ジャパンエレベーターサービスホールディングス地域エレベーター保守会社の連続買収と、地域事業子会社への吸収合併による全国保守網の構築

自前の営業か、地場業者の買収か——設置台数が頭打ちの国内市場で保守契約台数をどう積んだか

時期 2020年4月
意思決定者(推定) 石田克史・上田耕平(社長COO) 会長CEO
論点 全国保守網の構築とグループ統合
概要
2020年4月のセイコーエレベーター子会社化を皮切りに、ジャパンエレベーターサービスホールディングスが地域のエレベーター保守会社を年に数社の速さで買い、2015年に置いた地域別の事業子会社へ吸収合併して全国の保守網を埋めた経営判断。買収は2025年3月期まで途切れなかった。
背景
国内のエレベーター設置台数は一定の高さを持つ建物にほぼ行き渡り、保守はメーカー系列が握っていた。独立系の同社は価格を武器に契約を伸ばしたが、自社の営業だけで地域を面として埋めるには時間がかかった。地場の保守業者では経営者の高齢化も進んでいた。
内容
首都圏・関西・四国・東北・沖縄と、数百台規模の地場業者を地域ごとに子会社化し、既存の地域事業子会社の営業区域へ載せる。2021年3月期の1年で連結子会社は15社から23社へ増え、買った会社は順次、地域子会社へ吸収合併して法人を畳んだ。
含意
保守契約台数は2020年3月期末の54,000台超から2025年3月期末の約113,520台へ積み上がり、連結売上高は213億円から494億円になった。一方で連結子会社数は30社で頭打ちとなり、集めていたのが会社ではなく契約台数であったことがうかがえる。
筆者の見解

台数を買い、会社は畳む

この連続買収を、成長企業が資金力で規模を買った話として読むと、順序を取り違える。同社が持株会社へ移り、北海道から東海まで地域ごとの事業子会社を置いたのは、最初の買収より5年早い2015年4月であった。受け皿を先に用意していたからこそ、セイコーエレベーターの800台も昌和輸送機東北の約230台も、既存子会社の営業区域へそのまま載せられた。石田克史会長CEOが集めていたのは会社ではなく、保守契約台数とそれを回す技術者であったとみられる。

もっとも、この型が回ってきたのは、買収先がいずれも数百台規模の地場業者にとどまっていたからでもある。買収と吸収合併を同じ速さで進めた結果、連結子会社数は2022年3月期末の30社から増えず、のれんも同じ期末の25億円を頂点に減っている。11万台を超えてなお国内シェアは会社推計で8%程度にとどまる。買った会社をひとつも残さずに畳んできたことは、手に入れたかったものが看板でも法人でもなかったのを示しているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

設置台数が頭打ちの市場で、契約台数を積む

国内のエレベーターは一定以上の高さを持つ建物にほぼ行き渡り、再開発で建物ごと更新されることはあっても、総設置台数が伸びにくい市場になっていた。保守は納入したメーカーの系列会社が担うのが通例で、本体価格を抑えて保守料金で回収する価格体系が長く続いていた。1994年設立のジャパンエレベーターサービスは製造を持たない独立系として競争力のある価格を掲げ、保守契約台数を2018年3月期末の43,000台超から2020年3月期末の54,000台超まで伸ばしていた[1][2]

もっとも、自社の営業だけで地域を面として埋めるには時間がかかった。同社は2015年4月に会社分割で持株会社へ移り、北海道・城南・城西・神奈川・東海の事業子会社5社へ保守・保全業務を移していた。2017年5月に関西、2019年4月に九州を加え、地域ごとに営業を受け持つ法人を先に置いた。有価証券報告書の中長期的な経営戦略にも、地域別の事業子会社制とM&Aによる事業エリアの拡大が、一つの文として並べて掲げられていた[3][4]

地場業者の承継と、上場企業という受け皿

エレベーター保守の地場業者は、数百台規模で一つの県から数県を回る小さな事業体が多かった。同社が最初に手を出したのは、2019年4月に信越地区への事業拡大を目的として子会社化した上新ビルサービス(新潟県上越市)で、地場のビルメンテナンス業者としては上位の実績と知名度を持つ会社であった。2019年3月期末に3百万円にすぎなかった連結のれんは、この1件で2020年3月期末に2億65百万円へ増えた[5][6][7]

買収を担う体制も並行して整えられた。2020年6月、住友銀行から三井住友カード、ビックカメラを経て2017年5月に同社顧問、2018年6月から常勤監査役を務めていた上田耕平氏が、取締役社長COOに就いた。創業者の石田克史氏は代表取締役会長CEOとして残り、金融と上場企業の実務を知る人物が執行を担う布陣となった。2017年3月の上場から3年が経ち、株式と借入で資金を用意できる立場が整っていた[8][9]

決断

2020年、保守会社そのものを買い始める

2020年4月17日、同社は既に12.2%を出資していたセイコーエレベーター(東京都千代田区)の株式を追加取得し、議決権の68.09%を握って子会社化した。首都圏を中心に800台以上を保守する会社で、狙いは保守契約台数の増加による首都圏の事業基盤強化、共通のサービス提供エリアにおける人的資源の相互活用、技術ノウハウの提供によるサービス品質の向上の三点に置かれた。取得価額は開示されなかった[10][11]

ここから買収が連なった。2020年8月にNSエレベータ、10月に三好エレベータとコスモジャパン、11月に関西エレベーターと長野エレベーター、2021年1月に東京エレベーターと続き、2021年3月期の1年で連結子会社は15社から23社へ増えた。連結のれんは13億96百万円増えて16億61百万円となり、子会社株式の取得に11億17百万円を投じた。新株予約権の行使による34億96百万円の払込みが、その資金を支えた[12][13][14]

買った会社を地域子会社へ畳み込む

買収の型は年を追っても変わらなかった。2024年9月に決めた昌和輸送機東北(仙台市・約230台)でも、狙いは東北地方における事業基盤の強化、共通のサービス提供エリアでの人的資源の相互活用、技術ノウハウの提供によるサービス品質の向上と、2020年のセイコーエレベーター案件と同じ三点が並んだ。数百台規模の地場業者を地域ごとに拾い、先に置いてある事業子会社の営業区域へ載せる作業が、四国から首都圏、沖縄、東北へと順に及んだ[15][16]

買った会社は法人として残されなかった。2022年9月に城西がコスモジャパンを、2023年5月に関西が関西エレベーターを、同年7月に城南がセイコーエレベーターを、同年12月に城西がトヨタファシリティーサービスを吸収合併し、2024年4月には北海道がエミックを吸収した。合併の目的は、グループとしての運営強化と、営業力および技術品質・サービス品質の向上に置かれた。買収と統合を同じ速さで回す作業が、この時期の経営の中身であった[17][18]

結果

11万台の保守網と、増えない子会社数

保守契約台数は買収の分だけ跳ねた。2020年3月期末の54,000台超に対し、最初の買収が並んだ2021年3月期末は約67,500台、以後2022年3月期に約79,000台、2023年3月期に約88,630台、2024年3月期に約100,230台、2025年3月期に約113,520台へ積み上がった。連結売上高は2020年3月期の213億円から2025年3月期の494億円へ、営業利益は27億円から86億円へ伸びた[19][20]

一方で連結子会社の数は、2022年3月期末の30社に対し2025年3月期末も30社と横ばいであった。買収を重ねながら数が増えないのは、地域子会社への吸収合併で法人を畳んでいるためである。連結のれんも2022年3月期末の25億47百万円を頂点に、2025年3月期末は18億35百万円へ減った。週刊東洋経済は2023年、同社を昇降機保守の独立系首位と紹介し、国内保守市場のシェアは会社推計で8%程度と伝えた[21][22]

出典・参考

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