アリアケジャパン米国子会社ARIAKE U.S.A.の全株式をKerryへ譲渡し米国市場から撤退
最初の海外拠点を抱え続けるか、売って中国とアセアンへ振り向けるか
- 概要
- 2018年12月14日、アリアケジャパンは連結子会社ARIAKE U.S.A., Inc.の保有全株式を米Kerry Holding Co.へ譲渡すると公表し、2019年3月29日付で譲渡を完了した。1985年に設けた最初の海外拠点からの撤退である。
- 背景
- 2017年のアマゾンによるホールフーズ買収以降、米国の食品市場ではコスト競争が激化した。同社の米国事業でも従来の液体商品から安価なスプレー品への代替が進み、大手他社の参入やオーガニック商品の需要増で原料調達も難しくなっていた。
- 内容
- 譲渡価格は約200億円で、純資産の3.5倍にあたる水準。Kerry社はARIAKE U.S.A.の重要顧客であった。得た資金は2桁成長の続く中国と、日本企業の進出が多いアセアンへの投資に振り向ける方針が示された。
- 含意
- 2019年3月期に子会社株式売却益として単体173億円・連結133億円を特別利益に計上し、期末配当も増額された。5年後の2024年7月には同名の現地法人をバージニア州に新設しており、撤退は北米そのものの放棄ではなかった。
高く売れる事業を、なぜ手放したか
この譲渡で目を引くのは、赤字の整理ではなかった点である。ARIAKE U.S.A.は売上高60億円に対して営業利益14億8,000万円を稼いでおり、譲渡価格は純資産の3.5倍にあたる約200億円であった。手放す理由として説明されたのは足元の損益ではなく、この先の競争条件——液体から安価な粉体への代替、大手他社の参入、原料調達の難化であった。買い手が重要顧客であったことは、事業の価値を最も高く評価する相手が誰かを示していたとみることができる。稼げているうちに、稼ぎ方が変わる前に売るという判断であった。
もっとも、その後の展開は、この撤退が北米という市場そのものへの評価ではなかったことも示している。5年後の2024年、同社は同じバージニア州に同名の法人を再び置いた。手放したのは工場と顧客基盤を抱えた重い事業であり、市場への関心までは畳んでいなかったとみられる。1985年の進出から数えれば、米国は同社にとって34年抱えた最初の海外拠点であった。それを一度きれいに売り、必要になればまた入る——資本効率で海外の配置を組み替える経営が、創業者の世代を離れた後にどこまで一貫するかは、これからの中国・アセアン投資の帰趨にかかっているとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
最初の海外拠点としての米国
アリアケジャパンにとって米国は、海外で最初に足場を築いた市場であった。1985年2月に米カリフォルニア州へ子会社ARIAKE U.S.A.を設立し、1990年9月にはバージニア州ハリソンバーグ市に自社工場を建てている。1992年の講演で岡田甲子男社長は、バージニア工場の本格稼働と合わせて日米欧亜の4極販売拠点の構築をめざすと述べ、国際競争力を確保するための国際化を経営方針に掲げていた。畜産エキスの抽出という自社技術を、国内で確立した後に持ち出した先が米国であった[1][2]。
その後の30年で、海外の拠点は米国以外へ広がった。1994年12月に中国・山東省へ青島有明食品有限公司を設立し、2003年3月にフランス、2004年1月にベルギーへ現地法人を設け、2006年5月には台湾の東幸食品を買収している。2008年6月にはベルギーとフランスで自社工場が竣工し、2013年11月にはオランダのHenningsen Nederlandを買収して欧州3拠点となった。連結売上高は2011年3月期の270億円から2016年3月期に464億円、2019年3月期には566億円へ伸び、海外の生産能力は欧州が厚みを持つ構成へ変わっていた[3][4]。
決断
米国市場で採算が合わなくなった
2018年12月14日、アリアケジャパンはARIAKE U.S.A.の保有全株式をKerry Holding Co.へ譲渡すると公表した。1週間後の12月21日に開かれたアナリスト・機関投資家向けの臨時説明会で、田川智樹社長は判断の理由を説明している。2017年にアマゾンがホールフーズを買収して以降、米国の食品市場ではコスト競争が激しくなり、購買部門の強化や企業の不採算部門の解体がかなりの速さで進んでいた。同社の米国事業でも従来の液体商品から安価なスプレー品への代替が起き、大手他社の参入やオーガニック商品の需要増によって原料の調達も難しくなりかけていた[5]。
譲渡の条件は、撤退という言葉から想像されるものとは異なっていた。譲渡価格は約200億円で、田川社長はこれを純資産の3.5倍にあたり、当年度の利益予想値をもとに勘案しても妥当だと説明している。譲受側のKerry社は連結売上高8,000億円規模の国際的な会社であり、しかもARIAKE U.S.A.の重要顧客であった。両社が歩み寄った結果としてそれぞれの思惑が一致したという経緯である。報道によれば、ARIAKE U.S.A.の売上高は60億円、営業利益は14億8,000万円、純資産は50億円であった[6][7]。
売った資金を中国とアセアンへ
説明会で田川社長が語ったのは、売却そのものよりも、その先の投資であった。アリアケグループには長期を見据えた新たな経営基盤が必要であり、2050年までに米国の国内総生産はインドに抜かれ、経済新興諸国の成長が注目されている。そのなかで2桁の伸びが続く中国へ投資するという説明である。中国の消費者向け市場は規模が大きく、既存の業務用事業に加えて消費者向け事業も進める方針が示された。現地企業と組んでブランド化を進めるには今が投資の時期であり、売上高1,000億円構想を成就させるため中国の新工場建設や組織の拡充といった大型投資を計画するとした[8]。
出席した投資家からは、米国を手放すことによる懸念も出た。原料調達が不足しないかという問いに対して、田川社長は工場を増設したベルギー工場やフランス工場からの調達で十分に賄えると答え、販売ルートを多く持つKerry社との協業はむしろ調達面の利点になるとした。シナジーの時期を問われた際には、具体的な答えは難しいとしたうえで、売上高1,000億円という目標が中国・アセアン等への選択と集中によって達成の確度を上げると述べている。アセアン諸国には日本から進出した企業も多く、その原料供給をグループが担うことを期待されているという説明も添えられた[9][10]。
結果
133億円の売却益と、5年後の再設立
株式の譲渡は2019年3月29日付で完了した。同年4月26日の開示によれば、これに伴う会計処理として2019年3月期に子会社株式売却益を単体で173億円、連結で133億円計上する見込みとなった。会社は同時に通期業績予想を修正し、親会社株主に帰属する当期純利益の予想を88億28百万円から164億円へ引き上げている。期末配当も1株46円から11円増やして57円とし、中間配当と合わせた年間配当は77円となった。実績では2019年3月期の連結売上高566億円、経常利益125億円、当期純利益167億円を記録した[11][12]。
米国を離れた後の投資は、説明会で示された方向へ向かった。中国では2024年7月に日照有明食品有限公司を新設して生産能力を広げ、同月にはインドネシア西ジャワ州へPT.Ariake Europe Indonesiaを設けている。一方で同じ2024年7月、同社は2019年に売却した法人と同名のARIAKE U.S.A., Inc.をバージニア州に新規設立した。5年を経ての米国再参入である。2021年4月に社長へ就任した白川直樹氏は2030年までに連結売上高1,000億円を掲げ、国内500億円・海外500億円という内訳を示した。連結売上高は2026年3月期に669.6億円、経常利益は137.6億円に達している[13][14][15]。
- アリアケジャパン「平成30年12月21日開催「株式譲渡に関する主旨説明会」の主な説明内容及び質疑応答内容の要旨」
- アリアケジャパン「特別利益の計上、通期業績予想の修正及び配当予想の修正(増配)に関するお知らせ」(適時開示, 2019年4月26日)
- M&A Online(2018年12月14日)「アリアケジャパン<2815>、天然調味料製造の米子会社を同業の米Kerry Holdingに譲渡」
- 証券アナリストジャーナル 1992年1月号 別冊付録「企業」アリアケジャパン(岡田甲子男 社長)
- アリアケジャパン 有価証券報告書【沿革】
- アリアケジャパン 有価証券報告書(2019年3月期・連結)
- 日本食糧新聞 月刊食品工場長317号(2023年9月1日)「トップインタビュー アリアケジャパン・白川直樹社長」