田合成常務執行役員の隅田淳氏が就き、社長には前メテオール社CEOのBurkhard Brühl氏が留任した。日本側が資本と管理を握りつつ、現地の顧客との関係と工場の運営は元の経営者に委ねる分担である。生産品目はドアウェザストリップなどのオートモーティブシーリング製品で、豊田合成が世界首位級を占める領域と正面から重なっていた[7]

拡張の路線とその終わり方

この買収は、地域を足し算で埋めていく当時の路線に沿っていた。2013年7月のメキシコ、2014年4月のドイツと米国と、生産法人が続けて増えている。譲受にあわせて米国側にはメテオールシーリングシステム有限会社が置かれ、ドイツのTGメテオールの子会社となった。欧州と米州のシーリング事業を一体で抱える構えで、豊田合成にとっては初めて欧州系完成車メーカーを主要顧客とする事業を持つ取引でもあった[8]

もっとも、拡張の路線は長くは続かなかった。2014年6月に社長へ就いた宮﨑直樹氏は、2018年5月の中長期経営計画「2025事業計画」で連結売上1兆円・営業利益率8%・ROE10%を2025年度の目標に掲げ、コネクテッドや電動化への対応と、採算の合わない事業の整理を重点に据えた。買収で地域を埋める考え方から、既存事業の収益をどう立て直すかへ判断の基準が移り、欧州のシーリング事業はその見直しの対象に入った[9]

結果

5年で手放すまで

2019年11月22日、豊田合成はドイツの生産子会社である豊田合成メテオールとその子会社メテオールシーリングシステムの全株式を、ドイツの事業ファンド傘下企業SCUR-Alpha1123 GmbH(のちAEQPH GmbHへ社名変更)へ譲渡すると公表した。理由として挙げられたのは、欧州事業では苦戦が続いており改善策を検討した結果という一文である。対象2社の従業員はドイツ1,359名、米国315名の計約1,674名で、買収時の約1,300名から増えていた。譲渡は2019年12月30日付で完了している[10][11]

損失は決算にそのまま出た。支配の喪失に伴って認識した事業整理損失は216億円(21,615百万円)で、連結損益計算書の「その他の費用」に含めて計上されている。公表時に見込まれていた費用は210億円であり、確定額はこれを上回った。支配喪失時の資産は流動資産213億円・非流動資産33億円、負債は流動43億円・非流動125億円で、受取対価は0円であった。売却で現金が入るどころか、手元の現金及び現金同等物114億円が連結の外へ出ている[12][13]

決算への波及と、その後の欧州

2020年3月期の連結売上収益は8,129億円(前期比3.3%減)、営業利益は178億円(同51.0%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益は112億円(同51.8%減)となった。減益の要因として有価証券報告書が挙げたのは、新型コロナウイルスによる減販に加えて、豊田合成メテオールの事業整理損失であった。損失は日本セグメントに計上され、同セグメントは前期の利益110億円から50億円の損失へ転じている。翌2021年3月期には、この損失の反動が増益要因として働いた[14]

会社側はこの譲渡を、収益構造改革に一区切りをつけ、今後の企業価値向上に資する処理と説明した。以後の欧州は、生産で稼ぐ地域というより小さな販売・技術の拠点として残る。2025年3月期の欧州・アフリカの売上収益は312億円で、連結1兆598億円の3.0%にとどまり、米州の4,005億円、日本の4,027億円とは桁が違う。欧州の完成車メーカーを顧客として抱える構想は、5年の試行と216億円の損失を経て、いったん取り下げられた[15][16]

出典・参考

免責事項およびポリシー