「ホライズンプロジェクト」撤退(2019年・日立製作所の決断)

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論点 英国原発の建設を凍結するか
日立製作所:業績の推移
売上高(億円)税引前利益率(%)
英国での原発事業の凍結と、海外原発路線の断念

何をなぜ決めたか:英国での原発事業の凍結と、海外原発路線の断念

概要

事業を続ける前提となる資金調達の仕組みや、原子力発電所の建設・運営の諸条件で合意に達するには、なお時間がかかると日立は判断した。民間の企業として採算に見合わないとみて、2019年1月17日の取締役会で英国原子力発電所建設プロジェクトの凍結を決め、その経緯を東原敏昭社長は 『資金調達モデルなどの諸条件について合意に至るには、想定以上の時間を要すると判断し、今回、民間企業としての経済合理性の観点から、ホライズンプロジェクトの凍結を決定しました』 と説明している。

2019年3月期には、社会・産業システムセグメントに事業構造改革関連費用294,613百万円を計上し、うち277,208百万円がプロジェクト関連資産の減損損失だった。

背景

英国で原子力発電事業の開発を行うホライズンを取得したのは2012年11月23日。日立はこの取得で、のれん31,945百万円を計上した。受け入れた無形資産の中心は、原子力発電所を建てて運営するのに要る認可の取得にかかわるものである。売り手はRWE npower plc及びE.ON UK plcで、発行済全株式54,000,000,200株を88,886百万円で買い取り、議決権の100%を得て完全子会社にした。

発電所は、日本で建設と運転の実績がある改良型沸騰水型原子炉(ABWR)を土台に、規制とコストの面で英国向けに手直しした2基で建てる計画だった。その英国版ABWRは2017年、英国の規制当局による包括的設計審査(GDA)の認可を得て、技術面で認められた。

内容

2018年には英国政府との間で資金調達モデルに関する協議を本格化したが、諸条件の合意には至らなかった。2018年3月末のホライズンの有形固定資産は帳簿価額181,329百万円で、原子力発電所用地等の土地が58,995百万円(4,430千㎡)、建設仮勘定が120,977百万円を占めていた。

凍結により、建設仮勘定及び土地等に206,799百万円、のれん及びその他の無形資産に70,409百万円の減損損失を計上し、本プロジェクトに関するのれん及びその他の無形資産は全額を減損処理した。減損後の回収可能価額は、処分費用控除後の公正価値で2,494百万円。この減損損失は税務上は損金に算入されず課税所得はむしろ増加し、法人所得税費用は前年度に比べて546億円増えた。

含意

2019年3月期の減損損失は全社で344,997百万円と前年度の48,656百万円の7倍に膨らみ、事業構造改革関連費用も380,846百万円に達した。それでも親会社株主に帰属する当期利益は2,225億円の黒字を保ち、総資産は本プロジェクトの関連資産の減損などにより4,800億円減って9兆6,265億円となった。

単体では、HITACHI NUCLEAR PROJECTS DEVELOPMENT EUROPE LIMITED株式の評価損286,710百万円を関係会社株式評価損に計上している。ホライズンは2019年3月期に主要な関係会社の一覧から外れ、HORIZON NUCLEAR POWER SERVICES LTD.向けの保証債務1,621百万円も2020年3月末には計上がなくなった。

いつ何が起きたか 6件
考察:見切りの巧拙と、社会インフラの選択
考察

考察:見切りの巧拙と、社会インフラの選択

この判断の芯にあるのは、いつ見切るかという問いであった。294,613百万円という費用は、最終投資判断にも至らず、1基も着工していない計画に投じられたものである。2012年に88,886百万円で取得した会社が、6年で3倍を超える損失に化けた。それでも、諸条件の合意にさらなる時間を要すると見た時点で止めたのは、これ以上費用が積み上がる前に断つという意味で理にかなった選択だったと思われる。

もっとも、そもそもこの計画を抱えたこと自体、あるいはもっと早く手を引く余地がなかったかという問いは残る。日立は同じ時期に上場子会社の切り離しや火力・送配電の再編を進め、経済合理性を軸に事業を組み替えていた。国策色の濃い英国の原発新設だけが、その物差しの外に長く置かれていたようにも見える。撤退が原子力事業そのものの終わりではない以上、技術の維持という課題を一民間企業がどこまで背負うのかは、なお答えの定まらない問いとして残ったのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

日立製作所:減損損失と事業構造改革関連費用の推移

減損損失(百万円)
日立製作所:減損損失と事業構造改革関連費用の推移
(百万円) 減損損失事業構造改革関連費用 備考
2014年3月期 43,116− 第145期は米国会計基準で開示。値は翌期有報のIFRSによる比較数値
2015年3月期 42,109− 第146期からIFRS。同種の費用はリストラクチャリング費用26,680として計上
2016年3月期 44,78190,312
2017年3月期 68,58796,289
2018年3月期 48,65664,384
2019年3月期 344,997380,846 本プロジェクトの凍結に伴う減損損失277,208と関連費用294,613を含む
2020年3月期 136,993159,086 南アフリカプロジェクトに係る和解に伴う損失375,967を別に計上している
2021年3月期 109,009128,715
2022年3月期 35,09143,861
2023年3月期 129,894139,217
2024年3月期 29,66849,111
出所:日立製作所 有価証券報告書 第146期〜第156期(その他の収益及び費用)
出所:日立製作所 有価証券報告書 第146期〜第156期(その他の収益及び費用)

日立製作所:原子力事業を含む報告セグメントの推移

日立製作所:原子力事業を含む報告セグメントの推移
(百万円) 売上収益EBIT 備考
2019年3月期 377,855△298,041 翌期有報の組替後。当期有報では社会・産業システムセグメントに含まれる
2020年3月期 334,220△375,781 南アフリカプロジェクトに係る和解に伴う損失を計上している
2021年3月期 1,054,555△55,567 日立ABBパワーグリッドの連結が2020年7月から加わり規模が変わる
出所:日立製作所 有価証券報告書 第151期・第152期(報告セグメント情報。外部顧客に対する売上収益と、受取利息及び支払利息調整後税引前当期利益)
出所:日立製作所 有価証券報告書 第151期・第152期(報告セグメント情報。外部顧客に対する売上収益と、受取利息及び支払利息調整後税引前当期利益)

凍結の条件と損失の内訳

凍結の条件と損失の内訳
科目 概要 備考
凍結の決議 2019年1月17日 民間企業として経済的に理にかなうかどうかを判断の軸に置き、取締役会で決めた
対象の計画 英国原子力発電所建設プロジェクト 改良型沸騰水型原子炉(ABWR)2基。2017年に英規制当局の包括的設計審査の認可を取得
現地法人 Horizon Nuclear Power Limited イギリス・グロスター。イギリスにおける原子力発電事業の開発を行う
株式の取得日 2012年11月23日 RWE npower plc及びE.ON UK plcから発行済全株式54,000,000,200株を取得
取得の対価 88,886百万円 取得した資産の合計は89,944、引継いだ負債は1,058。うちのれんは31,945
取得した議決権比率 100% 取得日付で完全子会社となった。資本金は876,000千ポンド(2018年3月末)
凍結直前の帳簿価額 181,329百万円 2018年3月末。土地58,995(面積4,430千㎡)と建設仮勘定120,977が大宗を占める
減損損失 277,208百万円 建設仮勘定及び土地等206,799と、のれん及びその他の無形資産70,409の合計
事業構造改革関連費用 294,613百万円 減損損失277,208を含む。社会・産業システムセグメントに計上した
減損後の回収可能価額 2,494百万円 建設仮勘定及び土地等。処分費用控除後の公正価値で2018年12月31日現在
税務上の取扱い 損金不算入 減損損失は税務上損金に算入されず、課税所得はかえって増加した
単体の関係会社株式評価損 286,710百万円 HITACHI NUCLEAR PROJECTS DEVELOPMENT EUROPE LIMITED株式の評価損
英国政府との協議 合意に至らず 資金調達モデルや建設・運営に関する諸条件の合意にさらなる時間を要すると判断
出所:日立製作所 有価証券報告書 第144期(2013年3月期)注30.事業買収及び売却 / 第149期(2018年3月期)【関係会社の状況】【設備の状況】 / 第150期(2019年3月期)注21.その他の収益及び費用、注9.有形固定資産、注10.のれん及びその他の無形資産、損益計算書関係
出所:日立製作所 有価証券報告書 第144期(2013年3月期)注30.事業買収及び売却 / 第149期(2018年3月期)【関係会社の状況】【設備の状況】 / 第150期(2019年3月期)注21.その他の収益及び費用、注9.有形固定資産、注10.のれん及びその他の無形資産、損益計算書関係
参考文献

参考文献

参考
  • 日立製作所 説明会資料「英国原子力発電所建設プロジェクトの凍結について(説明会における冒頭挨拶(要旨))」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第144期(2013年3月期)注30.事業買収及び売却」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第149期(2018年3月期)【関係会社の状況】【設備の状況】」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第150期(2019年3月期)注21.その他の収益及び費用ほか」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第151期(2020年3月期)(報告セグメント情報)」

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