マクニカホールディングス富士エレクトロニクスを吸収合併し事業会社を一本化
持株会社の下で5年半並べた二つの営業組織を、なぜこの時期に一つの法人へ畳んだか
- 概要
- 2020年10月1日、マクニカ・富士エレホールディングスの完全子会社である株式会社マクニカが、同じく完全子会社の富士エレクトロニクス株式会社を吸収合併した。2015年4月の持株会社設立から5年半を経て、国内半導体事業を営む事業会社が1社にまとまった。
- 背景
- 2015年の統合では持株会社の下に二つの事業会社を並べる設計をとり、営業と仕入は従来のまま別法人で続いていた。グループはこの間に重複する販売子会社の整理を先行させ、2017年にアルティマとコージェント、2018年にエルセナをマクニカへ吸収していた。
- 内容
- マクニカを存続会社、富士エレクトロニクスを消滅会社とする吸収合併で、国内半導体事業の組織再編にあたる。合併により株式会社マクニカの取扱メーカー数は約300社、顧客数は約1万8000社へ広がった。持株会社の商号はこの時点では「マクニカ・富士エレホールディングス」のまま据え置かれた。
- 含意
- 翌2021年10月にはマクニカネットワークスも吸収合併され、半導体とネットワークを1法人で運営する体制になった。2022年8月には持株会社の商号がマクニカホールディングスへ変わり、統合の合意から8年で社名の上でも一つになった。
対等の看板を下ろすまでの5年半
2015年の共同株式移転は、相手の顧客名簿とそれを持つ人を失わずに手に入れるための形であったとみられる。であればこの合併は、その形をいつ畳むかという判断にあたる。畳むのが早すぎれば、統合を受け入れた側の営業が離れて取りに行った価値が消える。遅すぎれば、二重の管理費と二つの名簿を抱えたまま半導体の波に乗り遅れる。原一将社長が社長就任の半年後に合併を発表し、実行を2020年10月に置いた時期の選び方には、その両側を見た跡がうかがえる。
5年半という期間の意味は、その後の数字が示している。合併の翌々期に売上高は1兆円を超え、取扱メーカーは約300社、顧客は約1万8000社に広がった。富士エレクトロニクスという社名は2020年10月に法人としては消え、2022年8月には持株会社の商号からも外れた。統合を発表した2014年5月から数えて8年、消えた社名の側が持っていた中堅・中小の顧客は、マクニカの一つの営業組織のなかに残っている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
並立したまま過ぎた5年
2015年4月に発足したマクニカ・富士エレホールディングスは、傘下に事業会社マクニカと富士エレクトロニクスを別法人として並べる設計をとった。共同株式移転という対等の形で統合したため、営業組織も仕入の担当も従来のまま残り、顧客からみれば取引相手の社名は変わらない。持株会社の単位で効いたのは半導体メーカーとの交渉力と取扱ラインアップの広がりで、営業の現場では二つの名簿が別々に運用され続けた[1][2]。
この間、グループは重複する販売子会社の整理を先に進めていた。2017年にアルティマとコージェント、2018年にエルセナが、それぞれ事業会社マクニカへ吸収合併されている。いずれも半導体の販売を担う子会社で、扱う商材や顧客の重なりが大きい。小さい重複から順に畳んでいけば、最後に残るのは統合の相手そのものである富士エレクトロニクスであった[3]。
半導体が伸び悩んだ年に社長が代わる
2019年6月、中島潔社長は持株会社の代表取締役会長に退き、当時48歳の原一将氏が代表取締役社長に就いた。原氏は1995年にマクニカへ入社した生え抜きで、テクスターカンパニーのプレジデント、イノベーション戦略事業本部長を経ての昇格である。持株会社と事業会社マクニカの社長を兼ね、グループの経営と国内事業の運営が一人の手に集まった[4]。
交代の年の業績は半導体側が重かった。2020年3月期の集積回路及び電子デバイスその他事業は売上4,599億円・セグメント利益69億円で、前期の4,703億円・94億円から利益が3割近く減った。米中の貿易摩擦で顧客の設備投資が鈍ったためである。同じ年、ネットワーク事業は売上612億円・利益72億円と伸び、規模で7分の1の事業が利益では半導体を上回った。半導体の商売を効率よく回す仕組みを整え直す必要が、数字の側から示されていた[5]。
決断
存続会社をマクニカとする吸収合併
2019年12月23日、マクニカ・富士エレホールディングスは完全子会社である株式会社マクニカと富士エレクトロニクス株式会社の合併を発表した。株式会社マクニカを存続会社、富士エレクトロニクスを消滅会社とする吸収合併で、国内半導体事業の組織再編にあたる。2015年の統合では避けた優劣の付け方を、5年後にはっきり示す決定でもあった。合併は予定どおり2020年10月1日付で完了している[6][7]。
合併によって株式会社マクニカの取扱メーカー数は約300社、顧客数は約1万8000社へ広がった。2014年の統合発表時に両社合計で示された半導体メーカー約200社・顧客約1万社という数字と比べれば、5年半のあいだにメーカーで1.5倍、顧客で1.8倍に増えている。二つの名簿が一つの法人に載ったことで、富士エレクトロニクスが押さえていた中堅・中小の産業機器メーカーに、マクニカが扱う海外メーカーの商材をそのまま提案できる形が整った[8][9]。
商号は変えずに中身から畳む
事業会社を一つにした時点でも、持株会社の商号は「マクニカ・富士エレホールディングス株式会社」のまま据え置かれた。消滅した会社の名を持株会社に残したまま、営業と仕入の実体だけを先に統合する順序である。商号が「マクニカホールディングス株式会社」へ変わるのは2年後の2022年8月で、事業会社の統合が完了したのを見届けてから対外的なブランドを一つにそろえた[10][11]。
一本化の作業は富士エレクトロニクスで終わらなかった。2021年10月1日、株式会社マクニカはマクニカネットワークスも吸収合併し、半導体とネットワークを一つの法人で運営する体制に移した。狙いは、半導体側のセンサーやアナログの知見と、ネットワーク側のインフラ・セキュリティ・ソフトウェアの経験を掛け合わせ、実世界とサイバー空間の双方に強みを持つ提案を作ることであった。原一将社長は2020年10月の新聞インタビューで、商材の販売から顧客の課題解決へ事業の主力を移す方針を語っている[12][13]。
結果
半導体特需と1兆円
合併の翌期から半導体の需給が反転した。2021年3月期の連結売上高5,540億円・営業利益188億円に対し、2022年3月期は7,618億円・367億円、2023年3月期は1兆293億円・616億円となり、創業から50年を経て初めて売上高1兆円を超えた。集積回路及び電子デバイスその他事業の売上は2021年3月期の4,811億円から2023年3月期の9,290億円へ2年でほぼ倍増し、セグメント利益は96億円から553億円へ5倍以上に伸びた。自動車と産業機器向けの半導体不足のなかで、一つになった営業組織が拡大した需要を受けた[14][15]。
原一将社長は1兆円到達の理由を、代理店契約を結べる商社の数が絞られるなかで品ぞろえの差が開いた点に置いている。海外製の半導体を50年扱ってきた実績と取扱製品の広さが評価され、6年ほど前に業界首位となって以降、1桁台だった国内シェアを伸ばし、2023年3月期には一年で5%押し上げたと述べた。統合と合併で束ねた取扱メーカーの数が、シェアの押し上げに直結した格好である。2024年3月にはルネサス系の半導体商社グローセルを買付総額約221億円のTOBで子会社化し、同じやり方をもう一度重ねた[16][17]。
- マクニカ ニュースリリース 2020年10月1日「合併完了に関するお知らせ」
- マクニカホールディングス 有価証券報告書【沿革】
- マクニカホールディングス 有価証券報告書 第8期(2023年3月期)【役員の状況】
- マクニカ・富士エレホールディングス 有価証券報告書(2016年3月期)
- マクニカ・富士エレホールディングス 有価証券報告書(2020年3月期)
- マクニカホールディングス 有価証券報告書(2023年3月期)
- 日本経済新聞 2014年5月22日「マクニカと富士エレクトロニクスが経営統合 半導体商社」
- 電波新聞デジタル 2021年2月2日「マクニカがマクニカネットワークス吸収10月1日付」
- 日刊工業新聞 2020年10月15日「インタビュー/マクニカ社長・原一将氏 DX実現 顧客と伴走」
- 週刊東洋経済 2023年12月23日号「【第1特集 2024年 大予測】Part3 産業・企業 マクニカホールディングス インタビュー 社長 原一将 再編の流れが加速し、商社間の格差が拡大」