GMOペイメントゲートウェイマレーシアMACROKIOSKの全株式譲渡による撤退
4年前に70%を買った会社を、創業者へ返すまでに何が起きたか
- 概要
- 2020年4月30日、GMOペイメントゲートウェイは取締役会でマレーシアの連結子会社Macro Kiosk Berhad(MACROKIOSK)の全株式譲渡を決議し、同日付で株式譲渡契約を締結した。2016年8月に議決権70.0%を約1,121百万円で取得してから3年8か月での撤退にあたる。
- 背景
- 2012年10月のシンガポールを皮切りに、香港・マレーシア・台湾・タイへ拠点を広げていた。MACROKIOSKはSMSモバイルソリューションとキャリア課金を手がけ、世界37カ国・2,000社以上の顧客を持つ企業として、東南アジアでの決済サービス提供の足場に想定された。
- 内容
- 事業計画は買収当初の中期計画に届かず、2019年9月期にのれん527,060千円を含む992,503千円を減損し、帳簿価額を回収可能価額336,974千円まで減額した。2020年4月に全株式をGoh Chee Ken氏ら3氏へ譲渡し、貸付金・未収利息約10億円を債権放棄した。
- 含意
- 譲渡は2020年5月18日に完了し、2020年9月期には追加減損115,793千円と株式売却損172,466千円を計上。同社の損益は非継続事業へ区分され、継続事業ベースの2020年9月期は売上収益33,046百万円・営業利益10,388百万円で計画を達成した。
買った値段と、返した条件
数字だけを並べると、支出の全体像が見える。2016年に議決権70.0%へ支払った約1,121百万円、2019年9月期の減損992,503千円、2020年9月期の追加減損115,793千円と売却損172,466千円、そして貸付金・未収利息の約10億円の債権放棄。取得した持ち分の対価より、その後に貸して手放した資金のほうが大きい。EMS事業とキャリア課金という、日本国内で積み上げてきたカード決済の処理とは技術も規制も異なる商売を、70%の持ち分と派遣取締役で動かす設計であった。
撤退の後、海外への関わり方は変わっている。現地企業を連結して自ら経営するのではなく、出資と提携で関係を保ち、必要があれば持ち分ごと売る形に寄った。タイ・シンガポールの2C2Pへの累積出資は、2022年9月期の全株式譲渡で売却益として戻ってきている。Macro Kiosk Berhadの株式は、2016年に約1,121百万円で7割を買った相手——創業者のGoh Chee Ken氏ら3氏の手に、債権放棄を添えて返された。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
東南アジアに敷いた拠点網
海外への足の伸ばし方は、2012年から数年で形になっていた。同年10月にシンガポールへGMO PAYMENT GATEWAY PTE. LTD.を設立し、2013年9月に香港、12月にマレーシア、2014年2月に台湾、5月にタイへと拠点を置いている。2013年10月にはGMO VenturePartnersと共同でGMO Global Payment Fund 投資事業組合を設立し、決済関連の新興企業へ出資する枠組みも用意した。域内に会社を並べ、出資で関係をつくり、そのうえで事業を拡げる順序であった[1]。
財務の裏づけも整っていた。2015年6月の三井住友フィナンシャルグループ・三井住友銀行との資本業務提携にあわせた第三者割当増資で約80億円を調達し、2016年9月には対面決済のGMOフィナンシャルゲートを子会社化している。国内で決済の商流を広げる一方、海外では現地企業を連結に取り込む段階へ進もうとしていた。マイノリティ出資から始めて事業提携の実績を積み、必要に応じて子会社化するという手順が、この時期の同社の型になっていた[2]。
買った相手はSMSの会社であった
2016年8月30日、GMOペイメントゲートウェイはマレーシアのMacro Kiosk Berhadの株式を取得することで合意したと発表した。同社は2000年7月1日設立、資本金500万マレーシアリンギット(約125百万円)でクアラルンプールに本社を置き、アジア・中東の12カ国・地域に拠点を構えていた。顧客は世界37カ国・18業種で2,000社以上に及ぶ。手がけていたのはSMSによる認証・通知を提供するEMS事業と、通信料金と合算して代金を回収するキャリア課金の事業であった[3][4]。
取得したのは議決権の70.0%で、取得価額はアドバイザリー費用等を含めて約1,121百万円であった。狙いとして掲げられたのは、日本のEC事業者の海外進出支援にとどまらず、東南アジアの現地銀行や大手企業へ決済サービスを提供するところまで事業を広げることである。連結上は決済活性化事業のセグメントに置かれ、2016年9月期はみなし取得日を期末としたため貸借対照表のみを連結した。損益の取り込みは翌期からとなる[5][6]。
決断
2019年9月期、のれんまで全額を落とす
取り込んだ事業は当初の見込みから外れていった。本拠地マレーシアではEMS事業が減速し、モバイル決済のMPS事業は各国の通信事業者に対する規制強化と技術変化で決済処理金額が減り続けた。次の重点市場と位置づけたベトナムなどの新興国ではサービスを広げて売上収益こそ増えたものの、事業基盤の構築に向けた先行投資の費用負担が重かった。2019年9月期の決算説明資料は「MACROKIOSK社の事業計画遅延による減損損失(-約9億円)」を営業利益の減少要因として挙げている[7]。
有価証券報告書の記載は、より踏み込んでいる。中期的な収益創出の見込みに不確実性があると判断し、当該資産の帳簿価額を回収可能価額336,974千円まで減額したうえで、のれん527,060千円・技術資産123,331千円・ソフトウェア123,090千円・顧客関連資産121,204千円・その他97,816千円の合計992,503千円を減損損失として計上した。のれんを含む主要な無形資産は帳簿価額の全額が落とされている。使用価値の算定に用いた永久成長率は2.3%、割引率は14.3%であった[8]。
創業者3氏へ戻す
2020年4月30日、取締役会はMacro Kiosk Berhadの全株式を譲渡することを決議し、同日付で株式譲渡契約を締結した。譲渡先は同社の役員であるGoh Chee Ken氏、Goh Chee Heng氏、Goh Chee Seng氏の3名で、2016年に買い取った70%の持ち分がそのまま創業者側へ戻った。譲渡にあたっては、同社に対する貸付金と未収利息の約10億円を債権放棄している。譲渡価額は公表されていない。譲渡は2020年5月18日に完了した[9][10]。
譲渡時点のMACROKIOSKは、売上高50億5,000万円に対して営業損益が2億3,500万円の赤字、純資産は2億1,100万円の債務超過であった。事業規模そのものは小さくない。それでも債務超過の改善に見通しが立たない状態が続き、譲渡の理由は同社の債務超過状態の改善と事業の発展を目指すことに置かれた。買い手を外部に探すのではなく、事業を最もよく知る創業者へ債権放棄付きで返すという選び方をしている[11][12]。
結果
非継続事業へ寄せた決算
連結範囲からの除外に伴い、2020年9月期第3四半期からMACROKIOSKの事業は非継続事業へ区分された。同期の非継続事業は収益3,858,555千円・費用4,016,892千円で、当期損失は179,198千円。うち株式譲渡による売却損が172,466千円を占める。前期に無形資産を落とし切った後も、当期中に新たに計上した使用権資産85,336千円などを全額回収不能と判断し、115,793千円を追加で減損した。現金及び現金同等物を控除した株式譲渡による純支出は968,256千円であった[13][14]。
過年度の数字も組み替えられた。2019年9月期の売上収益は当初開示の32,121百万円から、MACROKIOSK分5,199百万円を除いた26,922百万円へ、営業利益は8,301百万円から9,562百万円へと変わっている。連結から外れたことで、営業利益はむしろ増える組み替えとなった。継続事業ベースの2020年9月期は売上収益33,046百万円・営業利益10,388百万円で全項目が計画を上回り、配当は前期実績より16円増の52円となった。海外の組み立ては、その後タイ・シンガポールの2C2Pなどへの出資を積み上げる形へ移り、2C2P株式は2022年9月期に全株式を譲渡して売却益を計上している[15][16]。
- GMOペイメントゲートウェイ 有価証券報告書 第23期(2016年9月期)
- GMOペイメントゲートウェイ 有価証券報告書 第27期(2020年9月期)
- GMOペイメントゲートウェイ 有価証券報告書 第28期(2021年9月期)
- GMOペイメントゲートウェイ 有価証券報告書 第32期(2025年9月期)【沿革】
- GMOペイメントゲートウェイ 決算説明資料(2019年9月期・2020年9月期・2022年9月期)
- GMOペイメントゲートウェイ ニュースリリース(2016年8月30日)「マレーシアでモバイル決済・認証・ノーティフィケーションを一括提供する世界最大級の企業、MacroKiosk(マクロキオスク)社をグループ化」
- 日本M&Aセンター M&Aニュース(2016年8月30日・2020年4月30日)
- M&A Online(2020年4月30日)「GMOペイメントゲートウェイ<3769>、モバイル決済関連サービスのマレーシア子会社を譲渡」