この投資の要点は、金額の大きさよりも、まだ立っていない需要に対して先に受け皿を用意した点にあると推察される。1996年の時点で液体エキスの市場は小さく、コンビニ総菜も外食チェーンの調理標準化も、これから広がる話であった。需要が確認できてから設備を建てれば、稼働までの2年で商機は他社に移る。逆に、需要が来なければ年商の7割にあたる資産が遊ぶ。不況期は建設費が安いという読みは、その賭けの分の値引きを取りにいく計算でもあったと思われる。
もうひとつ見えるのは、衛生と自動化という工場の仕様が、そのまま取引条件になったことである。コンビニや外食の本部が原料に求めるのは味だけでなく、事故を起こさない裏づけであった。抗菌仕様の壁もエアシャワーも、本来は製造上の必要から来た設備でありながら、見学に来たバイヤーを納得させる材料として働いた。設備投資を能力の増強と捉えるか、顧客に示す信用の形と捉えるか——この工場の経緯は、後者の効き方が大きい業種のあることを示している。